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第49話 天斗と心配

 


 ◇◇天斗side◇◇



 次の日、俺は隣の部屋から微かに聞こえる目覚ましの音で目が覚めた。


 サイドテーブルに置いてあるデジタル時計を見れば、まだ六時になったばかり。眠りが浅かったせいか、珍しく早起きだ。


 まだボーっとする脳みそを覚醒させるために大きく伸びをして、そういえば昨日はシアが熱を出して倒れたことを思い出した。


 昨日はあの後、シアに晩御飯を食べさせてポカリや冷えピタなどの看病アイテムを買いに行き、それを使って安静にするように言い聞かせて寝かせた。


「一晩たったけど治ったかな?」


 とりあえず、まずはシアの様子を見る為に寝間着代わりのジャージから部屋着に着替える。


 廊下に出ると、さっきからずっと鳴っている目覚ましの音が強くなった。


 この時間の俺は普段ぐっすり寝ている時間で、俺が自然に起きる前にシアがいつも起こしに来るから知らなかったけど、シアの奴、吸血鬼のくせにこんな朝早くから起きてたのか。


 シアの部屋に入るとますます目覚ましの音が大きくなって、思わず耳を塞ぎたくなる。‥‥‥いや、にしてもちょっと音の設定が大きすぎじゃね? 


「早起き何てへっちゃらです!」って言ってたけど、やっぱり実は朝が苦手だろうコイツ。


 ベッドサイドにある目覚ましを止めてシアの様子を伺う。


 カーテンを閉め切っていて薄暗いためによく見えないけど、シアは布団の中でもぞもぞと動いてる。


 シアが俺を起こしに来ることはもう当たり前の日常のようになっているけど、こうして俺がシアより早く起きることは滅多にないためシアの寝顔を見るのは初めてかもしれない。


 いつもは俺に見せてくれる満面の笑みとは違って、よく感情を映す紅色の瞳が閉じられた寝顔はどこか高貴な静謐さに包まれていて、息を飲むような美しさを醸し出してるような気がした。


 こうしてみるとシアの人間離れした美貌を目の当たりにして、シアがすっごい美少女のお嬢様であることを実感する。黙ってれば、だけど。


 昨日は体調が悪かったんだしまだ寝かせておこうと思って、久しぶりに朝ごはんでも作るかと踵を返そうとしたとき、暗闇にぼんやりとした紅色が浮かんだ。


「天斗‥‥‥?」


 小さな声で名前を呼ばれたのに気が付いて、俺はシアの横に戻ってくる。


 表情が見えるように覗き込めば、まだ完全に目が覚めていないのかボーっとしている瞳が俺の方を向いた。


「おはよう、シア。調子はどう?」


「天斗っ‥‥‥!」


 シアは俺のことを完全に視認できたみたいで、へにょんとだらしなく頬を緩める。


 しかしすぐにハッとした顔になって、焦ったように時計に目を向けた。


「寝坊!? ごめんなさい、天斗! 今すぐ起きてっ!」


「いやいや、病み上がりなんだから今日くらい大人しくしてろって」


「いえ! 家事をするのは私の役目ですから!」


 起き上がろうとするシアを止めようとしたけれど、シアはお構いなしにベッドから滑り降りて立ち上がろうとし。


「ひゃっ!」


「ちょっ!?」


 昨日と同じように崩れ落ちそうになったのを慌てて受け止める。


 ふにょんと柔らかい感触が腕全体に感じられて、思いっきり俺にもたれかかっていることからシアにまったく力が入っていないことが分かる。


 どうやら熱っぽい感じは無くなったみたいだけど、身体に力が入らないことは全然治っていないみたいだ。


 ‥‥‥ん? てか、シアの身体、妙に柔らかくないか? いやまぁ、触れ合ってるんだから女子特有の柔らかさを感じるのはそうなんだけど、服の感触よりもきめ細かいというか。


 ちょっと疑問に思ったけど、今はそれよりもシアをベッドに戻そう。


「ほら、言わんこっちゃない。とりあえず本調子に戻るまでは寝とけよ」


「ですが‥‥‥」


「寝・と・け」


「‥‥‥はい」


 無理してでも動こうとするシアに圧をかけて説得すれば、渋々頷いてくれた。


 ホッと息を吐いて力の入らないシアを支えながらベッドに入れようとして視線を下げたその時、俺はやっと惨状に気が付く。


 シアが今、一糸まとわぬ全裸だということに。


「——っ!?」


 部屋の中が薄ぼんやりとした暗闇で、それ以上にシアが心配だったから気が付かなかったけど、こいつなんて格好してるんだ!?


 見ないように、と自分に言い聞かせても、自然と視線を引き寄せるような神秘的な白さがそこにある。


 こういう事故が起きないように常々気を付けてたのに、まさかシアが全裸で寝てるなんて‥‥‥。


「お、おまっ、服は!?」


「あっ‥‥‥う~ん、寝るときは着てるんですけど、起きるといつも脱いでるんですよねぇ」


「ねぇ、じゃなくて! お前、女! 俺、男! もっと恥じらいを持て! そして病人が全裸で寝るな!」


 自分があられもない姿だというのになんて呑気な。俺じゃなかったらヤバいことになってたぞ‥‥‥男の方が。


 そう思いながらガン見しないように意識的にシアから視線を外して床を見れば、確かに床にシアのパジャマが落ちていた。


「え~、確かに天斗以外の人には見られたくないですけど、天斗ならいいですよ!」


「よくないわっ!」


 俺に見せつけるように腕を開いたシアに向かって無造作に掴んだパジャマを投げつける。


「むぐっ」


 顔面で受け止めたシアは、そのままポスッとベッドに倒れこむ。


 つい、いつもの調子で投げてしまって、力が入らないくらい弱っていることを思い出して一瞬やべって思ったけど、だからといって全裸のシアに近づくのは心臓に悪すぎて手を伸ばすのを躊躇した。


「ぷはっ! もぅ、天斗は容赦ないですね」


「わ、悪い‥‥‥」


「‥‥‥?」


 謝れるとは思っていなかったのか、きょとんと首を傾げるシアから目を離す。やっぱりちょっと直視できない。


「とりあえず、ちゃんと服を着て寝てくれ。それから、まだ本調子じゃないんだから今日はゆっくり休むように! 俺は朝飯作ってくるから」


「それは私が——」


「いいから! 俺が戻って来る前に服着てろよ!」


 シアの言葉を遮るようにそう言って、俺はシアの部屋から飛び出す。そのままドアに背を預けてため息を一つ付いた。


 シアの裸は本当に心臓に悪い。なんというか、目が離せなくて魅了されているような気分になってくるから。


「まぁでも、今はそんなことよりシアの身体の方が心配だな」


 まさか一晩経ってもあんなに身体の力が入らないなんて思っていなかった。


 たぶん風邪とか熱とか、もうそういう単純な身体の不調みたいなものじゃないよな‥‥‥。


 俺は嫌な想像を振り払うように首を振ってキッチンに向かう。


 まずは、消化にいいものを食べさせよう。



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