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第29話 天斗と酔っ払い娘たち

 


 天斗side



 始めてた時には昇っていた太陽がいつの間にか姿を消して、改稿がやっと終わって書斎から出て来た俺はリビングの惨状にポカーンとしていた。


「こちとらきっすいのあにおたなんじゃい! おとこなんていないってんですよぉ~!」


「は、はぁ‥‥‥」


「よっ! アニオタ娘の味方!」


「こぉら! きいてますか! アレクシアさん! ‥‥‥ヒェック」


「き、聞いてます聞いてます!」


「だいたい、わたしのせいかつをしってるくしぇに、おとこはまだかぁ~おとこはまだかぁ~って、うるっさいんですよ!」


「そーだそーだ! 良い人がそんな簡単に見つかるかー!」


「えぇ‥‥‥」


「はい! ふくしょ~う! かっぷるからぜいきんをとれっ!」


「カップルから税金を取れ~!」


「取れぇ‥‥‥」


「しあわせのふるさとのうぜいをせよっ!」


「幸せのふるさと納税をせよ~!」


「せよ‥‥‥」


「おまえらぜんいんばくはつしろぉっ!」


「お前ら全員爆発しろ~!」


「しろ‥‥‥」


「——えくすぷろーじょんっ! どー--んっ!」


「どー--ん!」


「‥‥‥どーん」


 缶ビールを掲げて、呂律の回ってない声で叫ぶ紗季さん。それに楽しそうに追従する夢原と、げんなりしてるシア。


「‥‥‥なんこれ」


 思わずポツリと零れてしまった言葉は、瞬く間にあの三人に伝播したようで、標的をロックオンしたように視線で射抜かれる。


「やばっ」


 何か侵入してはいけない区域に入ったような気がして、すぐに書斎の戻ろうとしたものの時すでに遅し。


 一番べろんべろんになってる紗季さんにいつの間にか肩を組まれてた。


「おうおうおう! あまとさんじゃあないですか! こんにちさっぽう!」


「ちょっ、紗季さん酒くさ!」


 切れ長の瞳をトロンとさせて、その綺麗な顔を紅潮させた紗季さんから香るアルコール臭に顔をしかめる。‥‥‥美人が台無しすぎるわ。


 そういや、この人にお酒を飲ませるとこんな感じになるんだった。あんまり紗季さんと飲みに行くことないからすっかり忘れてた。


「なによぅ! わたしのめいはかわいいんですよ! えなちゃんらぶ! ほら!」


「へ、へぇー、どれどれ‥‥‥」


「でもあまとさんにはみせません~! ざんねんですね~!」


「‥‥‥」


 紗季さんからスマホの画面を見せつけられたと思ったら、よく見える前に引っ込まれた。‥‥‥ちょっとイラッてきたな。


 というか、誰だよこの人がこんなになるまで飲ませたの。まぁ十中八九夢原だろうけど。


 ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲み干す紗季さんに肩を貸しながらテーブルのところまで行くと、元凶は上機嫌に手を振って来た。


「おぉ~天斗くん、お疲れさまだよ~!」


「‥‥‥これ、どういう状況? てか、飲みすぎじゃね?」


 テーブルの上には、ビールやチューハイなどの空き缶がひぃふぅみぃよぉ‥‥‥明らかに家の冷蔵庫にある量より多いな。


「えへへ、ガールズトークが盛り上がっちゃって」


 そうやってニコニコ笑う夢原の隣には、げんなりしたシアの姿。‥‥‥本当に盛り上がってたの?


