01.アマツツミ-SWEET SIN, SPIT IN.-
01.アマツツミ-SWEET SIN, SPIT IN.-
僕は生まれつきお肉が食べられない。食べるとアレルギーが出るから。
このヴァーレ村では赤子の頃からお肉を食べる習慣がある。
そんな中で健やかに育つのはなかなか難しいものがあった。
体が弱くて、泣き虫で弱虫のヨナ。それが僕に貼られたレッテルだ。
そんな風に育ち、十三歳のある日。友達と遊んでいた日常のひととき。
初めは稲光が走った。何の前触れもなく。
落雷かと思い、空を仰ぐ。いつもの空に、普通ではないもの。
天からくだる大きな光の塊が、辺りを照らす。
住人は皆、逆光で浮かぶたくさんのシルエットを見る。
それは人の形をしているが、美しい羽を持っていた。
「天使様だ……」
そう口にしたのは、たまたま近くにいた……
「肉を食べないと強くなれないぞ」
そうやって僕をいつもからかうおじさん……そんな想起の間に彼は消し飛ぶ。
何が起こったのか。今度は照射される光線が見えた。その線上、遅れて爆発が起きる。
「罪ヲ犯シタ」
白い羽のそれらは次々と光を飛ばし、淡々と声を響かせる。
人じゃないものが人に似せた音が、耳につんざく。
天使は言葉が足りないようだ。
「つみって、なに?」
隣にいた幼馴染のアンは、腰を抜かして失禁していた。
汚いな……と思う。そのときはまだ何も実感がなくて、後にそれを悔いることになる。
そんな不浄な彼女もまた、汚れとともに跡形もなく弾け飛ぶ。
騎士を模した姿のそれらは何にも構うことなく、すうっと浮遊して進軍する。
ただただ破壊光線を投射する彼らは剣や槍を持つが、それに意味はあるのだろうか?
そんな逃避した思考の先、僕の番。
ほとばしる閃光。あまりの眩さに目を開くことができない。
後ろからは勇敢な友達、リックの叫びが聞こえる。怒りか、恐怖によるものか。
両方かもしれない……それを耳に捉え、覚悟を決めて待つ。
……………………?
目を開く。それはまだ続いていた。
光、破裂。透過、爆発。
人も住居も道の傍に並ぶ出店も路地の舗装すらも消えていく。
すっかり何もなくなった。なぜか僕を除いて。
「罪とは、なんですか?」
ひとしきりの破壊を終えた、一際大きな天使にそう尋ねる。
先ほど消えた……友達だったアンよりリックより、僕には本を読む時間と学びがあった。
罪という単語がわかるくらいには。体調によって家にいることが多かったから。
「肉を食べただろう」
本物の騎士ならがちゃりと音がしただろう、兜をずらしたそれは言う。
「ヒトはヒトの肉を食ってはならない」
きぃと雑音の混じる声質が耳障りで。言っていることもわからないが、理解はした。
赤ちゃんの頃に吐き出し続けた。
両親が、姉が、毎日食べ続けていた。
友達が一緒に遊んでいる間、屋台で買い食いしていた。
お店で串刺しにされて焼かれ提供されていた。
精肉店で売られていた部位ごとの塊。
それらが。
「人肉だったのか……」
追いついたところで、弾ける。
正負が入り乱れたあらゆる感情。皆への想い。意識の断絶…………
02.緩慢な死-Do or Die.-に続く
終末ものなので週末に投稿していこうかなぁと