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第61話 シアと不穏

 



「天斗、少しいいですか?」


 夢原を家まで送りとどけた後、リビングで原稿を書いていると、仕事をしているからかシアが控えめに声をかけて来た。


「ん? どした?」


 いったんパソコンの画面から顔を上げると、白金の髪を湿らせて首にタオルを巻いたお風呂上りのシアがいた。


 普通に動けるようにはなったみたいだから、明日また身体を拭いてと言われないようにお風呂に入れたのだ。これなら明日は俺がシアの身体を拭く必要は無いだろう。


 あの柔らかさをもう一度この手に‥‥‥っ! と、思わなくもないけど、美少女のえちえちフラグシチュエーションは童貞の俺には役得って思うよりも心臓の悪さが勝ってしまう。できればもう同じことはしたくない。


 今朝はなんとか理性で抑えられたけど、あと一歩何か間違いが起きていたら俺の内なるビーストがバニッシュメントディスワールドしてたところだ。


 ‥‥‥でも、あの柔らかさはなぁ。当分の間は悶々としそうだ。特に、今シアが着てるパジャマとかだと襟がゆるゆるだから思わず目が吸い寄せられそうで‥‥‥。


「天斗、大丈夫ですか?」


「うわっと!? だ、大丈夫大丈夫!」


「ならいいですけど、あんまりお仕事で無理しないでくださいね」


 俺の動揺した反応にシアは困ったような表情を向けてくる。


 ぐいっと覗き込まれたからびっくりしたけど、胸を見てたのはバレなかったみたい、セーフ。


「それで、どうかしたのか?」


 改めてそう聞くと、シアはスッと引き締めた顔になった。何か大事な話だろうか?


 真剣な雰囲気を感じて俺もだらけていた姿勢を座り直すと、シアが神妙に口を開いた。


「夜の間は絶対に私の部屋を覗かないでください」


「‥‥‥うん?」


 シアの言ったことに首を傾げる。それはまぁ、普通自分の部屋はプライベート空間なんだから不必要に入ることは無いけれど、いつもなら「天斗の夜這いを待ってます‥‥‥♡」とかなんとか言ってくるのに珍しい。


「鶴の恩返しか何か?」


「そうですね‥‥‥そうかもしれません。見られたら、一緒にいられなくなっちゃいますから」


「え‥‥‥?」


「とにかく! 何があっても、何か聞こえても、絶対に絶対に私の部屋を覗かないでください!」


「いや、でもそれで一緒にいられなくなるってどういう‥‥‥——っと!」


 その言葉の真意はどういうことなのか聞き出そうとしたけれど、俺に強く言い聞かせるように前のめりになっていたシアが突然倒れてきて、慌てて腕で支える。


「——ぁっ‥‥‥ぐっ、うぅ‥‥‥」


「シア!? 大丈夫か!?」


「だい、だいじょ、うぶ」


 倒れたシアは苦しそうに喉を押さえていてどう見ても大丈夫には見えない。昨日倒れた時よりも体調は悪化してるような気がする。


 また熱でも出たのかと顔を覗き込もうとして、その時ふとシアの口元から牙がちょこんと覗いてるのが見えた。‥‥‥こんなの普段からあったっけ?


 そう疑問に思っていると、弱々しい力で、しかし確かに拒絶の意思を示すように肩を押される。


「はな、れて」


「シア、お前‥‥‥」


 シアはフラフラとしながらゆっくりと立ち上がった。慌てて支えようとしたけれど、直前に拒絶されたのを思い出して、持ち上げた腕は中途半端に空を切った。


「今日は、もう寝ます‥‥‥絶対に、私の部屋は、覗かないでください、ね」


 それだけ言うと、シアは口元を隠して弱々しく微笑み、おぼつかない足取りでリビングを出て行く。


 俺はその様子をどうしたらいいのかわからず、見送ることしかできなくて。


「おやすみ、なさい‥‥‥」


 シアはそう言ったっきり、部屋から出ることが極端に少なくなった。


 その日から、まことしやかにある噂が流れ始めた。


 曰く、真夜中に血を求めて街を徘徊する吸血鬼が現れる、らしい。



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