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第16話 シアとアニオタ共

 


「ま、というわけで俺と夢原はこういう感じでどうこうはないから、シアはたぶん勘違いしてるぞ?」


「そうだよぉ、ちょっとからかっちゃったけど天斗くんとは別に何かあるわけじゃないから安心していいよ、シアちゃん」


「いやいやいやいやいやっ! お二人の出会いを聞いてどこからどう見てもどうこうあると思うんですけど! どこも安心できないんですけど! というか実は本当は恋人同士なんじゃないんですか!」


 シアが机をバンバンと叩いて、盛大に突っ込んでくる。


 俺と夢原はお互いに顔を見合わせて。


「「ないないないない」」


 同時にフルフルと首を横に振った。


「息ぴったりで、お似合いにしか見えませんよっ!」


「そんなこと言われてもなぁ‥‥‥」


「そんなこと言われてもねぇ‥‥‥」


 確かに、息がぴったりだと言われればそうなのかもしれない。なんだかんだ五年も付き合いが続いてるんだから一緒にいて苦ではないのも事実。


 だけど、とうにその手の考えには意識しなくなってるんだよなぁ‥‥‥。


 そりゃあ最初に頃はこのまま付き合ったりとか考えなくもなかったし、高校生の時は周りからもからかわれたり疑われたりもした。


 でも、いざ意識してみると尊敬できる神絵師さんっていう印象が強いから、好意より憧れを感じる。


「だからやっぱりchi-yu先生と恋愛するっていうのは考えられないな」


「右に同じ~、アマト先生はアマト先生だから」


「むむむ、お二人がそう言うならそうなのでしょうけど‥‥‥やっぱり納得できません」


 むすっとした顔で、いつの間に頼んだのかレモンスカッシュをストローで吸うシア。


「というか、夢原からしたら俺は恋愛対象外だと思うぞ?」


「え、そうなんですか?」


「そうそう。だって夢原、二次元にガチ恋してるほどの腐れオタクだし」


「ちょっと! 天斗くん!」


 俺が何を言おうとしてるのか察したのか夢原が止めようとしてくる。


「シアなら大丈夫だよ。言いふらしたりしないし、そもそも人間なんて蟻んこくらいしか思ってないから」


「そういうことじゃなくて!」


「あの、二次元にガチ恋とはどういうことですか?」


「恋愛対象がアニメキャラクターってことだよ。ほら、夢原のスマホの待ち受け見てみ」


 ちょうど通知がきたことで明るくなったスマホ画面に映った侍風イケメンのアニメキャラを指さしてシアに夢原の本性を説明する。


 夢原には言いふらさないように言われてるけど、シアに納得してもらうには説明するのが一番だ。悪いな、今日は奢ってやるんだから許せ。


「あれ、人気アニメのマサムネ君って言うんだけど、夢原はそのマサムネ君を本気で愛してるってこと」


「え?」


「よくあれ見てニヤニヤしてるぞ」


「‥‥‥ヤバい奴じゃないですか」


 まったくだ、と頷こうとした瞬間、目の前にジャッキが『ダアァンッ! と、力強く振り下ろされた。


「いいじゃないっ‼」


 そして夢原が思いっきり叫ぶ。


(あ、やべ‥‥‥地雷踏んだ)


「二次元にガチ恋たっていいじゃない! だって好きで好きでたまらないんだもん!」


 顔を真っ赤にしながらそう主張する夢原。その表情は恋する乙女か、それともただの酔っぱらいか。


「で、ですが二次元ということは空想ということですよね? 会ったりとかできないじゃないですか」


「ちっちっち! 甘いよシアちゃん。マサムネ君はここにいるの、目を瞑ればいつでも会えるんだよ」


「胸の内ってことですか? 触れられないじゃないですか」


「たとえ触れられなくても、見ているだけでいいの。それだけで私は満たされるし、マサムネ君は私を魅せてくれる‥‥‥あぁ、尊い‥‥‥」


「‥‥‥天斗。この人間、本気でヤバい奴でした」


「だから言っただろう、俺なんて恋愛対象外だって」


 やっと理解してくれたかシア。しかし、一度スイッチの入ったオタクというものは止まらないものだ。


 俺は少しだけお酒を飲むスピードを速くした。


「だいたい現実の男なんてどいつもこいつも底辺すぎるの! 告白してきてヤレないと思ったらすぐ他の女に行くし、口だけ達者で実際はそうでもないホラ吹き野郎ばかりだし、私がアニオタだと知ると露骨に嫌そうな顔する人ばっかり! ねぇシアちゃんどう思う!」


