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第33話:ハーツ城下街と赤い衛兵






 ホーンド街を馬で出て早7日。土埃を上げながら、ハコミとクライブを乗せた早馬はハーツ城下街へとたどり着いた。

予定よりも1日遅れであったが、たどり着いたハーツ城下街は遠くにはまさしく西洋にある城が立っており、陽の光を受けて(しろがね)に輝いていた。ハーツ城下街を象徴する銀城、そしてその下に広がる街に街を守るためにぐるりと街を囲う石造りの壁と巨大な門扉。もっとも、それをハコミは見るどころか、鞍の上で吐き気と戦いながら半ば意識が飛んでいたのだが。



「初めて来たけど、すごいところだね。ホーンド街とは大違いだ。ねぇ、ハコミ。 …ハコミ?」



「」



「し、死んでる…」




「生きてるよ…」





「あっ、生きてた。というか、馬に慣れないって言ってずっと吐き通しだったけど、大丈夫?」



「なんとか…」




 堅固な門扉を潜りながら、そんな軽口を叩き合う。

白目を剥きながらハコミは辺りを見渡すと王が住まう城の足元というだけあってホーンド街の何倍も活気があった。そして街の人々に混じって赤を基調とした制服に身を包み、一振りの剣を携えた人間があちこち闊歩していた。



「ハコミ、ここで馬を渡さなきゃいけないから降りて」



 キョロキョロと辺りを見渡しているハコミをよそに、潜ってきた門扉から壁沿いに少しばかり進んだ一軒の馬舎の前でたち止まる。そしてクライブは先に馬から降りると、ハコミが馬上から降りるのを手伝う。



「あっ、うん。 …えぇと、"貸馬所"?」



 ハコミは馬舎に掲げられた看板を見上げると、そこには可愛い馬の絵とともに貸馬所と書かれていた。『なんで、馬を貸す場所でホーンドの街で借りた馬を渡すんだ?』、そんなことを考えていたのが顔に出ていたのであろう。クライブはハコミが質問するよりも早くその疑問に答える。



「ああ、ここはそれぞれの街の馬管理所なんだよ。馬は居たら便利だけど、誰も彼も持てるわけじゃない。それにしばらく街に滞在するとかだと馬の管理が大変だからね。それで、馬を貸すここがあるわけなんだけど、片道だけ馬を借りたいって人も居るんだよ。けど、それじゃ片方の街だけに馬が行ったきりになっちゃうよね? だから他の街から来た馬を預かって、その街に行きたい客に貸し出すんだよ。まあ、管理費はこっちで最初に渡すんだけど」



「そうなんだ。あ、そういえばお金」



「ん、ああ、ここにあるよ」



「いや、今出さなくても…あっ」



 クライブがお金の詰まった袋を出したその時、近くにいた男が突如としてクライブの手からその袋をもぎ取る。そしてそのままの勢いで雑踏の中へと消えていく。



「あっ、おい!」



「ど、泥棒ー! 僕のお金、返せー!」




 2人して叫び、吐き気で動けないハコミを傍に抱えてクライブは駆け出すが、ひったくりは止まることなどない。

雑踏に消えゆくひったくりをただただ見つめるばかりであったが、雑踏に消えゆくその瞬間、1人の赤い制服が走るひったくりの肩を掴むとあっという間に地面へと組み伏せた。そこにすぐさまハコミを抱えたクライブがやってくる。



「はぁ、はぁ。すみません…」



「いやー、本当にすみません。クライブ、こんな人混みの中でお金出したらそら、盗まれるよ…」



 赤い制服は地面に組み伏せた男の手からお金の詰まった袋をもぎ取ると、クライブへと差し出す。クライブはそれを受け取ろうとするが、そのときその赤い制服の顔を見てぴたりと動きを止める。



「もしかして、ケイト、お姉ちゃん?」



「ん…? あれ、もしかして」



 赤い制服の"女"はまじまじとクライブの顔を見て、驚きながらも明るく声を掛ける。



「あんた、もしかして"泣き虫"クライブ? いやー、立派になって! そっか、あたしが最後にあんたと会ったのは随分と昔だからねぇ! そこに抱えてるのは、あんたの子かい?」



「いやいや、違うよ!?」



「あ、私。クライブさんと伝承神話の研究をしているハコミです。ケイト、さん?ですか、よろしくお願いします」



「あらあら、これはご丁寧に。あたしはケイト・クルーガー。この街の治安を守る衛兵さね。ま、とりあえずこいつを守衛所に連れて行くから、後で。 …うーん、そしたら"踊る仔馬亭"で飯でも食べながら話そうか。じゃあね、クライブと可愛い子ちゃん」



 そう言いながら、ひったくりの腕を締め上げて消えていくケイトはハコミとクライブの返事を待たずして守衛所まで消えていくのだった。

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