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闇に飲み込まれた謎のメトロノーム  作者: 八戸三春
第一章
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16話 ソラ

空が家に帰ろうと足を速めたとき、ソラが空の腕を掴んだ。

空は何事かと思ってソラを見ると、彼女の口元にはほのかな微笑みがあった。そして、彼女は口を開いた。

「ちょっと寄り道しない?」

そう言われて連れて来られた場所は駅近くにある公園だった。

夜も遅い時間なので人影はなく、真っ暗な中にただ外灯の光だけが寂しく照らしてるだけだった。

ソラは空の腕を掴んだまま、公園の奥へと進んでいく。空は恐る恐る、彼女についていった。

そして、彼女は足を止めた。そこには小さな公園があり、ブランコと滑り台、鉄棒が設置されているだけで目新しいものは何もなかった。

しかしそれでも、この公園には不思議な魅力があった。何かに引き込まれるような不思議な感覚があるというか、独特な雰囲気が漂っているのだ。本当に公園がここにあるのかと疑ってしまうほどの、静かな雰囲気である。ソラは空の腕を掴んだまま、公園の中に入っていく。そして、ブランコに腰掛けた。空は彼女が何を考えているのか分からず、困惑した表情を浮かベていた。そんな彼の手を取って、ソラはブランコに腰掛けるように促した。

空は言われるがままにブランコに座ると、再び困惑の表情を見せた。

それから暫くの間、二人は無言のまま公園での時間を楽しんだ。静かな夜の帳の中で、二人の吐息だけが闇の中へと消えていく。


隣に座っているソラのことを見ていたが、その表情からは彼女が何を考えているのか全く読み取れなかった。

もしかして自分に気があるのかとも思ったが、ソラは人と違って天然で落ち着いた雰囲気があるので、そういうことはないだろうと思った。

そして、空を見上げた。空には星は見えなかったが、代わりに月が見えた。美しい満月が二人を静かに照らしていた。その時、ソラが口を開いた。

「月が綺麗ね」

そう言うと、ソラはゆっくりと目を閉じた。そうして空の方に顔を向けると、彼女らしくない優しげな笑みを浮かべた。

それに対してどう反応すればいいのか分からずに戸惑った表情を浮かべていたが、とりあえず彼女と同じ様に目を瞑った。ソラの温もりを感じながらは空を見上げ続けた。

暫くの間、目を閉じたまま思考を巡らせた。

 自分は何故、こんな夜遅くにソラと二人で公園にいるんだろうか?

どうしてこんな状況になったのか?


そんなことを考えていると、やがて眠くなってきた。空は目を開けて隣を見ると、ソラはまだ目を閉じていた。それから数分が経った時、ソラは目を開けた。

そして彼女は立ち上がると、空の方を見た。その顔には優しい笑みが浮かんでいる。

それはまるで女神のように美しい笑顔だった。空はその表情に見とれてしまい、何も言えなかった。

しかし、次の瞬間、ソラの顔から笑みが消えた。その表情には先程までの優しさはなく、逆に悲しい表情を浮かべた。そして、ソラは空の頬にそっと手を添えた。

そして一言だけ、呟いた。

「寒いのかな? 顔の感覚、ないもん」

ソラの手が触れた瞬間、空は自分の体が冷え切っていることに気づいた。さっきまでは寒さを感じなかったのに、どうしてだろう?

そう思った時、ソラの手から風が流れてくるのを感じた。ソラは体温を分け与えるかのように、そっと手を包み込んだ。


その手は温かく、彼女の手に徐々に熱が伝わってきた。その温かさに包まれながら、空は目を閉じた。すると、雪の結晶が肌に当たると目を開けた。

うっすらと積もった雪を見て、空は微笑む。どうやら今日は本当に冷え込むらしい。しかし、この公園だけは別世界のように温かい雰囲気に満ちていた。

そのまま二人は公園の中で座っていたが、ソラは立ち上がって歩き出した。そろそろ帰る時間なのだろうと思い、空も立ち上がった。

そして、二人は公園を出た。帰り道は途中まで一緒だったので、空はソラと一緒に歩いていた。しかし不思議と、先程の奇妙な感覚はなくなっていたのだった。

空の足の速さに追いかけるソラ。空の表情がいつもと変わらないことを知り、安堵するソラ。

そんなことを考えながら歩いていると、空は突然立ち止まった。眼の前の景色が地獄絵図のように血の色に染まっていたからだ。

空の視界に映る景色は、あまりにも衝撃的だった。空は呆然とした様子で目の前に広がる光景を見つめ続けた。そこに広がっていたのは凄惨な現実そのものだった。地面や建物、木々に至るまで全てが真っ赤に染まっていたのだ。

