第34話 シアと休日
天斗side
十一月も間近に迫ったある日の休日。
「‥‥‥暇だ」
ソファーに座って、特に何を見るでもなく適当に流しているテレビを聞きながらボケーっとしていると、思わずそんな言葉がポツリと零れた。
日本人には一年間に何回の休日があるだろう?
一年は365日で一週間は7日だから、365÷7で約52。一年は約52週間だから、土日の二日間が休日だとして約104日。
それから国民の祝日がみどりの日、こどもの日、海の日、山の日‥‥‥確か16日くらいだ。
というわけで、日本人の休日は一年でだいたい120日くらいある。
ほう、実は日数だけなら三か月も休日があったのか。そう考えると結構休んでるな。まぁ、ただしホワイトな会社に限るって注釈が尽きそうだけど。
そして俺は今、人生の夏休みとまで言われる大学生。会社に勤めてる社会人に比べたら、その休日はかなり多いだろう。
それでも、こんなに暇な日は一年間で今日が一番かもしれないと思える。そんな一時。
俺は大学生であり小説家でもあるから、いつもなら原稿だ修正だってなんやかんや休日に仕事をしてることが多いけど、それもついこの間に終わらせたし、特典SSとかも書き終わったので今は仕事は残ってない。
大学の課題も、なるべくその講義時間内に終わらせるようにしてるから既に出されているものは提出済みである。
だから今日は、本当に暇な一日なのだ。
こういう時、いつもならラノベや漫画を読んだりするのだけど、ちょうど最新刊などは発売前で持っているものは全部読破してある。改めて読み返したりしてもいいけど、やっぱり新鮮なものの方が楽しめる。
紗季さんにこんなボーっとしてるのを見られたら、「暇なら次巻の原稿を書いてください」なんて言われそうだけど、今はいったん文章を書くことからは距離を置きたい。
ということで俺は、特に何をするでもなくボーっとテレビを眺めていたのだけど、それにもそろそろ飽きてきた。
「‥‥‥暇だ。たまにはあいつのことを手伝うか」
彼女がここに居候を初めてだいたい一か月、今ではもう家事のだいたいのことは彼女に任せちゃってるからね。もうあまり致命的なミスをするとは思えないけど、こういう時くらいちゃんとできてるかのチェックもかねて手伝おう。
そう思って立ち上がろうとしたその時。
「あ~ま~と~っ‼」
隣の和室の引き戸が勢いよく開いたと思ったら白金の風が吹き抜けた。
姿は見えないがその声が聞こえた瞬間、俺は咄嗟に前に腕を突き出して。
「ATフィールド! てんか——ゴッフォッ!?」
しかして当然、反射神経で俺が勝てるはずもなく。お腹に衝撃が来たかと思ったら、まるで天才画家の名前みたいな呻き声を口から漏らしつつ、座ってたソファーに再び強制着席させられる俺。
「いつつ‥‥‥」
倒れながら俺に突っ込んできた元凶である存在に視線を向ける。
肩より少し上で切り揃えられたプラチナブロンドは輝くようで、紅い大きな瞳にちょこんと可愛らしい鼻、艶やかな桃色の唇。そんなパーツが黄金比のように整っていて、凛としつつもどこか愛嬌を感じさせる綺麗な顔。力強く抱き着かれているからか、密着した身体がいつも以上に柔らかく感じた。
そんな彼女の名はアレクシア。愛称はシアで、異世界からやってきた吸血鬼の少女だ。
シアはそのルビーのような瞳を爛々と輝かせ、俺に満面の笑みを向けてきた。
「天斗! 洗濯物は全部干し終わりました! 掃除もやりましたし、これで今日はゆっくりできます!」
「‥‥‥そうかいそうかい、それはお疲れさまだ」
「はい! 天斗も今日は何もないんですよね? じゃあ一緒に何かしましょう! 何をしますか? どこかに出かけるのもいいですね! ——あっ、えっちなことでも、いいです‥‥‥よ?♡」
「‥‥‥そうかいそうかい、でもその前にな」
俺はジッとシアの瞳を見つめる。そのままそっとシアの両肩に手を置いて、目を逸らされないようにした。‥‥‥こうして改めて覗いてみると、本当に宝石のような綺麗な瞳だな。
「えっ、えっ、天斗‥‥‥? ほんとに‥‥‥? ちょっと、心の準備が‥‥‥」
無言でさらにジーーーっと見つめてると、シアは何を勘違いしたのかだんだんと頬が朱色に染まっていき、口で呟いたこととは違って何かを期待をするように目を閉じた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥——?」
が、もちろん俺はシアのそんなもの欲しそうな表情など無視して、置いた手に力を入れ、シアの肩をガシッと掴む。
「あ、あれ? 天斗、キスしてくれるのでは‥‥‥?」
「誰がするか、そんなこと」
「あ、あれぇ‥‥‥?」
「それよりも、だ」
「は、はい」
ここにいたってシアは俺が本当にキス何てするつもりが無く、そして俺が発する剣呑な雰囲気に気が付いたのか、少し引きっつったような笑みを浮かべて冷や汗を流す。
そんな様子を俺はさらにじーーっと睨みつつ。
「いつもいつも言ってるよな? 急に抱き着いてくるな、って」
「えーっと‥‥‥つい、出来心で——てへっ☆」
右の手を拳にしてコツンと頭を叩き、チロリンと舌を出すシア。
その挙動にイラっとした俺は。
「——チェストォォォォォォォォォー----ッ‼」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁー--っ!」
身体のバネを全力で使って、シアを俺の上から思いっきり投げ飛ばした。
ったく、毎日毎日飽きずに何度も抱き着いてきやがって‥‥‥。
俺だって男だし、美少女であるシアに急に抱き着かれたら心臓が止まりそうになるんだよ。頼むからもう少し自重してくれ‥‥‥。
そう切実に願う俺だった。‥‥‥そしてどうやら、暇で退屈だった時間は終わりを迎えたらしい。




