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第48話:呑み込み

 容易く皮膚を裂き、骨まで両断する鉄線(ワイヤー)がハコミの首に絡み付いていた。ハコミの首を切断するべく、ロナはドレスグローブから鉄線(ワイヤー)を思い切り力を込めて引っ張る。同時にロナの相棒であるエドガーが大型のナイフを大きくハコミへと振りかぶる。



「あっ……?」



ぷつんっ。

ロナの手元から延びた張りつめた鉄線(ワイヤー)が、突然抵抗をなくす。力を込めていたロナは急にそれが緩んだことで、勢いよく石畳へと弾かれ、ぶつかる。



(なにっ!? なにが起きたの!?)



 硬い石畳で強かに膝と肘を打ち据えながらも、すぐさま体勢を立て直す。そして視線を相棒のエドガーと小さな標的---小さな子供であるハコミと、そのハコミへとナイフを突き立てようとしていたエドガーへと向ける。




「腕っ、俺の手がぁあああっ!? 熱い、熱い!!」



「ひっ」




「あれ、腕ごとやっちまったか」



 ハコミは口から小さな(ほむら)を溢しながら、ペロリと舌なめずりをする。そのハコミの足元には地面に倒れて腕を抱き抱えるような体勢で獣じみた怒声を上げていたエドガーがいた。ハコミは赤ん坊のように身を縮めたエドガーを足蹴にすると、転がったエドガーの右腕を捻りあげる。




「あっ……あっ、が」



「気分が悪そうだけど、大丈夫?」



 鼻で笑いながらハコミはエドガーの右腕をそのまま高く持ち上げる。そこには先程までナイフが握られていた右手が手首の先からナイフごと消失しており、その右手の傷口からは高温で灼かれたことを示すように白煙が上がっていた。



「っ、てめぇ……」



 額には脂汗を浮かばせ、体を歪なくの字のような体勢のままハコミを睨みつける。『所詮はただの子供相手』右手が消失する先程までエドガーはそう考えていたが、"怪物(バケモノ)"を相手にしていたということに気がついたのは時遅しであった。



「俺が何だってお前に関係ある? で、お前らの情報を死にたくなければ全部吐け」



「……ぺっ!」



「うぇっ!」



「おいっ、ロナァ!」


 エドガーはハコミの顔へと唾を吐きかける。その唾はハコミの目に入り、咄嗟にハコミは顔をのけ反らせる。その瞬間、エドガーはロナへ大声を出しながら空いた左手で隠したナイフを取り出すと捻られた自身の右肩の関節を無理矢理外す。そして無防備に右腕を捻り顔を仰け反った体勢のハコミへとナイフを突き立てる。同時にロナもまた、先程と同じくハコミの首へと鉄線(ワイヤー)を鞭のようにしならせるが、そこでようやく自身の武器である鉄線(ワイヤー)が半分程度の長さになっていることに気がついた。そしてすぐさま、半分(・・)になった理由を知ることになる。



「……もう1人いるから、いいか」



(……?)


 ぽつりとハコミは小さく呟く。エドガーの大きな声ですぐに掻き消えてしまう、小さな小さな呟き。だが、少し離れたロナの耳には確かに入る。そしてそのことに対して疑問を持つ時間などはなかった。



「死ね! ……あっ」



 今度はエドガーの左手が消失した。持っていたナイフごと、暗闇の中でそこだけが明るく真っ赤な穴(・・・・・)へと吸い込まれるようにして消え去る。そしてロナの目の前で、驚愕の表情を浮かべたエドガーの頭部が一拍置いて消失した。あまりの光景にロナの手元が狂い、鉄線(ワイヤー)がエドガーの背を引き裂くが、文句を言うための口はなかったエドガーはそのまま地面へと崩れ落ちる。



「んで、じゃあこいつの代わりに色々喋ってもらえるかな? もう喋れないし、こいつ」



 ハコミは骸となったエドガーを踏みつけると、動けなくなったロナへと近寄る。そしてエドガーを飲み込んだ溶鉱炉のように熱気を伴って光る口を微かに歪ませながら、ロナの顔を覗き込むのであった。




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