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目指せ、普通の冒険者。後編

「……って落ち込んでいる場合じゃないってば!」


 私は慌てて同威力の『水球』をぶつけ、消火を計る。

 ざぁざぁと降り注ぐ滝により炎は消し止められた。

 それだけでは不十分だ。『土操』で溶けた地面を盛り上げ、『木操』で的っぽい木を生やす。

 ……ふぅ、何とかそれっぽく戻せたかな。

 ちょっと地面がボコボコしていて、的が色んな所に生えているけど……まぁ元の訓練所に見えなくもない。多分。そういうことにしておこう。


「えーと……おほほ。こんな感じでどう、でしょう……?」


 恐る恐る尋ねると、レジーナはあんぐりと口を開けていた。

 ……いいわけないよね。どうやら完全に呆れられているようだ。

 こんなザマでは文句も言えない。仕方ない。ここは再試験に望みを掛けるしか――


「今の魔術、とても素晴らしかったわっ!」


 立ち去ろうとする私を振り向かせると、レジーナが私の手を取ってきた。


「ただの『火球』がなんて威力! 他の魔術も尋常ではないわ。思った通り……ううん、それ以上の逸材よ。粗削りだけど磨けばすぐにでも光りそうなまさに宝石の原石だわ!」


 いきなり褒めちぎってくるレジーナに呆気に取られる。

 な、なになに? 一体何が起きたの? 困惑する私にレジーナは豊かな胸元に手を押し当てると、自己紹介を始めた。


「実は私、冒険者ギルドだけでなく魔女結社にも所属しているのよ」

「魔女結社というと……世界各国の魔女が集まるアレ?」

「そう、ソレ」


 私の問いにレジーナが頷く。

 様々な『物語』で描かれる魔女だが、世間的には女性魔術師の総称であることが多い。

 そんな彼女たちの集まりが魔女結社なのである。


「怪しいおばさまたちが悪巧みをしている、と聞いてますが」

「あはは、大体合ってるわね」


 可笑しそうに笑うレジーナ。今の別にウケを狙ったわけじゃないんだけどな。


「私はそんなおばさま方を取り仕切る十二魔女の一人、紅のレジーナとか呼ばれているわ。聞いたことないかしら。そこそこ有名なんだけど」

「申し訳ありませんが……」


 正直魔女業界にあまり興味はないのだ。

 しかしレジーナはそれを気にする素振りもなく、私に問う。


「私の趣味は才能ある若者を見つけ、弟子として育成することなの。才能の原石を磨き上げるその過程が楽しくってね。まぁその成果を評価され十二魔女になったワケ。冒険者をやってるのも新人発掘に都合が良いからよ。……でも魔術師って少ないのよねぇ」


 ため息を吐くレジーナ。魔術師というのは魔術書やら何やらでとにかくお金がかかるし、適正もある為、絶対数が少ないのだ。

 私も実家が裕福じゃなければ魔術書を手に入れるのは不可能だったし、そういう意味では感謝もしている。


「まぁそんなわけで今日もイイ子がいないかと探していたら、あなたを見つけたってワケ。見た瞬間ピンと来たわ。そして期待通りだった。――ねぇアゼリア、あなた私の弟子にならないかしら?」

「お断りいたしますわ」


 即答すると、レジーナは石化したように固まった。

 何やらショックを受けたようでピクピクと瞼を動かしながら、落ち着けるように深呼吸をする。


「り、理由を聞いてもいいかしら……?」

「私は冒険者になりに来たので。魔女になるつもりはありませんもの」


 きっぱりと断るが、レジーナは諦める様子もなく詰め寄ってくる。


「あなたの才があれば、必ずすごい魔女になれるわよ? そうなれば地位も名誉も思いのまま! あれだけの魔力を鍛えないなんて勿体無いわ。このまま放置するなんてまさに人類の損失よ。私の後継に推してもいい! だから私にあなたを育てさせてっ!」

「うーん……」


 熱烈な言葉に私はしばし考えたのち、


「やはり興味ありませんわ」


 ぺこりと頭を下げ、断った。レジーナはガクッとずっこける。

 じっくり考えたけどやっぱり魔女には冒険者程の魅力を感じないのだ。


「そ、そう……そこまでキッパリ断られちゃ、これ以上誘えないわね……」

「申し訳ありませんが」

「いえ、いいのよ。他を当たるわ……って言っても君程の才の持ち主には、二度と会えないでしょうけど……はぁ」


 重たいため息を吐きながら寂しそうな背を見せるレジーナに、私は声をかける。


「あの、弟子にはなれませんけれど、仲間になるというのは如何でしょう?」


 キョトンとするレジーナに私は続ける。


「ほら、冒険者と言えば仲間と力を合わせて困難を乗り越えるのが王道ですわ。一緒に冒険すればレジーナさんも私に色々教えられる。お互いに取って利益があると思うのですが」

「仲間……」


 レジーナはしばし呆けた顔をした後、プッと噴き出す。


「あははっ! 出会ったばかりの私と仲間になりたいって? 弟子は嫌だけど仲間ならいいって? 十二魔女の私と? あははははっ!」


 一体何がツボに入ったのだろう。

 笑い転げるレジーナを眺めることしばし、ようやく落ち着いたのか笑うのを止め、こちらを見た。


「――いいわ。このレジーナ=ミンストレル。あなたの仲間になりましょう」

「本当っ!?」

「えぇ、魔女に二言はないわ」


 レジーナはそう言って手を差し出す。私はその手を握り返した。


「ふふっ、よく考えたらいきなり弟子になれ、とか不遜もいい所よね。今まで十二魔女とかAランク冒険者とか持ち上げられていたけど、思い上がっていたみたい。非礼を詫びるわ」

「気にしないで下さい。私が魔女になりたくなかっただけですわ」

「あら、『物語』では悪役として描かれることが多いけど、魔女も意外といいモノよ?」

「知ってます。そういう『物語』も大好きですもの」


 薬草を作って民を救う魔女、小さな村を一人で守った魔女……気味悪く思われがちだが、色々な良い魔女を私は『物語』で知っている。

 私自身は魔女になりたくないが、仲間としては大歓迎だ。魔女の仲間って冒険者っぽいしね。


「……って、そういえば私、まだ冒険者試験合格してないんだった」

「そんなの私がどうとでもするわ。これでもAランク冒険者、ギルドにも融通は利くからね」

「えっ! そんなこと出来るんですの? レジーナさ――むぐっ!?」


 そう言おうとした私の唇にレジーナは指先を当てる。


「敬語はナシ。それが仲間の流儀よ」

「……そうだよね。よろしくレジーナ。ありがとう!」


 私の言葉に満足したようにレジーナは笑う。


「ぷっ、いきなり距離を詰め過ぎよ。……でもまぁ、そっちの方が断然いいわ」

「あ、そお?」


 敬語って結構疲れるから、長く話していると崩れがちになるのだ。

 でも仲間同士で敬語はおかしいもんね。『物語』でも基本、タメ口だもの。


「これからよろしくね。アゼリア」

「うんっ! レジーナ」


 大きく頷く私に、レジーナはウインクを返す。

 こうして私は仲間を得て、冒険者となった。

 どんな困難が待ち受けていようとも、愛と勇気と友情で巨悪に立ち向かう、そんな『物語』に出てくるような冒険者に私はなる!

 そんな決意を胸に秘め、私はこれからの日々に心躍らせるのだった。

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