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第48話 シアと体調不良

 



 ◇◇天斗side◇◇



 講義が終わり、シアの面倒を見るためにここのところ顔を出せていなかったサークルに行って来て我が城に帰って来た。


 俺は自分の家の玄関なのにいつもドアを開ける前に一呼吸置く。気持ちは犯人が立てこもる家に突入する特殊部隊隊員だ。


 なぜこんなこと決死の覚悟をしないといけないのか、ちょっと納得のいかないこともあるけれども、玄関を開けたらまずいちにもなくシアが飛びついてくるから仕方ない。


 危ないし、疲れてるからやめるように言っても改善しないし、こっちが合わせるしかなかったのだ。まったく、なんとも人間には身勝手な吸血鬼様である。


「はぁ‥‥‥行くか」


 小さくため息をついてから、扉の取っ手を引いて素早く身を滑り込ませる。


「ただいまー」


 後ろ手にサッと扉を閉めたあと視線を正面に向ければ、まるで俺が帰ってくるのが分かっているかのようにいつも廊下で出迎えてくれるシアの姿が。


「おかえりなさいっ!」


 尻尾があれば後ろに暴風が生まれるんじゃないかと思うくらい振られているのが分かるような満面の笑みを浮かべつつ、大型犬もかくやと勢いでこっちにやって来る。まるでご主人様を待つゴールデンレトリバーだ。金髪だし。


 そんなシアの様子を見て、俺は少し腰を落として衝撃に備えるために右足を一歩後ろに引いた。——さぁ、受ける覚悟はできている、来やがれ!


「天斗! 待ってまし——ぁっ‥‥‥」


「えっ? ちょっ!?」


 しかし、飛び込んでくると思ったシアは、廊下の途中でまるで電池が切れたロボットのように俺の目の前で倒れこんだ。


 それを見て慌てて俺が前方に飛び出せば、シアが床と衝突する前になんとか支えることに成功する。危うく間に合わなければシアは顔面から床にまっしぐらだった。


 シアは身体に力が入らないのか、全体重をかけるように俺にもたれかかって来る。


「いきなりどうした? 大丈夫か?」


「だ、大丈夫です。ごめんなさい、今立ちますから」


 そう言ってシアは立ち上がろうとしたものの、どうやら力が入らないようで、立ち上がろうとするたびに膝から崩れ落ちそうになったのを慌てて支える。


「っと、本当にどうしたんだ?」


「す、すみません。でも、本当に大丈夫ですから気にしないでください」


「気にしないでって言われても‥‥‥」


 こんなことは今まで無かったし、どう考えても大丈夫じゃなさそうだ。なんだかいつもより弱々しい感じがするし。


「——っ」


 俺が顔色を見るために覗きこもうとすると、シアにサッと背けられる。


 けれどいくら背けようと、俺が支えてるため結構至近距離なせいでお互いの顔はバッチリ見えた。


「熱か?」


 シアは色白の綺麗な肌だからこそ頬が蒸気しているのが目立ってるし、紅い瞳も熱に浮かされたように潤んでトロンとしている。


 いつもよりも呼吸が短くて息が上がってるし、典型的な発熱のような気がした。咳は出てないから風邪ではないと思うけれど。


 というか、そもそも吸血鬼が風邪にかかるのか甚だ疑問だが。


 とりあえず熱があるか確かめるため前髪を掃って手を当てて見たり、首筋に手を当てて脈を測ったりしてみる。もともとシアは体温が低いから分かりにくいけどいつもよりは体温が高いような気がした。


「あ、天斗‥‥‥少し、離れてください‥‥‥その、我慢できなくなっちゃうそう、です‥‥‥」


 シアの体温を確認している間、チラチラと俺を時折見つめていたシアが珍しく、本当に珍しく俺から距離をとるように両手で胸元を押してきた。


 もしかして風邪だった場合、俺にうつしてしまうかもしれないことを気にしているんだろうか?