血だまりの中に横たわる人の姿が点在しており、それを別の人が何度も踏みつけて倒れている者の身体を持ち上げていた。そこは阿鼻叫喚の地獄絵図のような状況だった。


「ソラは……」

空が何かを言おうとした瞬間、ソラが後ろから抱き着くようにして支えてくれた。

「どうしたのですか? 怖い夢でも見ましたか?」

ソラの優しい言葉が、空の耳に染み込んでいく。空は安心しきってしまい、力が抜けてしまったようだ。

空はソラに支えられたまま、その場に座り込んでしまった。空から見た地獄絵図はあまりにも衝撃的だった。

しかし、空はそれ以上のものを目にしてしまったのだった。恐怖のあまり身体が震え、涙が頬を伝う。その様子を見たソラは心配そうに尋ねた。

「何があったのですか? 教えてください」

ソラの優しい言葉を聞くことで、空は落ち着きを取り戻した。そして、空は小さな声で呟いた。

「何でもない」

そう言って立ち上がろうとするが、上手く立てなかった。どうやら腰が抜けてしまっているらしい。空にはまだ何が見えてるのか分からなかった。しかし、ソラが空を支えて立たせてくれたとき、空は後ろを振り返りソラを見ると、苛々で頭を掻きむしった。


「大丈夫だ! 大丈夫!」

空は吐き捨てるように言うと、ソラを振り払って歩き出した。そして、そのまま歩いていくのだった。

空は落ち着いてきたが、それでもまだ悪夢から覚めたような感覚だった。

恐怖のあまり足が竦んでしまい、前に進めない。空は深呼吸をして心を落ち着かせようとした。しかし、それでも胸の動悸は治まらず、頭がクラクラするような感覚に襲われていた。

あまりの気分の悪さに吐き気さえ感じるほどだ。家に帰れば落ち着くだろうと思い、空は再び歩き始めた。

あの景色は消え、幻覚を見ていたという結論に達したのだ。空は自分の見ている現実が信じられず、頭を押さえた。それから、再び歩き始める。


しばらく歩いていると、空は見覚えのある場所に辿り着いた。そこはいつも通っている通学路だった。

「ここは確か私が通ってた通学路ですね。ここで友達と話をしたりしてました」

ソラは懐かしそうに周囲を見回している。空はそんなソラの表情を見て、複雑な気持ちになっていた。

「昔を思い出して感傷に浸ってんのか? 俺はいいよな、昔の思い出が消えてるんだもんなあ」

空はそう言ってぼやくと、そのまま先へ進んだ。すると今度は川沿いの道に出た。この道は彼女にとって思い出深い場所だ。幼い頃からよく通っていたので、彼女にとってお気に入りの場所でもあったのだ。

「覚えていますね。この道を歩いて学校に通っていたことを知ってますの?」

ソラはそう言って懐かしそうに川の景色を眺めた。空はそんなソラに答えることなく、無言で歩いている。

そして最後に道の電柱の脇にお花と水が入ったペットボトルが供えられていた。そこに手を合わせ、祈る。

「残念ですね。誰も助けられず殺されていくのは悲しくなるのですね」

ソラはそう言って、空と一緒に手を合わせた。空は何も答えなかった。ただ、無言のまま手を合わせているだけだった。


その後、空は分かれ道で立ち止まった。

空は呆然とした様子で、ソラを見た。そしてソラは一言だけ呟いた。

「それでは、さようなら。またいつか会いましょうね」その言葉は空の耳に染み込み、まるで女神のように美しい声として彼女の心に響くのだった。

その温もりに包まれてしまい、空は思わず泣きそうになってしまった。しかしすぐに我に返り、言葉を放った。

「あぁ……いつかな」

ソラは空に背を向けて帰ってしまった。しかし、空はもう振り向かなかった。

これ以上の感傷に浸ったところで、何も変わらないのだ。ただ虚しいだけなのだ。

空は遠くなっていくソラの背中をずっと見つめていたが、やがて自分も帰ろうと歩き始めたのだった。

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