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闇に飲み込まれた謎のメトロノーム  作者: 八戸三春
第一章
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17話 アリスの予想外の行動

翌床。空はあの晩の出来事を思い返していた。――記憶が思い出せない。

空はそう思いながら、天井を見上げた。あの夜のことはよく覚えているが、どうしてもあの記憶が鮮明にならないのだ。

まるで夢を見ていたかのような錯覚に襲われるほどである。あの凄惨な光景も、そして恐怖も鮮明に思い出せるのに、どうしても一部の記憶が欠如しているのだ。

――ダメだ、思い出せない……。

空はため息を吐いた。公園や牛丼屋での出来事も、断片的にしか思い出せないのだ。

だが、ひとつだけ確実に覚えていることがある。それはあの時何故電柱の花束に手を合わせたのか、なぜ彼女が通っている通学路で立ち止まったのか、あの時の彼女の想いの真意がいまだに分からないことだ。

それらだけは今も謎のままである。しかしそれは彼女にしか分からないことなのだろうと思い、諦めることにした。

「空、お腹すいた」と、アリスが呟き、その声で空は我に返った。

いつの間にか時間が過ぎていたらしい。空は再び冷蔵庫を開けて焼きそば一袋と残り四個の冷凍たこ焼きを取り出し、レンジに入れて温め始めた。

しかしその時、ふと手を止めた。そして何かを考えるかのようにアリスを見つめた。それはあまりにも数秒の出来事だったが、アリスが不思議に思うのには十分だった。

だが、空は何事もなかったかのように食事の準備を再開した。

――危なかった。もし、今の表情を見られていたら、彼女に怪しまれていたかもしれない。

そう思いながら焼きそばを机の上に置き、箸と飲み物を出した。

そして椅子に座ると、「いただきます」と言って食べ始める。

焼きそばをフォークで食べていると、彼の様子をうかがうように、アリスは話しかけた。

「ごはんおいしい?」

空はうんっと答えると、焼きそばを口に含んだ。すると、アリスは笑顔で言った。

「もっと食べていいんですよ」

空はありがとうと礼を言うと、再び食べ始めた。そして完食した後もペットボトルの烏龍茶を飲んで一息ついた。

――ひとまず安心してくれたかな?

空は静かに息を吐くと、牛丼屋の思い出に思いを馳せた。何故牛丼屋で大盛りを頼むのか、そもそも少食なのに、どうして頼んだのか。

思い出そうとしても、何一つ思い出せないのだ。それどころか、それを思い出すことすら億劫になっている自分がいることに気付いた。

――もうどうでもいいや。

空はそう思うと、箸を置いて立ち上がった。そして机の端に置いてある財布を手に取って中身を確認してみたが、1円すらも入っていない。

――牛丼代か?

空は財布をベッドに放り投げた。金がないのに牛丼屋で贅沢した自分に、嫌気が差したのだ。

「腹は減ってなかったんだけど、久しぶりに食べたくなったんかよ」

空はそう言って目を逸らした。まるで自身の不満を吐露するかのように、言葉に棘がある。

アリスは心配そうに声をかけるが、空は冷たい返事を返した。

――思い出したくないことや知られたくないことは、口にするもんじゃないな。

少し休んだらまた出かけようと決めてソファで横になるのだった。急にアリスがソファの上で正座をすると、真剣な眼差しで空を見つめた。空は驚いて上半身を起こし、アリスを見た。

――なんだ? まるで今から告白でもするかのような雰囲気だ。

空は戸惑いながらも彼女の言葉を待ったが、一向に口を開かない。数秒の沈黙の後、アリスは窓を真っすぐに見つめながら、震える声で告げた。

「ベータ144の反応がありました」

空はその言葉の意味を理解するまで時間がかかった。

――反応?なんのことだ?

空はようやくその意味を理解した途端、戦慄した。つまり、あの悪夢のような出来事がまだ終わっていないと、そう言われたことになるからだ。

アリスの鍛えた危機察知能力は嘘偽りのない事実を伝えていた。

「――早く車に行かないと」

空はアリスの腕を摑むと、玄関に向かって走った。装甲車のドアを乱雑に開けて、運転席に飛び乗った。だが、アリスは車に乗り込んだまま微動だにしない。

その様子を不審に思い、声をかけると、「空、どこ行くの?」と、アリスは尋ねてきた。

――何を言ってんだ? まさかこのまま逃げる気なのか?空はため息を吐くと、彼女の腕を掴み、強引に引っ張った。

しかし、彼女は頑なに動こうとしなかった。

――早くしないとまたあの目に逢うかもしれないのに!

空はそう叫びたかったが、実際に口から出たのは冷たい言葉だった。

「外に出たければ一人でどうぞ」

空はそう言ってドアを閉めようとする直前に、アリスは手を伸ばして、空の腕を掴んだ。彼女は今にも泣きそうな表情で空に訴えた。

「車を止めて! お願いだから、降りて!」

「なんでだ! 俺は一秒でも早くここから抜け出したいんだよ!」

空はそう怒り返して、強引に腕を振り解いた。しかし、アリスはそれでも諦めずに車に乗り込み、助手席のドアを開けて乗り込んだ。

そして、空の腕を掴んだ。それはまるで、親に置いて行かれそうになる子どものような必死さが感じられるものだったが、彼は苛立ちを抑えられなくなっていた。

空は片手でアリスを振り払おうとするが、アリスは決して離そうとしない。

むしろ、より強く掴んできた。

そして、彼女は彼の胸に顔を押し当てた。母親に甘えるかのような仕草だった。

――なんなんだよ、 いい加減にしろよ……。

空はそう思いながらも、アリスを突き放すことができなかった。

すると、彼女が顔を上げてこちらを見つめてきた。その瞳は涙で濡れており、今にも溢れ出しそうだった。

空は動揺し、振り払おうとしていた腕から力が抜けた。アリスが車を停止する理由をやっと理解した。俺と同じ考えだったのか。空は後悔に苛まれながらも、車を走らせ続けた。

車を停止したらまたあの目に遭うかもしれない。しかし、このまま逃げていてもいずれ追いつかれるかもしれない。

――くそ! どうすれば良いんだよ!

空は苛立ちながらハンドルを叩いた。

その時、ふとルームミラーを確認すると、助手席のアリスがドアをこじ開けて、外に出ようとしているのが見えた。

――何をしているんだ?

空は慌ててブレーキを踏んで停車させると、彼女はシートベルトを外して、後方のドアも開けると外に出た。

アリスが、車から離れて全く違う道に向かおうとしているところだった。

空は、アリスに向かって叫んだ。

「違う! そっちじゃない! 車に乗ってくれ!  頼むから、戻ってこい!」

しかし、アリスは車の中に入る気配を見せない。空は舌打ちすると、自らも運転席を降りてアリスの元へ駆け寄った。

その瞬間、装甲車の横に白い一軒家が崩れ落ちてきた。そのおかげで、空とアリスは間一髪で難を逃れることができたのだった。

辺り一面に瓦礫や破片が飛び散り、強烈な砂煙が舞っていた。空は咄嗟に目を細めると、耳を澄まして状況を確認しようとした。

しかし、周囲は静寂に包まれており、悲鳴一つ聞こえなかった。どうやら誰も怪我をしていないようだったが、空は不安を隠しきれなかった。

「予知してたのか!? どうして、もっと早く言ってくれなかったんだ!」

しかし、アリスは無表情のまま答えなかった。

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