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第59話 天斗とシアと夢原

 


 ◇◇天斗side◇◇



 しばらくの間は夢原がシアのことを見てくれるということで、それならと俺は留守とシアのことは夢原に任せてスーパーに買い物に出かけていた。


 ‥‥‥せっかくだから安上がりに済ませようと思って、あの魔のタイムセールの時間帯に。今思えば、なぜ俺はそんな無謀を起こそうと思ったのか心底後悔してる。


 その帰り道、日が暮れ始めて夜のとばりが落ちる中、俺はボロ雑巾になった体を引きずるようにして帰路についていた。


「‥‥‥あんなん、死ぬわ」


 それはもう、酷いタイムセールだった。


 引きずられるわ、引っ張られるわ、押しつぶされるわ、吹き飛ばされるわ。あとわざとじゃないのかもしれないけど、勘違いじゃ無ければ妙にお尻とかを触られた気がした。


 あらぁん、若い男よって言われた時には寒気で鳥肌立ちまくりだった。


 なのにいざ取り合いが始まると、誰もかれもが鬼になって容赦がなくなり、『どきな! 小僧っ!』って感じに手加減なくど突かれまくる。


 結局、最初から最後まで全く歯がたたずに転がされてただけで、もちろん今日の特売商品だった豚のバラ肉は取れなかった。


 終わった後で立てずにいたら、近くで見ていたらしいおじさんに立たせてもらったときには、変な涙まで出てくる始末だ。


 そのおじさんが言うには、夕方のタイムセールに男が突っ込むのは無謀とのこと。その時間は主婦の戦場だから、男や独り身の者たちは夜にある閉店セールに参加するらしい。


 どうやら閉店前にもあそこのスーパーはセールをやっていて、住み分けができているらしかった。


 けど、あんなのはもうトラウマだ。これからの人生、よほどのことが無ければスーパーのタイムセールなんて行かねぇ。


 そう心に決めながら、マンションのエレベーターに乗って我が城のある階へ。


 カギを開けて中に入ると、俺が帰って来たのが分かっていたのかシアの部屋からちょこんと夢原が顔を出していた。


「あ、ほんとに帰ってきた」


「ただいま」


「おかえり~、シアちゃんって天斗くんが帰ってくるの分かるんだねぇ」


「あぁ~、廊下を歩く足音で分かるらしいよ。ストーカー臭くて怖いけど‥‥‥シアは?」


「元気だよ~、今はちょっとぐったりしてるけどねぇ」


 ちょっとバツが悪そうにしてる夢原に首を傾げながらシアの部屋に入ると、夢原の言っていた通りぐったりとしたシアがいた。服が乱れに乱れた状態で。


「ただいま、シア。なんか襲われたみたいになってるけど、大丈夫か?」


 そう声をかけると、シアはぐったりしたまま俺の方を見て、ハイライトの消えた虚ろな目に涙を滲ませた。


「あぁ、天斗‥‥‥私の身体はもう穢されてしまいました‥‥‥」


 意味が分からなくて困惑しながら一緒にいたであろう夢原に目を向けると、夢原はペロッと舌を出して。


「あはは、シアちゃんが無防備であまりにもえっちっかったから、ね? 私の内なる欲望が溢れちゃったんだよぅ」


「あ~、オッサンか‥‥‥それはまた、シアは災難だったな」


 なるほどと納得、同時に俺も遠い目になる。夢原は清楚な見た目に反して、その中には質の悪いオッサンを飼ってる。高校の時に何度か女子生徒が餌食になってた。


 俺も何度か餌食になったことがある。‥‥‥女装させられた時とか。


 残念だが、これに関しては処置なしだ。忘れるのが賢明。


「とりあえず、晩御飯の材料買ってきたから今から作るけど、夢原も食べていくか?」


「おぉ~! 天斗くんのご飯だ! もちろん食べていくよぅ!」


「おっけ」


「あ、もちろん私も手伝うね!」


 夢原がそう言うと、ぐったりしていたシアの身体がピクリと反応した。そしてガバッと勢いよく身体を起こす。


「ダメです、千結! それは私の役目です!」


「いやお前‥‥‥」


「だ、大丈夫です! ほらっ! 日が暮れたから動けるようになりました!」


 そう言うシアは、確かにベッドから立ち上がって自分一人で立っていた。若干フラフラしている気がするけれど、朝みたいにぶっ倒れたりはしてない。


「これならいいですよね?」


「まぁ、そうだな。倒れないなら」


「やった~!」


 ということで、今日の夕飯は三人でとることになった。


 しかし、シアは立ち上がれたからといっても、いつも通りに力が入るとういうわけではないみたいで、パジャマから着替えるのに夢原が手伝おうとしたんだけど、随分と抵抗してた。


 それはもう、必死さがにじむような表情で。‥‥‥夢原はいったいシアに何をしたのだろうか。当然、着替えを手伝うなんて、ここにいるのが俺だけならまだしも、同性の夢原がいるんだから夢原に頼む。


 シアよ、強く生きろ。


 ドナドナされていくシアを見送って、俺はとりあえずシアの武勲を祈っておいた。




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