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第34話:ゴブリン伝承の奇妙な酷似

「ケイトさん、仕事終わるのは夜らしいからどこかで暇を潰しててだって」



「じゃあ、中央大図書館に行きたい!」



「いや、先に宿に入らないと荷物が…」



 そんな会話を守衛所から続けたハコミとクライブだったが、遂にはハコミの熱意に押されてケイトから教えてもらった"中央大図書館"へと辿り着いた。城とは違い、白磁のように真っ白で入り口には何かの木を模した柱が2本、入り口の両脇から伸びていた。ハコミはわくわくを一切隠さずに、駆け足で両扉を勢いよく開けて中へと入っていく。その後ろを、ハコミを見失わないように早足気味でクライブが続く。



(はぁ、はぁ! すごい、国会図書館の比じゃないぞ!?)




 ハコミは昔訪ねた日本の国会図書館を思い浮かべながら図書館の中を小走りで歩く。自分の身長よりも高い―――この幼女の体でなく元の自分の体の身長とて倍はある本棚が人が1人通れる程度の間隔でいくつも、まるで密集した森のように立ち並んでいた。加えて、無数にある本棚にはきっちりと本が並んでおり、ハコミは棚の下の本を覗き込むと本の上には埃ひとつなかった。



(…すごい、こんな無数にある本棚の本をしっかりと掃除までしてるのか。本当に本が好きな人が管理してるんだろうな)



 そんなことを考えながら、本棚の"森"を縦横無尽に動き回る。歴史、伝記、哲学…さまざまな本を開いては閉じる。そうしてそうして、気が付いたときには薄暗く、埃っぽい場所へと辿り着いていた。辺りには人の気配などなく、耳鳴りがするほど静まりかえっていた。



(…ここは? …書架? 見た感じ、ずっと放置されてる?)



 先程までと違い、本には埃が積もり、よくよく見ると床にも薄っすらと白い埃が雪のように広がっていた。そして点々とハコミの足跡が黒く続いていた。



(怒られたら嫌だし、出るか。 …ん?)



 そしてハコミはふと本棚にあるぼろぼろの本に目がいく。背表紙はボロボロでタイトルも読みづらかったが、それを背伸びしてなんとか取る。表紙を開くとそこには『民話伝承怪物学者モロー・モロー旅自誌3』と記載されており、パラパラとページをめくると気になる一節を見つける。



―――『ゴブリン』

今では王国中に蔓延る人間の子供程度の背丈の凶暴な怪物である。この怪物の凶暴さ、残忍さは言うまでもないが、ある地方の伝承によると元は"家霊(ドモヴィク)"と呼ばれていた精霊であり、家の人間を助けていたという。私が知っている"魔女"もまた、精霊を操って家事や身の回りの世話をさせていた。この関係性は非常に興味深い。 モロー・モロー




(ドモヴィク、元は家霊…。スラブ系の民話に出てくる精霊と名前も性質もそっくりだ、それに家霊とゴブリンとの関係性、元は善い精霊や神が堕落させられて伝えられる…。元いた世界(俺が居た場所)でキリスト教圏が他神教や民間伝承に与えた影響とそっくりだ、そっくりすぎる。なぜだ? それに魔女? ここが魔法が使えるような異世界ならなぜホーンド街で見なかった? 聞かなかった?)




 そんなことを本を開きながら考えていると、ふと気配を感じて振り返るとちょうど本棚の影に消える人影が1人。薄暗く、姿を見たのも1秒もなかったがつばの広い帽子にローブを着た物語や挿絵に出てくるようなまさしく"魔女"であった。あっけに取られていたハコミであったが、ふと手に持った本が微かに震えていることに気がついた。



「え?」



 ハコミが手に持っていた『民話伝承怪物学者モロー・モロー旅自誌3』が大きく開くと、羽ばたき始める。ハコミは咄嗟に本を閉じて、両手でしっかりと胸に抱く。だが、羽ばたき始めたのはハコミの持っている本だけではなかった。きっちりと本棚に収められていた本が1冊、また1冊と本棚から抜け落ち始め、そして羽ばたいていく。そして蝶のように本が羽ばたいていく中、遠くから叫び声が微かにハコミの耳へと入る。



「―――ミ、どこだー!」



(この声はクライブか、向こうでも何があった?)



 ハコミは本の蝶をなんとか避けながらクライブの声がする方へと駆け出した。そしてふと"魔女"の居た辺りには視線を落とすと、そこの床に積もった埃には足跡1つ残っていなかったのであった。




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