第51話 シアと看病 その二
ズズズッと最後の一滴までお味噌汁を吸って、シアはお茶碗をゆっくりとお盆に置いた。
その間もずっと俺が手を添えて落とさないように支えていたけれど、ご飯を食べたことで少しは力が入るようになったのか、食べ始めた時よりは安定していた気がする。
「ごちそうさまでした! 美味しかったです!」
「お粗末様。体調の方はどうだ?」
「天斗のご飯も食べましたし元気ですよ! 身体も少しは動くようになりましたし、今から残りの家事を——」
そう言って張り切ってベッドから出てこようとしてくるシアを押しとどめる。
「ダメに決まってるだろ。ちゃんと万全になるまで大人しくしとけよ」
「天斗は過保護ですねぇ、別に私は大丈夫ですのに」
「そりゃ、目の前で倒れられたら過保護にもなるって。とりあえず、今日は一日家にいるから何かあったら呼ぶように」
「あれ? 学校はどうしたんですか?」
「今日は休むことにしたから大丈夫」
キョトンと首を傾げたシアは、俺がそう言った瞬間にギョッとしたように瞳を瞬かせた。
「な、なにしてるんですか!? 私のことなんか放っておいてちゃんと行ってください!」
「いや、そういうわけにはいかないだろう? 今のシア、一人じゃ何もできないし」
「それでも、天斗は自分のことを優先にしてください!」
紅い瞳でキッと睨んでくるシア。
俺はため息をついてデコピンを一つお見舞いしてやった。
「あいたっ! 何するんですか!」
「あのなぁ、大学を一日くらい休んでも特に支障はないの。それより動くのもままならないくらい弱ってる人が家で一人でいる方がよっぽど気がかりだわ。そんなんじゃ講義に行っても集中できないだろ?」
「でも‥‥‥」
「いいから、今日は大人しくしとけって。迷惑とか考えないでいいから、何かあったらちゃんと呼べよ」
丁寧に説明すれば、シアはやっと納得してくれたようで、しぶしぶながらも「わかりました」と頷いた。
それでもまだ遠慮しているのか、おずおずとした感じで何かを俺に頼もうと上目遣いを向けてくるシア。
いつも生活面でお世話になっているのは俺だし、体調が悪い時は持ちつ持たれつなんだから本当に遠慮しないでもらいたいんだけど。まぁ、その内慣れてくるか。
「どうした?」
「‥‥‥あの、じゃあ身体を拭いてもらってもいいですか? 昨日、お風呂入れなかったのでべたついて気持ち悪いんです」
「そういえば、シアが倒れたのは俺がちょうど帰って来た時だったもんな。おっけ、濡れタオルを持ってくるよ」
俺はそう言って食器を乗せたお盆を持ってシアの部屋を出る。
それからいったんキッチンにシンクを置いたあと、洗面器に浅く水を入れてタオルを持って再びシアの部屋に向かった。
「持ってきたぞー」
「あ、天斗! ありがとうございます!」
「どういたしま——ぶふぉっ!?」
後ろででドアを閉めてシアに向き直った瞬間、その格好に思わず洗面器をひっくり返しそうになった。
「お、お前、なんでまた服脱いでるんだよ!」
「え? なんでって、脱がないと拭けないですよね?」
「そうだけど、俺が部屋から出て行った後とかに脱げよ!」
「それじゃあ拭いてもらえないじゃないですか」
「はい? 俺が拭くの?」
「さっきそう言いましたよね?」
確かに、そうだったかもしれないけど、てっきり自分で拭くから水とタオルを持ってきて欲しいのかと‥‥‥まさか、言葉のまんま俺に拭かせる気だったのか。
‥‥‥いや、まぁ、シアのことだから少しだけそんな気がしてたけどさ。
「それくらい自分で‥‥‥って、それができないのか」
「あはは、お恥ずかしい限りです」
「もっと根本的な恥じらいを持ってくれ‥‥‥」
はぁ、とため息をついて、シアに向けようとした視線を慌てて逸らす。
「魔法とかでも何とかできないのか?」
「いつもなら念動魔法でできますけど、身体に力が入らないのと同様に魔力も乱れていて制御ができないんです。下手に魔法を使おうとすると、タオルを浮かせるどころかここら一帯の物という物が浮かび上がります」
おぉ‥‥‥それはまた、絶対に避けたい事態だな。そんなことになったら紗季さんがすっ飛んできそうだ。
「‥‥‥分かったよ。やってやるから背中こっち向けて、あとちゃんと前を隠すように」
「はぁい」




