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02.緩慢な死-Do or Die.-

02.緩慢な死-Do or Die.-

目を覚ます。それで、色々なことがわかる。

夢でなかったこと。見渡せばわかる。

もともと何もなかったかのように、更地である。

生きていることはわかる。どうすればいいのかは、わからない。


独りだということに気が狂いそうになる。

役に立たない、いらない子だったとしても、優しかった。

いじられて、いじめられて、仲良くなって、嬉しかった。

でも皆は喜んで人の肉を食べていた……だから滅びた。


顔を思い浮かべ、涙を浮かべて。でも食事風景を思い起こせば、悪魔のようにも見える。

きっと何かの理由がある。あったところで……わからない。変わらない。

ぐるぐるとループする思考が止められない。

結局のところ、孤独になった自分が可哀想で、泣くことしかできない。


死ぬための道具はない。そんな勇気もない。

救いを求めて、ただ願うだけ。緩やかな自殺とも言えるかもしれない。

二日も経てば、空腹に耐えられなくなる。

死にたいとか、死んでいればよかったとか思っていたくせに、渇望する。


生き残るために……知識を探る。地図を見たことがある。近くに村があるはずだ。

食事を求めて……水が先だろうか。

そうして接触を求め、歩き始める。

今のここはまっさらであり、少し小高い丘の上にあるので、方角はわかりやすい。

遠くに見える森林とは真逆の方に隣村はあるはず。

地図上では近かったが、縮尺を知らない。それでも動くしかないのだが。


…………約何時間経ったろう。以前は十五分も歩けば疲れていた。

今、足を止めれば、絶対に……もう二度と、動けなくなる…………

呼吸が苦しい。けれど、段々と気持ちよくなってくる感覚もある。

歩き続ければ……太陽の動きで時の経過がわかってくる。



止めるな、止めるな、止まるな……だんだんと意志は弱くなる。

どの程度頑張ったかがわかるせいで、どれほど頑張っても何も見当たらないという絶望感に飲み込まれて……崩折れる。道が欲しい。進むための道。


そうして日の落ちるしるし……夕暮れ。

「あぁぁ……」

声を上げたのが、久しい。

何もできないまま、見送る。暗くなって……沈む。


何も見えない。そういえば、明かりのある道中も何も見なかった。

他の生き物も、鳥すらも消え失せてしまったのだろうか。

というか、きっと、何も足を踏み出さないまま。村があったところで寝ているのだろう。

それか村がなくなったことすら……ただの悪夢。けれど、目覚めることはなかった。


暗闇の中……音が聞こえた。ような気がする。耳を澄ませば……たしかに聴き取れる。

もっとも、聞きたくはなかったものだが。

人とも獣とも取れる興奮した複数の声。魔物。だろう。

英雄譚を読めば、序盤に出てくる魔物はゴブリンと相場が決まっている。


そういった作品には、哀れな被害者も付き物で。

自分の貧弱さに、憧れはあっても現実味がない読み物。

勇者や英雄と相対的に強弱を示すための名もなき犠牲者に共感してしまう僕だった。

そういうわけで、僕はこれから魔物の餌になって死ぬだけの、ただの子羊というわけだ。


誰よりも飢えているのは僕だろう。そう思いつつも怒るだけの力がないので諦める。

弛緩した方が筋張ってなくて美味しいだろうと力と気を抜いているのに……敵は来ない。

僕を食べて楽にさせて欲しい。そう思ってずっと待っているのに、苛つく。

思い起こせば、これまでの人生。大体のことに、腹が立つ。


生まれつきの体の弱さ。自分のせいではない。

肉が食べられない。アレルギーはしょうがないだろう。

その肉はヒトの肉だった。知ったことではない。

それが理由で罰された住民。生かされた僕。本当に苦しんでいるのはどっち?


ていうか、天使って何?そんなに偉いの?強いの?強さってなに?

天使がいるってことは神様、いや神もいるってこと?

