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だいたいハッピーエンド

婚約破棄された聖女(物理)。実家(神殿)へ逃げ帰る。

作者: あかね


「セイレーン、おまえとの婚約を破棄する」


 婚約者のどや顔がうざい。なお、彼は次期国王様である。偉そうというより偉いのでそこは目をつぶるけど。

 こんな時にこんな場所でと思わなくもない。

 確か、国内の魔物討伐をねぎらう宴と聞いて主席したのだ。開始時間が遅れて連絡され、慌ててくればいきなりのこれである。

 面食らうよりイラっとする。


「侯爵令嬢であるシリア嬢への無礼な行為は目に余るものだ。

 王族への敬意もなく、命令にも従わぬ」


「ええと。殿下は、聖女って何だと思ってます?」


「神殿からの使いだろう。奇跡の一つも起こせない無能には過ぎた役目だろう」


「聖女の能力は生まれつきですが、年月により力を増すんです。私程度では暁の聖女様の足元にも及びません。それは陛下はご存じで、この婚姻をお望みと聞きました」


「陛下もこれほど能なしで、傲岸不遜とは思わなかったのであろう。おまえの話をするたびに父は頭が痛いと言っておられた」


 ……それ、殿下の態度が、じゃないかな。

 王家からは三代も聖女候補が出ていない。他国の王族から嫌味言われるから、どうにか、どうにかやっと私の輿入れをもぎ取った陛下がかわいそうだ。

 残念なのかよかったのかは不明だが本日は不在だ。卒倒しそうだから、不在でよかったのだろう。イケオジが倒れるのは見たくない。


 殿下の隣には凛とした美女が立っている。侯爵家のご令嬢、シリア様だ。幼いころから神童と呼ばれ、色々な事業を女性ながら行っている。王都の憧れのご令嬢である。

 幼いころに婚約の打診があったところを私との婚約がねじ込まれたようだ。

 裏の噂では、最初から殿下との婚約はお断りしていた。外聞を考えて、裏取引で身を引いたという形にしたらしい。

 怖いな貴族。


 しかし、なぜか、殿下はシリア嬢が気になり、ちょっかいを出しては返り討ちにあったりしているうちになぜか甘々溺愛になった、そうだ。

 そのころ、私は神殿で修業中だったので知らない。


 年の半分は修行なのが聖女なのだ。滝行は夏に限ると言っていた場合ではなかった。残り半分は国内の慰問兼魔物狩りである。

 聖女は聖なる力を武器に込め魔物を狩る職業でもある。それって騎士とか兵士の仕事ではと思うけれど、効率の問題だ。

 魔物は聖なる力に少しでも触れれば無力化できるのだから、とっとと片付けたほうがいい。


 というわけで、お仕事でそれどころじゃないうちに浮気されたのが、私の立場だ。

 そりゃあ、言う。人の男になにしてるんだとか、婚約者がいるのに浮気するのか、とか。浮気ではなく、真実の愛だと言われて真顔になった。

 ああ、なんか、あったな。そういう話と。


 世間に流布してた。悪役聖女が貴族令嬢を虐げて、最後に断罪する物語。歌劇として王族が後援しているとか噂になっていた。

 ものとしては面白かったが、神殿は黙ってないだろうなぁと思う。聖女を悪く言うなら、貸さないと言いだすのが神殿だ。


 人のところの大事な胎を貸してやってんだ、文句あるなら返せというだろう。

 ……聖女じゃなくて、胎というのが肝要である。天然の聖女は存在するが、それだけで各地を賄えるはずもない。なので、天然の聖女を養殖した。聖女の血は継承しやすい。だから、若いうちは子を産ませることにした。

