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冒険開始! その前に念入りな準備を。前編

 実戦、その言葉と共にキリアが取り出したのは一枚の依頼書。

 そこに書かれているのは近郊に出現し、悪さをするゴブリンたちの討伐であった。


「ゴブリン討伐っ!」


 それを見た私は思い切り反応する。

 新人冒険者が乗り越えるべき最初の壁、登竜門的依頼である。

 必要とされるのは戦闘だけではなく、長期の仕事になる為に食料の用意などの生活力、移動中襲われない為の索敵力、それを持続する集中力、何かが起きた時の対応力、その他諸々……冒険者として必要な能力の基本が詰まっており、まさに集大成とも言えるものだ。


「今のアゼリア君には丁度良いかと思ってね」

「いいね! いいね! 楽しそうっ!」


 もちろん、私の胸を躍らせるには十分過ぎるほど魅力的である。

 剣術修行の仕上げというわけか。うんうん、わかってるなぁキリアってば。


「何時いかなる時でも剣を振るえるのと、それが剣士として最も必要な能力だ。それを発揮しさえすれば何のことはないだろう」


 キリアの言う通りだ。練習で出来たことが本番では上手くいかないというのはよくある話である。

 その為には実戦が一番手っ取り早い。


「でもいいの? ゴブリン討伐ってそこそこ日数がかかるものよね。キリアは仕事があるから街を離れられないんじゃない?」


 規模にもよるが討伐依頼が出されるようなゴブリンの群れは決して小さくない。

 その数は最低でも十匹は超え、洞窟などを巣にして要塞化していたら特に厄介だ。

 場合によっては数日以上かかるだろう。……まぁそこまで脅威度の高い依頼はあり得ないと思うが、その期間キリアの仕事は出来ない。どうするつもりなのだろうか。


「案ずる必要はないよ。この討伐依頼は聖騎士団に来たもので、本来は私がこなすべきものだからな」

「そっか。よかった」


 いくら何でも言うこと聞いてくれると本人が言っているとはいえ、仕事の邪魔をするのは気が引けるもんね。私にだって多少の遠慮する気持ちはあるのだ。


「よーし、それじゃあまずは準備だよね。買い出しに行こう!」


 私は腕を突き上げ、おー、と声を上げるのであった。


 ◇


「おぉー、ここが商店区域! 人がいっぱいだ!」


 冒険者の街ガイゼルをそう足らしめているのが、この商店区域だ。

 武器屋、防具屋、道具屋、その他諸々様々な店が集まっており、冒険者たちが稼いだ金を景気よくばら撒く場所だ。

 おかげで街で一番発展しており、勿論飲食店なども豊富である。

 私たちは近くの美味しいと評判のカフェにて作戦会議を開くことにした。


「さて、何を買うのかしら? と言ってもゴブリン討伐じゃ、そこまで必要ないと思うけれども」

「うむ、多少の消耗品を用意するだけで事足りるだろう。手分けして手早く終わらせるとしよう」

「甘いね、二人とも」


 びしっ、と人差し指を突き立てて、私は言う。


「ゴブリン討伐はすっごく危険なんだよ! 別名新人殺し、舐めてかかったらとんでもない目に遭うんだから」


 更に言葉を続ける。


「そう、ゴブリンというのは戦闘力自体は低いけれど、常に群れで行動し、道具を使う知能を持った厄介な魔物。遠くから石だって投げてくるし、どこぞで拾った武器防具を身につけている時もある。更には天然の毒を使うことも……しかも巣へ入れば危険は倍増、大量の罠が待ち構え、不意打ちや騙し討ちも日常茶飯事、生き残る為にはどんな手だって使うし、油断すると熟練冒険者ですら危うい――それがゴブリン討伐なんだよっ!」


 ふんす、と鼻息を荒くして説く。『物語』で悪役として描かれるゴブリンはとても邪悪だ。故に厳重な警戒が必要なのである。


「え、えぇ……長々と説明ありがとう。でも私たち新人じゃないし」

「そもそもご主人様の存在自体がアレですし……」

「というか危険度を語っているのに、何故そんなに嬉しそうなんだ……」


 三人は何やら引いているが、もっと警戒すべきだと思うけどなぁ。


「ともかく準備はしっかりしなきゃね。ここは分担作業にしましょう。レジーナは食料調達、キリアは武器、私はその他全部を担当ってことで!」


 私の言葉に二人は目を丸くしている。


「おいおい、大丈夫なのかいアゼリア君。食料や武器は適当でいいが、その他はかなり判断が難しいだろう。道具の良し悪しなどわかるのか? それなりに熟練している僕たちに任せた方がいいと思うぞ」

「そうよ。野営道具から調理器具、ランタンに傷薬……意外と必要なものは多いわ。足りない物があったり、逆に多すぎたら困るわよ」

「大丈夫、任せてみてよ!」


 ドンと胸を叩いて見せるが、それでも二人は不安げだ。


「大丈夫。これでも街に来てからというもの、暇さえあればガイドブックや何やらを読んで色々勉強しているんだからね」

「そこまで言うなら、まぁ……」

「えぇ、何事も経験ですしね。それに不備があれば僕たちでどうにかすればいいだけな話ですし」


 渋々と言った様子で二人は頷く。

 むぅ、信用ないなぁ。よーし、ここはいい仕事をして見返してやるぞ。ふっふっふ。

 ともあれ、かくして私たちは三手に別れ、物資の調達へ赴くのだった。

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