魔物がいるなら魔王もいるし、魔法だってあるわけだ。村に使える人はいなかったけど。


勇者という人がいるなら、会ってみて言いたい。

「なんで救ってくれなかったの?」

魔王という存在がいるなら、問いたい。

「なんで神や天使を滅ぼしてくれないの?」

天使や神に会って、轟かせたい。

「小さくて弱い存在を消してる場合なのー!?」


心に決める。死ぬまでは、足掻こう。殺し続けよう。自分の弱い心すら。

脳に冷水を打ち込まれて、背に氷の柱が通ったような。

覚醒。全能感を得る。

最初に問いただすのは、付近にいるきぃきぃ煩い魔物だろう。


「どうしてそんなに……怯えているの?」

「軽く殴ってしまえば、一発でお終いの、僕みたいなものに」

ずっと目を閉じていたからか、夜目が効き、ゴブリンを捉えることができた。

数は三体。僕が近づけば彼らは逃げる。


なぜなのか。追うと、嘔吐。

「いや、吐きたいのはこっちだよ。臭いし」

ゼロ距離まで近づくと、正しいやり方がわかる。

掠め取るように、心臓を掴む。

取り出したそれを掲げれば、持ち主も含めた全員が怯えて逃げていく。


それがまだ動いていること、生命の躍動に。そしてそれを刈り取ることに、感動した。

「あぁ……きっとこれだ」

このせいで、村は滅ぼされたのだ。

解体という能力。命の効率的なとり方。それが優れていれば、なんでも食の対象になる。

たまたまそれが、ヒトの肉だったんだな……


死んだゴブリンは武装していた。

携えた短剣を貰う。重いけど、なんだかしっくりくる。

もう一つ欲しい。片手の重厚感によって、空いた手とのバランスが悪いから。

他の一つが逃げ去った方向へと駆ける。


走る。ということができる。速い、早い。一息で追いつく†

そしてそれは短剣を刺し入れたことに気づいていない。

前に躍り出て通せんぼする。

短剣が抜かれていることにも、気がつかない。


驚く。何に。

彼、彼女かもしれない……は、見た。見てしまった。

自らの心臓を。

心臓がないという違和感はわからない。胸に手を当てて疑問符を打つのが見て取れる。


傷ついていないが、虚ろ。

何もわからないまま、それは倒れた。

彼の落とした短剣を拾い、空いた片方に持つとしっくりくる。

次々と湧いてくる未知の感情。落ち着くべく、大きく深く呼吸する。


歓喜、恐怖、快楽、憎悪。今まで持ったことがなかったものがはっきりとある。

どこまでも行ける気がして、疾走する。方角はもうわからない。大変だ。

でも、まっすぐ、どこまでも行こう。全力で賭ける。駆ける。翔ける。

暫く疾走していると、路を見つける。


そうか、人が往来する道は舗装されているものだ。村の中もそうだった。今はないが。

見つけると、途端に疲れ……

「あ、落ちる……」

眠気に抗えず……道路上に崩れる。

(どうか馬車などに轢かれませんように……)

おやすみなさい。


復讐は何も生まないかもしれない。

それでも僕は剣を取った。

原動力は怒りだったけれど、今は嬉しい。


せっかく育ててくれた両親、かわいそうだ。

婚姻を控えてうきうきしていた姉、かわいそうだ。

物心がついてから歩幅を合わせて一緒にいてくれたアン、かわいそうだ。

意地悪だったリック、仲良くなれば他のいじめっ子から守ってくれた。かわいそうだ。


「全部、殺すから……」

総て、「かわいそう」にしてあげるから。

魔物も魔王も天使も神も。

立ちはだかるものは尽く……

それはとても甘美なもので、同時に背徳感がある。それに酔いしれながら、惰眠を貪る。

みんな、ごめん……


03.不機嫌なお嬢様-A Rumble lady-に続く

終末ものなので週末に投稿していこうかなぁと

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