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閑話 スーパーおじさんとタイムセール

 


 スーパーおじさんside



 やぁ、俺だ。


 知らない人もいるだろうから名乗っておこう。スーパーおじさんだ!


 おっと、勘違いすんな? スーパーは”超”のほうじゃなくてスーパーにいるおじさんってことだ!


 え? スーパーで何をしているかって? 腕を組んで突っ立てるんだよ。


 もちろん、ただ突っ立っている訳じゃあない。


 これからここで始まるスーパーのタイムセールを見に来たんだ。


 こらこら、なんだよただのタイムセールかよって興味を無くすな。ここのスーパーのタイムセールはそんじゃそこらのスーパーとは違うんだ。


 ここのスーパーのタイムセールはな、完全実力主義で何でもありのバトルロイヤルタイムセールだぞ。


 もちろん、なんでもありと言ってもやりすぎはダメだ。暗黙の了解だがちゃんとルールもある。


 一つ、殴る蹴るなどの明確な攻撃をすることなかれ。


 一つ、自分の必要以上の量を購入をすることなかれ。


 一つ、欲しいものは自らの手で手に入れろ。(ほかの人に取ってきてもらうことは厳禁)


 他にも細かいことは多々あるが、最低限この三つさえ守れていれば問題ない。もし犯した場合には、店長から出禁の命が下ることになる。


 このタイムセールは、あくまで主婦力を試す場であり、それを穢すような輩は参加する資格などないのである。


 主婦力。それは、世の主婦たちが日々家事をこなし、夫や子供の面倒を見て高めていく、愛の力。


 その力は偉大であり、どんなことも成し遂げられる凄まじいパワーを持っている。


 その主婦力と己の信念かけてぶつけ合うのがタイムセールなのだ。


 さて、そんなことを考えているうちに、この町の主婦たちが続々と集まってきているな。


 今日の特売品はブリ。しかも、ただのブリではない。旬より少し早いが、しっかりと脂の乗った寒ブリだ。店長がそう言っていた。


 きっと耳の敏い主婦たちは必ず狙ってくるはずである。


 事実、今見えるだけでも猛者と言える主婦たちがいつもよりも多くやって来てることが分かる。


 これは最初の位置取りも大切になってくるな。‥‥‥うちの嫁は——よしっ! なかなか悪くない位置だ。


 後は”二つ名持ち(ネームド)”たちがどれだけ現れるかによるか。


 っと、おや? 今入ってきたのは、本当にここ最近見るようになった外国人っぽい美少女じゃないか。


 他の追随を許さないほどの速さでモノを搔っ攫っていく一気に注目された期待の新人、と呼ばれてる。


 しかも今日は男連れか。大方の予想通りまだ結婚前の同棲カップルというところだな。‥‥‥金髪美少女とか、あの坊主、羨ましい。


 まぁ、今日はどんな戦いを魅せてくれるのか、楽しみだ。


 シャツの袖を捲って、腕時計をちらりとみる。


「そろそろ、か‥‥‥」


 呟くと同時、始まりの店内放送(ゴング)が鳴り響いた。


『本日もご来店頂き誠にありがとうございます。お待たせいたしました。只今の時間より大特価タイムセールを開始します』


 瞬間、この場にいる主婦という主婦たちが、まるで消えたかのようない勢いでブリの陳列棚に突撃する。


 皆、己が内に宿る主婦力を漲らせ、譲れない信念のためにぶつかり合う。夫や子供を想う気持ちを叶えるために。


 くぅぅ~~~! これだ、この熱気がたまらない!


 するとさっそく戦場が動いた。実況の店長が熱く語っている。


 ぐんぐんを主婦たちを追い抜いて、瞬く間に陳列棚前に向かうのは、ここ最近の注目の的である期待の新人。


 他の主婦には絶対にまねできないであろうアクロバティックな動きは、まさに風のようだ。


 だが、特売品がブリという今日は普段とは勝手が違うぞ。普段は別のスーパーに行ってるであろう主婦たちもいるからな。


 ほらさっそく、今いる主婦たちの中でも上位の主婦力保持者であろう三人の主婦たちに行く手を阻まれてる。


 あの壁を突破するのはなかなか骨が折れるぞ。少なくとも主婦力では絶対に勝てないだろうな。あの三人は既婚者。結婚と同棲では主婦力に隔絶した差があるからな。


 さて、どうやって凌ぐ?