 悲壮な決意は必要ない。

 神殿は各地からあらゆるイケメンを用意した。お好きにどうぞと聖女たちの前に差し出したのだ。


 恋のさや当て事件など色々あったものの、結果的に言えば資質を持つものはそれなりに増えた。

 それは現在も続いている。余計な軋轢を生まないように、聖女はそれぞれの神殿で、好みの男を囲っていた。

 私もここに来なければ、そうなったはずなんだけど。


 殿下も顔はいいけど、神殿の美男美女を見ていると普通だ。あと純粋に好みじゃない。あと十年後においで。


「……というわけでおまえは王妃には相応しくない。婚約を破棄し、あらたにシリアと婚姻する」


 さて、私が回想している間に殿下の発言は終わったようだ。

 隣に立つご令嬢も優雅な微笑みを浮かべている。


 打って変わって私はと言えば、神殿の質素な聖衣に得物の長い棒だけ。正装というより魔物討伐をねぎらうならばということで選んだのだが完全に場違いだった。

 改めて見回してみたが遠征に付き合った正規兵はここにいないのではないだろうか。クマのようなと言われる総大将もいないし、細身の軍師もいない。


 代わりに肥え太った豚めとぼやきたくなるような将軍とか騎士とかがいる。あれはあれで必要らしいので、放置しているけど。

 あいつら、人のことを気弱そうな娘と思って、無理やり寝台に連れ込もうとかする。にこりと笑って気絶されては回収されている。

 あまりにも学習しなくてそういうアトラクションだと思っている。


 私の外装はなぜだか可愛らしい、小動物のような、ふるふる震えて庇護欲を掻き立てるものらしい。正直、聖女仲間は見た目と中身が違いすぎてこの程度の差は普通だ。

 人により、落差に風邪を引きそうだと言いだすくらい。


「承りました。教皇へお伝えします。では、お幸せに」


 それだけ言って、立ち去るつもりだった。


「まて、なぜ、我々に謝罪しない」


「今後のお話は、専任の者を通して話をします。必要であれば今後、謝罪に訪れますがこの場では私には権限がありません」


 聖女としての発言には重みがある。神殿内でも優先されるので、謝罪なんてもってのほかだ。それから私が悪いところがわからない。


「それと大事なところですけど。

 我々聖女は、人々の盾であり、刃である。

 汝らは国を守る盾となる覚悟がおありか?

 刃となりて敵を屠る気概がおありか?」


「なんの話だ」


「否ならば立ち去るが、あるというのならば、わが友よ共に戦おうぞ。

 そういう契約で私たちは、誰とも対等であります。貧民窟の少年でも、王冠をかぶった老齢の王でも我々には同等で、共に戦うわが友です」


 という建前だ。実際のところ、それなりに対応は変えているけど不当は不当だと言わないほど弱い立場ではない。もっとも聖女というのものが、これほど武闘派に傾いていなければやれないことではあっただろうけど。


 神殿からの護衛もなく、一人でいることの意味を彼らは知らないのだろう。


「なにをバカなことを。王権は神より授かりしもの。

 聖女のようなまがい物ではない。聞けば、父を持たぬものであるという。汚らわしい」


「……歴代聖女はそのように育ちますが、一応、血縁上の父はクライス帝と聞いています。時々、パパのとこに来ないと……」


 この国潰しちゃうぞと軽い冗談を言われた。冗談? 冗談ということにしている。今回の婚約破棄を知ったらどうするかなんて気がつかなかった。

 うん。

 悪いな国民。出来得る限り、被害は減らす努力をしよう。彼らは別に悪くない。いつも感謝して、崇めて、少ない収入から寄進してくれるものが多い。

 孤児からもらった半銅貨の価値は重い。花売りの一輪の花。道端のきれいな小石。祈願された手巾。

 それをくれたものたちは踏みにじりたくはない。


「なんだと」


「あー、レーベン帝国の方、いらっしゃいますかー」


「は、はいっ! 姫君にはご機嫌麗しゅう」


 麗しくはないが形式だ。ひょろい地味な眼鏡文官が出てきた。父のセレクトはえぐい。絶妙に私の好みを押してくる。

 惜しい、あと五年と思いながら招き寄せる。びくびくしながら出てくるけれど、この場に出てくるのは外交官なので演技かも。


「セイレーン様はクライス陛下の最愛の息女でございます。

 ご本人より口止めされておりましたので、発言は控えておりました。陛下のところにお戻りで?」


「猊下に会わないと激怒されるから神殿戻り。

 久しぶりにお会いしたいので、おいでくださいと伝えてね」


「かしこまりました」


 そう言って彼はサクッと離脱した。人質にとられる前に全力逃亡。あるいは、私に巻き込まれたくなかったか。


「というわけです。信じるか信じないかはあなた次第」


 ばーんとどや顔をしてやった。効果がないのは渾身のどや顔でもちょっと困った顔と言われる顔が悪い。

 小動物? あれはハムスターね、あいつ、噛むのよと同列の聖女に言われたことがある。なおなに、お色気過剰で純真な貴方に言われたくないとかなんとかじゃれ合った日々が懐かしい。

