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闇に飲み込まれた謎のメトロノーム  作者: 八戸三春
第一章
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21話 心の安らぎ

その後、二人は街の広場にたどり着いた。

ちょうど雨が降り始め、二人の服を濡らしていくが、アリスはまるで気にならない様子だった。

彼女の足元にはたくさんの動物の死体と血の痕があった。

ここで何をしていたのか? 

それは容易に想像がついたが、あえて空もアリスも聞かなかった。それよりも、空の体を休める場所を探す方が先決だった。

しかし、どこもかしこも既に安全な場所ではなくなっており、雨宿りできる場所などどこにもなかった。そんな中で、一つだけ雨宿りができそうな場所があった。

それはこの広場の中央にそびえ立つ大きな樹木だった。その大樹は根を張っており幹も太く、枝の葉も雨宿り代わりになるため、空とアリスはここに一時避難することにした。

幸い、その木の陰に入ると雨は一滴も垂らさず、凌ぐことができた。右ポケットから医療用品ポーチを全部取り出し、二人は空の手当てを始めた。


エリザベスによって受けたダメージは予想以上に深く、空は苦しそうだった。空は自分の傷口を消毒し、針で縫って、包帯を巻き始める。

その様子を見て、アリスは心配そうな表情を見せたが、空は強がった表情を浮かべて笑った。

刺さった破片と背中の弾痕を縫うのは、相当な痛みを伴ったが、空はそれを歯を食いしばって耐えた。

そして、空の手当てが終わると、アリスは手持ちの医療用品キットを使って空の治療を行っていた。

しばらくしてある程度傷口が塞がってきたようだ。だがまだ完全に治ったわけではないため、傷の痛みが彼を襲うのだろう、接合した傷は触れるだけで神経に激痛を与えるため、空は苦悶の表情を浮かべた。


「くっ!」

空は歯を食いしばって耐えようとしたが、その痛みは相当なものだった。

そんな彼の様子を見たアリスが心配そうに声をかけてきた。空は自分の情けない姿を見られたことが恥ずかしくて、彼女に対して強気で、「大丈夫だ」と答えた。

それでもなんとか平静を保ちつつ、彼女に笑顔を向けたが、逆にそれが苦痛の表情と重なってしまい、却ってアリスを心配させてしまう結果となった。

二人はその後も傷の治療を続けたが、同時に、体力の消耗も激しく、強烈な眠気に襲われた。

空はなんとか目を開けていたが、アリスは完全に眠ってしまったようで、彼の足を枕代わりにして眠りに落ちた。

空はため息をつきつつアリスの体を抱き寄せるとそのまま倒れ込んで曇り空を眺めた。

いつの間にか、雨が降り止んでいたようだが、地面はまだぬかるんでいるため、空は泥だらけになってしまった。雲を眺め、空は自分の人生について考えた。

幼少期に将来、歌手になる夢を持ち、毎日練習をしていた。しかし、それは叶わず、化物たちとの戦いに身を投じる運命となった。時間を許してくれなかったが、この戦いが彼の運命の分岐点だった。

絶体絶命の状況で彼は多くの戦いを経験し、心身共に強くなった。


戦って生き延びるために。こうやって、次の戦いが始まる時は来てしまうのだが、2人は常に生き死にをかけた世界の中で生きているわけだから、

こんな雨の日でも眠りながら時折、空の袖を引っ張る。それに対して、嫌そうな顔をしながらも内心とても喜んでいる様子だ。

だが、実際には、今の空たちにとって、雨宿りをする場所があるだけでも幸福な状況だったといえるだろう。

もし、今いる場所に雨宿りできなかったら、間違いなく死んでいただろう。幸運にも、アリス達はその命運に救われたのだった。

あとは救助隊が助けに来てくれるまで待つしかない。寒気を防ぐために、ジャケットをアリスの体の上にかけてた。

だが、それに気づいた彼女は起きたようで、うめき声を上げながら起き上がろうとする。

空を真っ先に見てくる、その目は疲れていたようだが、心はまだ休まらないようだ。

傷の痛みが、いつ再発するか分からなかったからだ。しかし、空はアリスに安心させるような微笑みを見せた。そして、自分が今まで一番大変だったと思ったことを思い浮かべた。


その1つはエリザベスとの戦いだ。彼女はとても強く、空たちは苦戦を強いられた。

おそらく、アリスがいなかったら今頃死んでいたかもしれないというほどだっただろう。だが、今となっては冷静に分析することができる。

そう感じることで、少しずつ心が落ち着いていく気がした。エリザベスとの戦いでは、エリザベスを追い詰めることができたが、逆に追い詰められた。

最終的に試合中止で終えることができたのはよかったと言えるだろう。しかし、彼女の攻撃は相当強力だったため、これからはより油断できない戦いが続くに違いないと思った。

でも、少し安心したことがある。アリスが無事だということに。だから、彼女とはこれからも共に戦っていけると思った。

アリスが起き上がってくると、その眼は少し潤んでいて顔も紅潮していた。

そして、空が何も言わずに自分を見ているのに気づき、恥ずかしさを隠すために俯いたまま頬を膨らました。

でも空は機嫌よさそうに微笑んでいるだけで何も言わなかったので、アリスはもっと恥ずかしくなりそっぽを向いてしまった。


空はそんなアリスの様子を見て、悪いと思いながらも笑ってしまい、それを見たアリスはますます恥ずかしくなって俯いたまま黙り込んでしまった。

二人にとって、それは日常的な光景で、心が安らぐ瞬間だった。やがて空の方から口を開いた。

「俺は平気だ。水中訓練には慣れてるから」

空は少し強がった口調で話した。

その様子を見たアリスは、少し呆れつつ安堵の表情を見せた。だがそれと同時に不安も感じていたようだ。

だから、空はそんな彼女を励ますことにした。

「お前の方が痛かったんだろ?無理しなくていいよ」

そう言って空は優しく笑いかけた。その姿勢を見て、アリスは安心した表情を見せた。そして彼女はそっと空の胸に顔をうずめた。空はそんな彼女を優しく抱きしめると、彼女を守るように包み込んだ。すると、アリスは彼の胸に顔をうずめたまま呟いた。


「ありがとう」

空は微笑み返すと、アリスの頭を優しく撫でた。そして、二人は無言のまま空に抱いていた。二人が横になっているところはぬかるんだ地面だったが、何故か心地良い感じがした。ふと、空が何かに気づき、空を見上げた。そこには雲の切れ間から星々が見えた。その美しさに二人はしばらく見とれていた。だがしばらくするとまた雨が降り出してきた。雨粒がポツリポツリと落ちてくるのを感じた空は、アリスの手をそっと握った。彼女はそれに気づいて空の手を握り返すと、そっと彼を見た。その瞳には僅かに涙が浮かんでいたが少し微笑んでいるように見えた。空はそんな彼女を見て、胸が高鳴るのを感じていた。彼女がとても愛おしく思えたからだ。だが、それと同時に不安も感じていた。彼女は自分を助けてくれたが、将来を考えるとまだまだ不安だらけだった。これから何度も危険な目に合うかもしれないし、死に直面することもあるかもしれない。そう思うと少し怖くなってしまうのだ。だから空は心の中で誓ったのである。彼女を守るために全力で努力しようと、そしてこれからもずっと一緒にいようとー その後も二人は寄り添っていたが、やがて眠気が襲ってきたようで、同時に欠伸をした。空はそんな彼女を見て微笑んだ。そしてそっと目を閉じて眠りについた。

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