12話 無関心な少女
自宅にも戻ってみたがやっぱりいなかった。最後に探しに行ったのは、光に照らされた廃墟の教会だった。教会のドアをノックしてみるとドアから現れたのは、小柄な痩せた白く流れるような短い髪の少女で、目には闇に閉ざされた光も無い瞳。
そして車椅子に乗ってた。空が挨拶すると、少女はニコッと笑ってくれた。空は質問をしてみることにした。
「久しぶりだなユキ、幼少期以来だな。アリスを知ってるか?」
そう言うと、空はスマホから写真を見せた。
ユキはしばらく黙っていたが、何かを思い出したのか口を開いた。
「ああ、アリスってあの人?」
ユキが答えると、空はほっとした顔になった。すると彼女は言葉を続けた。
「今居ないですよ。もし来たら伝えておきます、どこに行ったのかは分からないけど」
それを聞いた空はガッカリした。やはり、市民の手伝いは当たり外れがある、3千万人の人口に集中してるノヴァシティの市民じゃあ協力は難しい。
「ここに居ても怪物に襲われるだけなので、この中なら安全です」
ユキがそういうと、空はお礼を行って中に入ると、奥には十字架、そこには目の前まで椅子が並べられていた。空は椅子に腰を下ろすと、ゆっくりと腰掛けた。
すると、隣にいたレナも自己紹介を始めた。レナも自己紹介を終えると、空はは考え込んでしまった。空が黙っていると、レナはそっと声をかけた。
すると、空は考えるのをやめてユキの方を向いた。
「本当にアリスが居ないのか?何かあったのか?」と聞くと、ユキは首を横に振り否定した。
「そうか……まいったな調査が進まない」と空が言い、席を立ち上がるとドアの方に向かう。目撃情報が薄いため、行動しない事には進まない。
「何でアリスさんにこだわるの?」
ユキの発言に足が止まり、思わず聞き返した。
「あいつは俺の大切な仲間なんだ。放っておいたらまずいだろ? 」
そう言うと、ユキは眉を傾げて空を見つめる。
「この世界でアリスさんみたいな人は沢山いるよ。空くんが探す必要なんてないと思う」と、ユキは言うが空は、はぁ?っとなり、思わず声を張り上げる。空は驚きユキを凝視したが、ユキの方は冷静だった。
「だって、アリスさんは見た目が子供だけど大人でしょ?だから、自分の事は自分でやってくれると思うの。それなのに、空は何で彼女にこだわるの?」
その疑問に、空は苛立った。
「お前はどうなんだ? 自分の事を自分で出来ないのなら、それは大人とは言えないだろ」と言うと、ユキは言い返そうとしたが、何も言えなくなった。
しかし、ユキと見つめ合っても空は平然とした表情で返す。
「悪いが、お前の挑発に乗るつもりはないからな。人の事をあれこれ言う前に、自分がどうなのかを考えたらどうだ?」
空は冷たい声で言う。レナも空の発言に同意のようで、特に反対しなかった。
でもまだユキは不満そうな様子だった。
「でもゲノム編集をした少女達は皆さん、年齢が10歳ぐらいで成長が止まっています。平均は10年です。それ以上保有期間を超すと増殖や繁殖など、本来の人間としての生き方を放棄してしまい、最終的に重要な遺伝子情報が破綻し、やがて死に至る。なので高性能のゲノム少女、アウレリアは、擬似的なクローンと言えるかもしれません。コストが高いですが、保有期間は30年と最長になっています」
その発言にアリスの調査を諦めさせるようにしか聞こえず、空は再びユキを睨んだ。だが、ユキは平然としている。それどころか、少し嬉しそうな顔さえしていた。
空は苛立ち、椅子を叩く。
「あのなぁ!お前には分からねぇと思うが、アリスは元々殺処分対象だったんだ!欠陥だらけの廃棄処分になる予定だったのを、俺が頭を弄らせて半人半獣として特別保護したんだ!それが、お前は、こいつなんてどうでもいいってなるのはおかしいだろ!」
空が怒鳴るように言うと、ユキは首を傾げながら言う。「私は、別に構いませんけど」
その言葉を聞いて、空はユキに近付くと、彼女を引っ叩いた。
パン!乾いた音が室内に響く。叩かれたユキは呆然としながらその場に立っていた。しばらくして、空は我に返ると、慌てて謝った。「悪い」そう言うと、空の額に汗が滲み始める。レナも状況が分からず空に声をかけようとする。
「えちょ!? え!? 神薙くん!? 何をしてるの!?」
あまりの理解できない行動にレナが動揺しながら空を見つめた。
ユキの頬は赤く腫れ上がっていたが、ユキが涙を堪えてた。それを冷やそうと、レナは自分のハンカチで彼女の頰を優しく押えた。空は震えている様子で、呆然としていた。
すると、レナは空の目をまっすぐ見つめながら言う。「アリスを助けたい気持ちは分かるけど、少し冷静になって。彼女だって、自分の人生を犠牲にしてまで貴方に尽くそうとしているのよ」
その発言に、言い訳をする。
「その言葉がそいつの口から出てくると、腹が立って」
「神薙くん!! いい加減にしなさい!!」
怒鳴るレナの声。その声に空は自分が冷静でないことに気付く。
空は気分が落ち着かないまま教会の外に出て行った。
レナはユキに優しく微笑んだ。
アリスについて話す前に叩く姿にレナは意図不明だった。
彼女が不平不満を言うのは理解できるが、まさか叩くとは思いもしなかった。
ショックのあまり唖然としていたらユキは、「レナさん怖がらせてごめんなさい」っと慰めてくれたので少しだけ気持ちが和らいだ。
「あの人は真面目で努力家なんだけど、急に熱くなると目の前のことしか見えなくなっちゃうみたいなの」
レナさんがそう言うとユキは首を振を横に振って、そして口を開いた。
「大丈夫です。真面目に努力できる人間は才能がある。そんな人が今目の前に現れて、しかも敵になってしまったことは少し寂しいですが、仕方ありません。それに、私はアリスさんを見捨てたわけではありませんよ。もし、彼女を救い出す手立てがあるのならどんなことだってしてやります。その気持ちだけは分かってほしいです」
ユキは淡々と言う。だが、その言葉の節々から彼女の優しさが滲み出ていた。
「ありがとう、ユキさん」
レナが微笑むと、ユキも笑顔になった。すると、レナは端の方に指をさした。
そこには、横で寝転がるアリスがいた。レナは驚くと、アリスに駆け寄った。そして、その顔をじっと見つめながら口を開いた。
「寒そうしにてた所を私が引き取りました」
ユキは、アリスの頰を優しく撫でると、彼女の顔が綻んだ。
「お疲れのようですね。よほど、体力を使ったのでしょう」
ユキはそう言うと、アリスを抱き上げて自分の膝に乗せた。そして、そのまま抱きしめると、彼女の髪を撫でた。
すると、アリスの表情が柔らかくなり少し顔を赤らめながら目を閉じていた。その様子はまるで赤ん坊のようで愛おしかった。
しばらく時間が経つと、膝の上で寝息を立てて眠っていた。そんな彼女を見て微笑んだ後、ユキはレナに顔を向けた。
「レナさん。私がアリスさんを助けたことを、あの人には内密にお願いします」
レナは頷いた。そして、ユキは自分の頰を撫でながら続ける。
「まぁ、彼も信頼のおける方ですから大丈夫ですが」
彼女はフフッと笑うと、レナは少し安心できたように頷いた。だが、そう簡単に終わる訳でもなかった。