 ・・・・・・・・・・・・・。



「——なっ!? 飛んだ、だと!?」


 今までのタイムセールの中で、こんなことがあっただろうか? 人一人分の高さを飛び越えるなど。


 ‥‥‥いや違う。なるほど。


「これが、若さか」


 結婚ではなく、同棲カップルであるからこそのあの芸当。


 結婚して子供ができれば、どうしも女性は身動きが取りずらくなる。それによって体型が変わる者も多かろう。


 よって既婚者は総じてパワータイプになることが多い。主婦力は段違いに上がるが、その分結婚前のような身軽な動きが取れなくなるはずだ。


 これは盲点だったな。今まで主婦力の高さばかり見て、見落としていた。


 さて、このままだと期待の新人がいの一番にブリを獲ることになるが、どうなる?


 そして期待の新人がブリのパックに向かって手を伸ばしたその時、黒髪の女性がひょっこりと現れた。


 行く手を阻まれた期待の新人は、速度を落としたのが仇となって、瞬く間に争い合う主婦たちの中に巻き込まれていく。


「すみませぇん、通して下さぁい! ——おっとと。よかった、まだたくさんありました! どれにしようかしら?」


 あれは‥‥‥”聖母”か!?


 あのおっとりした物腰、他の主婦とは違って纏う空気が柔らかく、そしてなによりあのビックバンもかくやというほど大きな胸!


 バブみを感じてオギャりたくなるとはまさにこのこと。


 彼女が二つ名持ち(ネームド)として”聖母”と言われる所以はまさにそこにある。


 これを説明するためには、まずは”二つ名持ち(ネームド)”とは何かを伝えよう。


 ”二つ名持ち(ネームド)”とは、このタイムセールにおいて際立った活躍を見せた者や、特殊な技法を使う者に送られる異名のことだ。つまり、タイムセールでのエースや注目主婦ということである。


 そして彼女——夢原美結さんは”聖母”の異名を与えられている。


 その由来は彼女が纏うその”バブみ”にある。


 ”バブみ”または”母性”とも言われるそれは、主婦力とはまた違った不思議な魔力を持っているものだ。


 当然、それを感じてオギャりたくなるのはなにも男性だけじゃない。女性だってもとは母親の母性に当てられて生きてきたのだ。


 そのため夢原さんの纏うその”バブみ”に当てられると、誰もが安心して逆らえなくなり、自然と彼女の行く末を譲ってしまうのだ。


 本人はどうやらそのことに気が付いていないようで、そういう天然なところがまたオギャりたい。


 しかし、期待の新人にとってはとんだ災難だったな‥‥‥。


 あのギリギリまでいったところで”二つ名持ち(ネームド)”の、しかもタイムセールの常連勝者である”聖母”の登場だ。


 さらにはここにいる主婦たちは皆、いつもよりタイムセールに対する覚悟が違う。少しでも立ち止まってしまえば一気に外まで引きずられてしまっても仕方なかろう。


 まぁ、まだタイムセールは始まったばかりだ。諦めずに再挑戦すれば、ブリを手にするチャンスはまだまだあるはず。


 ‥‥‥ん? 待てよ、あの奥様たちの動きは‥‥‥まさか!


 その時、『パチンッ!』と、指を鳴らす音が聞こえた。


 次の瞬間、ブリの陳列棚まで続く大きな道が出来上がる。


「おーっほっほっほ! ごめんあそばせ! わたくしのお通りざますよ!」


 ここで仕掛けてくるか、”自治会の大奥様(ドン・グランマ)”!


 ”自治会の大奥様(ドン・グランマ)”こと、一ノ瀬清子。彼女は、この町の自治会の長である自治会長を務めている女傑だ。この町の奥様たちの元締めでもある。


 ”二つ名持ち(ネームド)”の由来は、一癖も二癖もあった自治会の奥様達をまとめ上げ、瞬く間に一強集団にまで伸し上げたカリスマ力にある。いまでは、あの奥様集団にかなう旦那はいないとまで言われている。


 一ノ瀬さん自身も、自治会長の座に就く前から別の”二つ名持ち(ネームド)”で大活躍しており、個人としても強力な主婦だ。


 そんな彼女を基に動いているのが”自治会”であり、そこでは日々主婦力を上げるために、週末はお料理教室などを開いているともいう。


 ”自治会”はタイムセール中、常に一ノ瀬清子の指示に従っており、組織的な連携力を持って確実に特売品を獲るフォーメーションを組む。そして人数分の特売品を瞬く間に掻っ攫っていくのだ。


 しかし、タイムセールが始まる前から姿は見えていたから、確実に来るとは思っていたがこんなに早くフォーメーションが整うとは驚愕だ。しかも、一番難しい我が道(マイロード)戦法。


 これは”自治会”と”自治会の大奥様(ドン・グランマ)”の評価をさらに上方修正しなくてはならないな。





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