プロローグ
ノヴァシティ。そこはかつてエレメントホルダーが集まる都市で新たな都市世界、魔法と神秘的な存在が存在していた。この世界では、人々は身近な遺伝子を持ち、様々な種族が共存している。しかし、遺伝子の力を巡る争いや闇の勢力の影響により、世界は危機に瀕してた。あの頃の街は今のように活気はなく、空虚感に支配されていたのだ。街の人々は日々の生活に追われるばかりで希望を失っていた。そして闇の存在は人々を絶望へと導いていた。そんな時代に生まれた一人の青年がいた……。
2025年3月1日(土曜日)午前3時半頃―― ノヴァシティに突如現れた異常な現象。それは、空が暗転し、まるで夜が昼のように白く光る瞬間だった。人々は恐怖し、震え上がりながらもその異常現象をただ見守ることしかできなかった。何も知らず、ただ生活していた者たちの前に突如現れたその光景は、未知の力が再び目覚めたことを予感させるものだった。
その時、街の外れに住む少年は、何かが起こることを感じ取っていた。彼はエレメントホルダーとしての特異な能力を持っていたが、それが周囲に知られることはなかった。自分の力が危険であることを理解していたからだ。
だが、あの光が空を覆った瞬間、上空から激しい爆発音が響き、空気が震えるような感覚が街全体を包み込んだ。
そして、街の中心から遠く離れた場所で、甲高い鳥の鳴き声が響き渡った。少年はその音に引き寄せられるように、無意識のうちに足を進めていた。普段ならば避けるような危険な場所も、今はただ無視できなかった。光の異常現象と爆発音、それに続く鳥の鳴き声が、何か運命的な出来事を予兆しているような気がしたからだ。
「早く逃げないと……」少年は心の中でつぶやいた。本能的に少年は足を速め、街の外れへと向かって走り出した。
「ねぇ!! 助けてー!!」
声が遠くから聞こえた。少年はその声に反応し、思わず足を止めた。しかし、直感的にそれが危険な兆しだと感じた。光の異常現象と爆発音が続く中、どこからともなく現れたその声は、誰かが助けを求めているサインだったのかもしれない。
「ねぇ!! 誰かー!!」
「何が起こっているんだ……」
少年は自分を落ち着かせるように呟いたが、心の中の焦燥感は収まらない。近くから響く助けを求める声に、少しでも人を助けたいという気持ちが湧き上がった。
「誰かー!!」
その声は、街の外れのさらに奥深くから響いていた。少年は足元の瓦礫に気をつけながら、声の方向へと走り続けた。その先に待っていたのは、一人の女性だった。彼女は倒れていて、身動きが取れない様子だった。血に染まった服と顔から、何かが起こった証拠が見て取れた。
「大丈夫か!?」
少年は必死で駆け寄り、女性に手を差し伸べた。しかし、その瞬間、彼女の目が突然、赤く輝き、彼の手を振り払った。
「近づかないで……! あなたも危ない……!」
少年は驚きと共に後退し、その警告を耳にした。しかし、彼の心の中では、助けたいという気持ちが強くなり続けていた。
「大丈夫です、今助けます!」
少年は急いで瓦礫をかき分けて女性の元へと向かおうとしたが、突然、空から甲高い鳥の鳴き声が再び響き渡るとその霧から大型の飛行する生物が現れ、空を覆うように舞い上がった。生物は鋭い眼光を放ちながら、地面に向かって鋭い叫びを上げた。その瞬間、少年は身体を硬直させ、危険を感じ取った。
「やばい……!」
彼は本能的に身をかがめ、急いで瓦礫の影に防いだ。次の瞬間、女性の悲鳴が響き渡り、その悲鳴を見渡すと鳥の鉤爪に女性が捕まっているのが見えた。彼女の体は空中に引き上げられ、鋭い爪が彼女の肩に食い込んでいた。悲鳴が空気を震わせ、その光景に少年の心は冷え切った。
「おい、待って……!」
少年は一瞬、何も考えられなかった。どうしても手を伸ばして彼女を救いたいという衝動が押し寄せる。しかし、目の前で繰り広げられる光景に、彼は立ち尽くすしかなかった。目の前の飛行生物の巨大な影が彼に迫り、恐怖が身体を支配する。
その瞬間、鉤爪を離すと女性は空中で一瞬、無重力のように浮かび、まるで時間が止まったかのように見えた。しかし、次の瞬間、地面に激しく叩きつけられる音が響き渡った。彼女の体は瓦礫の中に落ち、無惨に倒れている。
「あっ……!」
少年はすぐに飛び出し、彼女の元へと駆け寄ろうとしたが、空から降りてきた巨大な影が再び彼の前に立ち塞がった。飛行生物はその鋭い目を少年に向け、またもや鋭い叫び声を上げた。その恐ろしい音が少年の体に冷たい震えを引き起こし、まるで命の危険を感じた。
「こんな……」
頭の中が真っ白になる。どうすればいいのか、どうやって助けるべきなのかがわからない。ただ、目の前の状況に圧倒され、動けない自分を感じていた。
だが、ふと地面を見ると倒れた男性の隣に銃が落ちているのに気づいた。少年はその銃を見つけると、直感的に手を伸ばし、それを掴み取った。重みを感じながらも、銃を手にした瞬間、少しだけ落ち着きを取り戻すことができた。
「来いよ……怪物」