 帰ったらやーい出戻りと笑われるに違いない。そして、近くの空き神殿はここで、ほら、週一くらいにお茶して、お出かけしてと言いだす。

 もう一人は黙って背後霊のようについてくる。口癖はこんなこともあろうかと(真顔)だ。


「問い合わせればすぐにわかることだ。捕まえろ」


「仕方のない方たちですね」


 公式に、腹立つやつらの面を殴ってやれる建前ができた。

 にやにやしながら棒を一振り。


「戦場の死神聖女と呼ばれておりますの。お見知りおきを」


 聖なる力で出した刃は功罪で痛みが違うそうな。

 うきうきワクワクしていたら、ほぼ空気だったご令嬢がばったーんと倒れた。


「へ?」


「なにかしたのか」


「してない。遠隔操作は不得意です」


 慌てて否定する。脳筋、私がいなきゃダメねと年下聖女に言われたくらいだ。あの子元気かな。

 想定外のことに慌てたままお城を抜け出して、神殿の本部へ逃げ帰ってしまった。私の中の勘が言う。これは残ったらヤバイと。


 それが正しかったと言うのは続報を聞いて分かった。

 侯爵令嬢がしおらしく、婚約破棄はいけません。私が身を引きます。修道院に行きますと言いだしたそうだ。悪役令嬢とか死亡フラグがとか、国が亡びる引き金の悪女って悪夢なのとか言いだしているらしい。神殿の諜報力はすごいなと引くくらい詳細だった。


 なお、神殿は聖女のための施設、教会は人々の祈りのための施設で修道院もそれに含まれる。


 その半月後、電撃的に婚約していた王子が王に即位し世をアッと言わせた。その翌日に先代国王が神殿を訪ねてきた。まだ、40そこそこの渋いイケオジなのだ。なお、王妃は十年くらい前に死に別れている。

 世話になったイケオジの話は聞かなくもないと顔を合わせたのがまずかった。


 王子が王になったのは責任を取らせる意味だそうだ。

 せっかく聖女を婚約者にしたのに婚約破棄するとかぷーっ、くすくすと笑われろということらしい。肩身が今までも狭かったのにさらに狭くするとは耐えられんと譲位したんだそうだ。

 育てた責任について問えば、悪かったと思っているので神殿へ鉱山一つと泉を二つ譲渡したらしい。

 そのうえ、先代本人も神殿の下働きとして働くそうだ。


 ……いいのかそれ。

 しかもそれ私のところらしい。財務会計は任せてほしいって。いや、まあ、そう言う人材は常に不足しているらしいからいいけど。

 いいのか?


 そして、なぜか、陛下の次にはどこぞの王兄がやってきて置いてほしいと言いだし、隠居の大公が話し相手くらいはできるとやってきて。

 なぜか、イケオジ、イケジジばかりが集まってきた。しかも元侯爵や大公、王族などなどが。そのあとから孫がじいちゃん何やってんのと押しかけては居座る謎のループに入り、ショタが増えた。


 なぜだ。


 そう首をかしげながら私は楽しくやっている。

 元婚約者は肩身の狭い思いをしながらも何とかやっているらしい。侯爵令嬢も王妃として支えている。彼女からはわび状と新製品や流行の品を優先的に回してくれる条件で和解済みだ。あと離婚しないことと。

 真実の愛なのだから添い遂げろ(恐喝)したともいう。

 元婚約者に戻ってこられては困る。微妙に執着らしきものを感じて、恐怖だ。


 そういうところは似てないようで似ていると先代を見たりもするけど、気のせいにしておいている。王族の皆さんは他人に譲るなんて精神構造してないので、穏やかな日常が血で血を洗う日常に変化する。

 我が本命はいつでも謎のままなのです。

続きません。

脳内ではこの先、双子が生まれたり、おじいちゃん子に育った子供たちが枯れ専の道を歩んだりしていました。なお、本命は一行だけ出ていたクマでした。いやぁでもなぁ、浮気性の聖女の相手させるのも悪いしとのらりくらりと数年浪費。途中さりげないじじいたちの妨害があったりと波乱万丈だったりしました。大変ですね。

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