第14話 天斗と夢原
◇◇天斗side◇◇
「ふぅ‥‥‥なんだよ」
シアとの電話を切って俺のことを見てニヤニヤとした笑みを浮かべる夢原を睨みつける。‥‥‥全く答えた様子はないけれど。
「いんやー? でも、今の電話の子がそうなんでしょ? 同棲してるんだねぇ」
「だから、俺とあいつはそいうんじゃ‥‥‥」
いや、ちょっと待て? 実際、俺とシアはカレシカノジョの関係ではないけれど、そういったことにしておいたほうが良いのでは?
だってよく考えてみろ。見ず知らずの女を家に泊めているより、恋人と同棲してる方が説明が楽なのではないか? それに、そもそも怪我をしていたシアを助けたことが始まりだけど、それを話したとしてなんで病院に連れて行かないで自分の家に連れて行ったのか、ってならないか?
理由はシアが吸血鬼だからだけど、夢原にそれを伝えるわけにもいかないし。そうなると、俺は怪我していた女の子を無理やり自分の家に連れて行った男になる。
‥‥‥いくら自分にそんな気持ちが無かったとしても他人から見れば下心があると思われるに決まってる。
でも、恋人って説明するとなぁ‥‥‥もしも、何かの拍子にシアにそう説明したことが伝わったりしたら絶対に『言質をとりましたよ!』とか言ってきそうだし。
それなら親戚か? ‥‥‥でも流石に金髪紅眼の親戚とか言い訳が苦しすぎる気が。‥‥‥でも、これが一番後腐れがなくて楽な説明そうだしなぁ。
「うん? どうしたの?」
「‥‥‥いや、なんでもない。とにかく、夢原が思ってるようなことじゃないから期待しても無駄だぞ」
「ふーん? ま、詳しいことはここでゆっくり聞こうじゃない。——おじさん二人~!」
「‥‥‥へいへい」
夢原に続いて、目的地である行きつけの居酒屋の暖簾をくぐる。
行きつけと言っても、今年二十歳になったばかりだから頻繁にお酒を飲みにきてるわけじゃないけど、夢原と飲むときはだいたいこのお店だ。
店内は壁に書かれたメニューがあり、ちょっと空気が汚れていて、焼き鳥がおいしいと特に変わったところもない普通の居酒屋で、ちょうどいい時間だからか仕事帰りのサラリーマンが何人か飲んでる。
「おー、お姉ちゃんかわいいねー!」なんて言われて、「ありがとぉ」って軽く返してる夢原に続いて、俺たちはお座席のテーブルに着いた。
ここに座るってことは、マジでガッツリ聞かれるらしい。根掘り葉掘り聞かれる覚悟を決めよう‥‥‥。
席に座るとすぐにバイトの女子高生がやってきて、俺と夢原はレモンサワーと焼き鳥のセットを頼んだ。正直、ビールはまだ慣れない。
おしぼりで手を拭いてお通しをつついてると、すぐにジョッキが運ばれてきた。
「それじゃ、久しぶりに会ったことと、天斗くんに春が来たかもしれないことを祝って、かんぱ~い!」
「かんぱい‥‥‥別に春は来てないからな?」
「んぐんぐ——ぷは~♪」
「オッサンの飲み方だぞそれ、美人女子大生がしていい飲み方じゃない気がする」
「いいのいいの、お酒はこうやって飲むのが一番なんだから、あっちゃんレモンサワーおかわりぃ! ‥‥‥それで春が来てることは認めないけど、同棲してることは否定しないんだ」
もう二杯目を頼んだ夢原はさっそく切り出してくる。にしても、人のおごりだからって遠慮が無いなこいつ‥‥‥俺だって、シアのあれこれを買って結構散財したばっかりなのに。
「まぁ、同棲って言うか居候? とにかく成り行きで一緒に過ごしてるだけだよ」
「ふーん、じゃあえっちは? もうえっちしたの?」
「——ぶふぅっ!? おまっ、ほんと明け透けだな! 恋人以外とそんなことするわけないだろ!」
「えー? ぐへへ、ここにいさせてやってるんだからその身体使わせろよぉ~とか言って毎晩迫ってるんじゃないの?」
「夢原は俺を何だと思ってるんだよ‥‥‥」
というか、どちらかというと毎晩迫られてるのは俺だぞ? 自分の家なのに部屋のカギをかけないとおちおち安心して寝れもしない。
「それじゃあラッキースケベは? ラッキースケベくらいあるでしょ!」
「アニメの見すぎだ。そんなことは現実でそうそうおきない」
まぁ、俺もそういうことを考えたからフラグが立ちそうになるたびに俺がへし折っているわけだけど。風呂に入る時はカギをかけるとか、バスタオル姿でうろうろさせないとか。
「ちぇ~、つまんないなぁ」
「これでわかっただろ? 夢原が考えてるようなことじゃないって、ただ一緒にいるだけだよ」
「むぅ~」
何がそんなに不満なのか、夢原は若干不貞腐れ気味にチビチビとレモンサワーを舐めるように飲む。
上目遣い気味に睨んでくるけど、アルコールが回り始めてトロンとした瞳と、ちょっと赤くなったほっぺたじゃ威厳なんてなくてただ可愛いだけだ。
「ねぇ、その子ってさ、可愛いの?」
「ん? まだその話するのか?」
「いいから!」
「‥‥‥そりゃあまぁ、可愛いと思うけど」
初めて見た時は思わず見惚れたくらいだし、夢原といい勝負をするんじゃないだろうか?
「ふーん、どんな髪色? 髪型は?」
「うん? 金髪っていうかプラチナブロンドって感じで、髪型はミディアムかな」
「へぇー、瞳の色は?」
「紅だな、クリムゾンレッドみたいな感じ」
「なるほどなるほどー、背格好は高校生くらいで、ちょこっと覗く八重歯がチャームポイント?」
「え? あ、うん」
「もしかして、ああいう子?」
「あ、そうそう。あいつあいつ‥‥‥え?」
夢原が指さした方を見ると、そこには正真正銘のシア本人がいた。