少年は深く息を吸い込み、手にした銃をしっかりと構えた。その冷たい金属の感触が、彼に少しだけ力を与えた。しかし、飛行生物は一向にその場を動こうとせず、鋭い眼光で少年を見据え続けている。まるで、彼の行動を試すように。
「これが俺の……力だ」と少年は小さく呟き、恐怖を感じながらも決して目を逸らさず、銃を生物に向けた。
空気が重く、周囲の音がすべて遠ざかっていく。少年の心臓の鼓動だけが、自分の耳に響くように感じる。その瞬間、彼は思い出した。自分がどれほど、他人を助けるためにこの力を使いたかったのか。そして、今こそその力を使うべき時だと。
飛行生物は再び鳴き声を上げ、羽を広げて少年に向かって突進してきた。そのスピードはまるで嵐のようだったが、少年はその動きを見極め、間合いを保ちながら銃を構えた。
「来るな!」
少年は叫び、引き金を引いた。銃口から放たれた弾丸は空を切り裂き、飛行生物の大きな翼に命中した。生物は一瞬、動きを止め、空中でバランスを崩した。その隙に少年はさらに弾を放ち、今度は生物の目の前に一発、正確に撃ち込んだ。
痛みによろめきながらも、生物は必死に空を舞い、怒りの叫びを上げた。その声は地面に震えを引き起こし、少年は一瞬、その声に包まれたように感じた。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、再び銃を構えた。
「終わりだ!」少年は再度、銃を撃ち込み、飛行生物の背後にあるエネルギー源と思われる部分を狙った。弾が命中し、強烈な爆発音とともに生物は大きく震え、崩れ落ちた。
その瞬間、周囲の空気が一変した。光が再び瞬間的に暗転し、異常な音が響き渡る中で、少年は力を使い果たしたかのように膝をついて息を荒げていた。頭が痛み、目の前がぼやけ始める。
「俺、やった……のか?」
その時、女性が倒れている場所から音がした。少年はすぐに立ち上がり、彼女の元へ駆け寄ろうとしたが、足元がふらつき、倒れそうになるのを必死にこらえた。
「大丈夫か?!」少年は彼女に声をかけたその瞬間、バキッという関節の音が響き渡った。
少年の背後から響き渡り、彼は本能的に振り返った。すると、そこには先程の女性を貪り食う巨大な飛行生物が再び現れていた。その背後には、血に染まった羽と、鋭い爪を持つ新たな怪物が、倒れた女性を食っているのが見えた。目の前で繰り広げられる恐怖の光景に、少年の体が凍りつくようだった。彼が銃を手にしたまま立ち尽くす中、血の匂いが鼻をつき、すべてが暗闇に包まれた。
「どうして……」少年は震える手で銃を握りしめ、力を振り絞って再び立ち上がった。しかし、前回の戦闘で消耗した体力と精神力が限界に達しつつあり、足元がふらつく。
その時、巨大な飛行生物が食事を止め、少年に向けて鋭い目を向けた。その眼光はまるで、少年を試すかのように冷徹で、無情だった。
「ひっ!」
情けない声が喉から漏れ、少年は自分の体力の限界を感じていた。しかし、その恐怖の中でも何かが彼を動かしていた。
少年は何度も自問自答しながら、倒れた女性を助けるため、再び銃を握り直した。血の匂いが立ち込め、空気は重く、恐怖が全身を支配している。しかし、心の奥底で何かが叫んでいた。もう逃げられない。今こそ自分が持つ力を使うべき時だ。
彼の手から銃を握る力が少しずつ強くなり、少年は深呼吸をして、冷静さを取り戻す。
「くらえ…!」
少年は必死で立ち上がり、目の前の飛行生物に向かって再び銃を構え、トリガーを引く瞬間、カチンという音が響いた。しかし、銃からは弾が発射されることなく、静寂だけが広がった。少年は驚きと共にそのマガジンを見つめ、弾丸が尽きていることに気づいた。
「嘘だろ……? 弾切れ……?」
少年はマガジンを握りしめたまま、冷たい汗が額を伝うのを感じた。弾切れという現実が彼の心を締めつけ、絶望が一気に押し寄せてきた。
「さっきの射撃で弾切れってこと? 嘘だろ……」
弾薬が付きたと悟った瞬間、すべての希望が一気に崩れ落ち、膝をついて座り込むまでいった。
巨大な飛行生物はその時、鋭い鳴き声を上げ、少年に迫り始めた。少年はどうしようももなく、息が詰まりそうだった。目の前の巨大な飛行生物が一歩一歩迫るたび、彼の心臓は激しく打ち、全身が震えていた。もう逃げる力も、戦う力も残っていないような気がした。
そんな絶望なその瞬間、急に巨大な飛行生物はその動きを止め、空中で何かに引き寄せられるように目の前で方向転換をした。少年はその異変に驚き、息を呑んだ。
飛行生物がまるで自分に迫ることをやめたかのような動きを見せた瞬間、羽を広げ、突然飛びその時、目の前で急な足音が聞こえた。少年はその足音に、目を見開いた。
目の前から現れたのは、彼が今まで見たことのない人物だった。光のせいで顔は見えなかったが、白いドレスで、美しい雰囲気がその人物に天使のような存在感を与えていた。
その人物が近づいてくるにつれて、少年は一瞬その存在が何か特別であることを感じ取った。だが、眠気に襲われ、少年の意識は徐々に遠のいていった。その人物が近づいてくる様子を感じながらも、彼は力尽きて膝をつき、目を閉じようとした。
「誰……」
少年は心の中で願った……。