第42話:遺跡迷宮の罠
ずっと、それこそ伝承の舞台となるほど古くからある場所にも関わらず、迷宮遺跡の地下は土埃が積もっているのと、白骨死体が数個落ちている程度で。あとは綺麗であった。正方形の小さな部屋が壁で区切られ、四方に人1人通れる程度の出入り口が設けられていた。ハコミは松明を手に持ち、慎重に降りた先の部屋から隣の部屋を見やる。隣の部屋もまた、今居た部屋と同じく正方形の部屋に四方に小さな出入り口が設けられていた。それを確認すると、階段の前で待機させていたクライブの元へと戻る。
「…とりあえず白骨死体には近づかないでね。あの付近にたぶん罠が仕掛けられてるから」
ハコミはクライブの腕を引っ張って顔を寄せさると、小さな体を背伸びで伸ばしながらクライブの耳へ顔を近づけると小さな声で囁く。クライブは薄暗い中、松明を出来るだけ白骨死体へと向けると、頭蓋が割れていたり、腕が死体から綺麗に切られて落ちているのが見えた。
「それにほら、足元をよく見ろ。タイルとタイルの土埃が途切れてる、そこも避けてね」
ハコミは指を刺して3歩ほどの辺りのタイルの継ぎ目を注意する。よくよく見ればその辺りだけ深い溝が掘られており、そこから剣かなにかが飛び出して来るのは容易に想像できた。
「俺が先行するから、クライブは出来るだけ俺と同じところを踏んで、壁とか不要に触らないでね」
そう言うとハコミは死体の近くに寄ると死体が持っていたを長剣を慎重に手に取ると、それに縄を括り付ける。
「ほら、着いてきて」
そう言うとハコミはクライブを促して、進んでいく。慎重に、時間を掛けて。地下1階ではあるタイルを踏むと飛び出す剣や横から吹き出す矢の罠が中心であった。ハコミは長剣を部屋に投げ込むことで罠が作動するかどうか、部屋が安全かどうかを確認しながら進む。
地下2階では部屋を覗き込んだハコミは上の階と同じく長剣を部屋へと投げ入れて罠がないか確認する。罠は作動しなかったものの、ハコミは何かに気がついて首を振って部屋に入ろうとすらしない。クライブは疑問に思い、同じように部屋を覗き込もうとしたが、ハコミはそれ以上進まないように押しとどめる。
「…それ以上進んじゃダメだ」
「…床や壁に上の階と同じような溝はないけど。それにその罠潰し用の長剣にも反応がないんじゃ?」
「空気がこの部屋だけ嫌に乾いてる。おかしい」
ハコミはそう言うと自身の袖の一部を千切り、それを小さく丸めてボール状にする。
そして手に持った松明でボール状にした袖布に火を付けると、空気の乾いた部屋へと投げ込んだ。その瞬間、部屋の罠が起動する。部屋の中に"霧状の液体"が噴霧され、火の着いた袖布が液体で消火されたかと思うと融解して地面へと溶け広がっていく。
「さて、とりあえず次からはもっと慎重に行かないとね」
ハコミたちはそうやって地下迷宮を進んでいく。休憩は罠が仕掛けづらい階と階を繋ぐ階段で行った。天井が落ちてくる吊り天井の罠、部屋に踏み入った瞬間に床が崩れ落ちる罠、そのほかにも多種多様な罠が仕掛けられていた。
そして、暫くそうやって進んだ頃。
ようやく小部屋ではなく大きな広場のような階へと2人は辿り着いた。そこはアグナの心臓を指し示すように中央には光る木が生えていたのであった。