「は、はぁ‥‥‥あの、この人なんかあったんですか?」


「あったんだろうなぁ‥‥‥ひっく」


「それに対してやっぱりマサムネ君は完璧なの! かっこいいし強いし優しい! 爽やかな笑顔はキュンキュンするし儚い表情なんて見せられたら抱きしめたくなっちゃう! なによりいつまでも一人の女の子を想い続ける一途なところがたまらないのぉ! ねっ! シアちゃんもそう思うよね?」


「わ、わかります! わかりましたから!」


「ううん、シアちゃんはマサムネ君の魅力をこれっぽっちも分かってないよ! だから私が沢山教えてあげるね! 今日はシアちゃんをマサムネ信者にするぞー! おー!」


「あ、天斗助けて‥‥‥天斗?」


 身体にアルコールが巡ってくる感覚とぼーっとする頭にシアの助けを呼ぶ声が聞こえてくる。


 声のする方を見てみれば、いつの間に近づいていたのか夢原にグイグイ迫られるシアが縋るような目で俺を見つめていた。


 だけどごめん。推しについて語るオタクを止めることなど無謀もいいところなんだよ。


 それにな、どちらかというと俺だって‥‥‥。


 ——ダァアンッ!


「お前ら信仰派はいつもいつも、やれマサムネ君と付き合いたいだのやれ私のマサムネ君が尊いだの、生意気なことばかり言いやがって‥‥‥マサムネにはなぁ! アイリっていう最愛の彼女がもういるんだ! お前らが入る余地なんてないんだよ!」


 ジョッキを叩きつけて夢原を指さしながら俺は叫んだ。


「な、なんか増えました‥‥‥」


 悪いなシア。俺だって一端のオタク、夢原がこうなってしまったからには止めるよりノッていくのがオタク魂ってもんだ。


 ましてや夢原とは同じマサムネファンでも違う派閥。推しカプである『マサムネ×アイリ』カップルを否定するような輩とは一線交えなぁいかんのよ。


 まぁ、俺がマサムネ信者になったのは夢原に推しに推されまくったからだけど。


「出たなぁ、見守り隊! 確かにマサムネ君とアイリちゃんのカップルは至高! それは認めるし、二人には幸せになって欲しい! ‥‥‥けれど、私だけのマサムネ君になって欲しいのぉ! 夢見たっていいじゃない!」


「ナンセンスだ! あの二人を穢す者は何人たりとも許さん! どれだけあの二人が恋焦がれ、お互いに想い合っていると思っている? たとへ夢の中であろうと、自らがアイリちゃんの立場になることを考えるなど言語両断だ!」


 俺たちはお互いに意見をぶつけ合って、同時にシアの方へ振り向いた。


「「シアは(シアちゃんは)どっちが良いと思う!?」」


「ひうっ‥‥‥わ、わからないですよぉ‥‥‥」


 ふん、軟弱ものめが。そういえばシアは俺と一緒にアニメとかを見ることはあるけど、俺が見てるからなんとなく付き合ってくれてるってだけでアニメ自体にあまり意味を感じていないような気がする。


 向こうの世界にアニメなんかなかったんだろうし、楽しみ方がわからないのかな? 


 こんなの単なる偶像にすぎないものに熱狂できる人間はやはり愚かですね‥‥‥とか思ってそうだし。


 ふと、夢原と目が合って静かにうなずき合った。


 うん、そうだよな。シアに俺たちが熱い情熱を捧げる物がどれだけ無駄で、だからこそ愛してやまないほど素晴らしいということを骨の髄まで教えなければ!


「ちょっ‥‥‥なんですか、その二人でわかり合ってるみたいなの。‥‥‥すごく不吉な予感がします」


「よっしゃー! 今日はとことん飲むぞー!」


「天斗くんにさんせ~い! シアちゃんをこちらの道に引き込むのだぁ~!」


「「あっちゃん、おかわりっ‼」」


「‥‥‥(カタカタカタカタ)」←俺たちの狂気に震えるシア。


 それから「飲みすぎないでくださいね」というあっちゃんのありがたいお言葉を頂戴して夢原と二人、シアにアニメの素晴らしさや、とくにおススメの作品、推しキャラ等を語ったり。


 夢原が俺の作品をべた褒めしてくれて俺も夢原のイラストを絶賛し合ったり。


 とにかくオタク談議に花を咲かせて、久しぶりにパーッと気持ちの良い時間を過ごした。


 まぁ、シアは死んだ魚の目になってたけどね。



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