「ちょっと顔赤いけど、シアもお酒飲んだのか?」


「飲みました。お酒は美味しかったですけど、ガールズトークとやらは恐ろしいですね。‥‥‥人間怖い」


 なんかトラウマを植え付けらてしまったようだ。まぁ、この前居酒屋に行った時はアニオタトークで追い詰められて、今日はガールズトークという名の紗季さんの拗らせ愚痴三昧に付き合わされたんだからしょうがないか。


「災難だったな‥‥‥。——っと」


 シアに同情していると、さっきから千鳥足でフラフラしてる紗季さんが崩れるように倒れて来たので、慌てて支える腕に力を加える。


 突然のことで力加減を間違えてしまったのか、大人美人な綺麗な顔がお互いの吐息が触れ合うくらい近くなった。


 切れ長の瞳がジッと俺を真正面から覗き込んできて、なんだか吸い込まれそうだ。


「紗季さん‥‥‥?」


「原稿は仕上がりましたか?」


「も、もちろんです! 完璧です!」


 少しばかり据わった視線を向けられて、ビシッと今度こそ本当に終わらせられたから自信を持ってそう答えると。


「そうですか‥‥‥よく頑張りましたね、えらいえらい」


 紗季さんはいつもの凛とした目尻を柔らかくして、微笑みながら頭を撫でて来た。


 普段なら絶対見れない表情に、まるで本当の姉のような扱いをされて戸惑う。


「さ、紗季さん? さっきからどうしたんですか?」


「‥‥‥スー、スー」


「寝てるし!」


 気が付いたら紗季さんは、俺に寄りかかるように目を閉じて夢の世界に飛び立っていた。


 なんというか、この人のこんな無防備で角が取れた姿を見るのは慣れないな。いつも厳しい人だから。


「おぉ! ギャップ萌えだねぇ、紗季ちゃん可愛い!」


「じー---‥‥‥」


「‥‥‥なんだよ」


 視線を感じてそっちを見ると、嬉しそうにしてる夢原とジト目を送ってくるシア。


 夢原はともかく、シアはなんでそんな不機嫌そうに見てくるのか。


 するとシアが無言で立ち上がって、こっちにやって来た。


「あ、酔っちゃいましたー!」


 と、思ったらいきなり崩れ落ちるように俺に向かって倒れてくる。


「——っと」


「ちょっと! なんで避けるんですか!」


「いや、なんか演技臭かったから」


「ぐぬぬっ! じゃあそこの人間も避けてくださいよ!」


「いやいや、紗季さんはマジだったぞ。避けたらフローリングとぶっちゅするじゃんか」


「なら私は天斗とぶっちゅします!」


「意味わからんわ! せんでいい!」


 腰に抱き着いてきて、俺の顔に向かってすぼませた唇を突き出してくるシア。


 ただでさえ紗季さんを支えていてバランスが不安定なのに、シアまでくっついてきたらさらにぐらぐらするんだが。


 紗季さんを落さないように気を付けながら、グイグイとくるシアの口撃を必死に避けてると、視界の端に黒髪が靡いたのが見えた気がした。


 ‥‥‥なんだか嫌な予感。


「楽しそう! 私も混ぜて~!」


「ちょっ! バカ!」


 夢原は酔って倒れそうにとか優しいものではなく、両手を広げて思いっきり飛びついてきた。


 紗季さんを支えながらシアに抱き着かれている中、流石にそんな衝撃を受け止められることができるわけがなく。


「うぐっ」


「にゃっ!?」


「わっ!」


 咄嗟にソファの方に倒れたおかげで床と激突して怪我をすることをはなかったけど、後ろから飛びつかれたシアと三人に押しつぶされた俺はうめき声が漏れた。紗季さんはすやすや寝てる。


「えへへっ、楽しいね!」


「もう! 千結まで! 天斗は私のなんですよ!」


「スースー」


 右腕に紗季さん、正面にシア、左腕に夢原に挟まれて、アルコールと女子三人の甘い香りでこれまで酷使して疲弊した脳みそがクラクラしてきた。


 柔らかかったり、もちもちふにふにすべすべしてたり、吐息がかかったり‥‥‥シア一人でも手を焼いてるのに、こんなのもう俺のキャパシティーを超えてます!


「ていうか、お前らいつまでくっついてるんだよ! はよどけ!」



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