 そう思ったけど、俺はその俺を拒絶するシアの様子から、これが本当にシアの体調が悪いのだと理解した。


 だって、あのシアだぞ? 少しでも隙あらばくっついたり抱き着いて来たりするシアが、多少の体調不良なんかでここまで弱々しい反応をするなんておかしい! 自分から離れようとするなんてシアじゃない!


 なんだか俺の思考もおかしい気がするけど、シアの方が絶対おかしいはずだ!


「とりあえず、今日はもうベッドに入って休め」


「え、いえ、私は大丈夫ですから‥‥‥」


「どう見ても大丈夫じゃないだろ、身体も力が入ってないみたいだし」


「それは‥‥‥」


 反論できないのかバツが悪そうに目を逸らした隙に、俺はシアを横抱きにしてシアの部屋へ向かう。


 そのまま優しくベッドに寝かせて毛布を掛けてやると、シアは毛布を口元まで素早く引っ張っておずおずと俺を見上げてくる。


 その様子がまたいつもと違って庇護欲を掻き立てられるような仕草で、暗闇にぼんやりと浮かぶ潤んだ瞳も弱々しい挙動も、一見すれば思わず邪な情欲を抱いてしまいそうなくらい魅力的だと思った。


 しかし今はそんなことより、シアの体調の方が心配だ。


「シアはもう夜ご飯は食べたか?」


 聞くと、シアはフルフルと頭を振る。


「それじゃあ食欲は? 何か食べられそうか?」


 これにはコクリと頷いた。


 一応食欲はあるみたいだ。これなら薬を飲めるかな? ‥‥‥いやでも、何の薬が効くのかわからないな。風邪薬なのか、解熱剤なのか‥‥‥そもそも吸血鬼に人間用の薬を与えていいのかもわからないし。


 まぁ、とあいえず今はいいか。まずは熱を測らせて、食べられるうちにご飯を食べさせよう。その後にまだきつそうだったら薬は考えて、冷えピタとポカリを準備しておくか。


「じゃあ、温度計とご飯持ってくるからちょっと待ってろ」


 俺の言葉にシアがコクリと頷いたのを見届けて、俺はいったんシアの部屋から出た。


 後でコンビニ行ってポカリ買って来なきゃな。



 ◇◇シアside◇◇



 バタンとドアが閉まる音が聞こえて、私はようやく身体の緊張を解きました。


「‥‥‥咄嗟に隠しましたが、牙が伸びていたことバレてないですよね‥‥‥?」


 ちょっと心配ですが、天斗は特に言及していなかったので大丈夫だと思いたいですね。


 しかし、今のは本当に本当に危なかったです。少しでも油断をすれば天斗のことを襲ってしまう所でした。


 まさか、天斗が帰って来た直前に身体の力が入らなくなるなんて‥‥‥。


 先日から少しずつ徴候は見られましたが、自分でもここまで進んでいるとは思っていませんでした。


 進行速度の上昇が環境が変わったせいなのか、それとも衝動を感じる度に必死に抑え込んでいる反動なのかはわかりませんが、このままだと非常によろしくない状況になりそうです。


 かといって、逃げようにも身体の力が入らないままでは不可能です。


「‥‥‥あんまり効果的ではないですけど」


 私は気乗りしないものの、口元を隠していた毛布を離して、手のひらの親指の付け根に噛みつきます。


 牙を突き立ててそこに流れる血液を吸えば、激しい飢餓感が少しだけ薄れるのを感じました。


 根本的な解決にはなりませんが、こうすることで時間だけはなんとか少しだけ稼げます。


 それでもやはり限界はあるので、この問題はなんとかしないといけないのですが‥‥‥。


「‥‥‥いえ、我慢です。天斗と一緒にいるためには、絶対に我慢しないと‥‥‥!」


 軽く息を整えながら、考えないように意図的に意識の奥へ奥へと追いやっていると、こんどは「ぐぅ~~」と大きくお腹が鳴って、空腹感に襲われます。


「‥‥‥ままならないものですね」


 私はお腹をさすりながら、自分の身体に自己嫌悪を覚えました。



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