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つれさらんば

作者: 中将

「いたらなにやらこのあいだにそらしね」

「かなりやばしぬきやまこのやま」


西日が差し始めた電車内。

座っている私の前にグレーのスーツを着た初老の紳士が吊り革につかまって立っている。

そしてその横に16歳くらいとおぼしき色白のなかなか美人な女子高生。

時折、ぽつりぽつりとこのような怪しげ意味不明な会話をし始める。


紳士「そういえばたらんこみたかそらみたか」

女子「うんうん。しらかばなみきによりそえるまいそえぬか」


ちんぷんかんぷんである。

ただ表情をみる限り、おだやかで、なんとなく幸せそうだ。

女子高生は孫だろうか。

ふと、爺さんが胸のポケットからなにやら取り出した。


紳士「まなんだれんばさらまんすらすらさ」

女子「あはは。さくらんまらんぼしってるんさー」


どこぞの方言だろうか。

沖縄の宮古島あたりの方言ならば、こんなふうにまるで外国語のように聞こえても

おかしくない。

爺さんが指につまんでいるものは、どうやら桜の花びららしい。

女の子はさっさととりあげてポイと捨ててしまった。

爺さんは笑って、またポケットから花びらをとりだす。


女子「かなりんすらっばーしょうがなくひろったりするんば」

紳士「つぎつぎまさらんぷりうすねんぴばらぱらよー」


プリウス燃費ぱらぱら?

わけわかんね。

爺さんが出しては女の子がぽいと捨ててしまうものだから

次々と花びらが私の足やあたまの上に舞い落ちてくる。


ふと女の子が気付いて、私に手を合わせる。

私はおもわず手を振って

「いやいや。ねんぴぱらぱらかまわんよー」

と言った。


爺さんと女子高生は顔を見合わせて、にこっと笑う。

周りの乗客が気になってあたりを見渡すと、みんな眠ってしまっている。

車内アナウンスが聞こえてきた。


「つぎはぁ~つれさらんばれんばー、つれさらんばれんばで、おりたすきをつけ~ん」


あれ?

そんな駅あったっけ。

ドアが開くと女子高生が私の手をとった。

どうやら一緒に降りよう、と言っているようだ。

桜の花びらをまきながら爺さんがドアの向こうの光の中に消えていく。


「つれさらんばれんばー、つれさらんばれんばー」


なんだかうっとりするような、いい匂いがする。



女子高生の白い指を握りしめる。



意味なんかどうでもいい、と思いながら。

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