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第30話:出立前夜




 ―――それからホーンド街は少しばかり荒れた。ゴブリンの襲撃事件から数えて7日後のこと。

生贄の件、町長の秘密、ゴブリンの襲撃の真実。波乱は大きく、町長はその地位を降ろされて代々血筋で引き継がれていた"町長"という役職は合議制となった、とハコミは街の資料室に通うときに小耳に挟む。



(…罪には罰を、か)



 ハコミはそんなことを考えながら、自室にて地図を広げて次に向かう場所を考える。地図にはアクルーガ王国と書かれており、地図によれば今ハコミの居るホーンド街は1番最北端の街であった。そして面白いことにそこからアグナの角から見て南に向かって順にアグナの目と"アイズ街"、アグナの心臓と"ハーツ城下街"、アグナの胃と"ストマ街"、アグナの爪と"ネール街"、アグナの尾と"テール街"、アグナの足跡と"フート街"、そして1番国際の端にアグナの火と書かれた地名が書かれていた。街の名前も記載されていたが、それよりもハコミが探していたのは町長が話していた"中央大図書館"であった。しかし、それらしきものは記載されていなかった。



(…聞かなきゃわかんないな。ちょうど夕ご飯だし、ビンベさんやソフィーさんに挨拶がてら聞いてみるか)



 地図を手に持つと、夕食の並べられた食卓へと向かう。自室から一歩出ると鼻をくすぐる良い香りが廊下に漂っていた。そしてその匂いに釣られるまま、食卓のある部屋へと向かう。



「おっ、ハコミちゃん。ちょうどよかった! 今呼ぼうと思ってたんだ」



「…あら、ハコミちゃん、何を持ってるの?」



 ビンベは笑いながら真新しいエプロンを脱いで椅子へと掛ける。食卓にはミルクシチューとパン、そして葉物野菜のサラダにソーセージのようなものが並んでいた。先に席に座っていたクライブの前にお皿を並べていたソフィーが、ハコミへと声をかける。



「実は急なんですが明日にはこの街を発とうと思いまして。それで次は中央大図書館というところに行ってみようかと思ったんですけど、そこがどこか分からなくて」



 ビンベとソフィーは少しばかり驚いた表情を浮かべるが、すぐさま平静へと戻る。予想していた、と言わんばかりの反応であった。



「そうか…ハコミちゃんは街を救ってくれたんだし、もっとゆっくりして良いんだぞ? 体だって万全じゃないだろうに。なぁに、宿代なら心配しなくたってタダでいいしな」



「いえ、もう十分お世話になりましたし。 …本当にありがとうございました」



「そう、か。わかった。で、中央大図書館だったな? 地図を渡してくれるかい?」



 ビンベはハコミから地図を受け取ると、机は食事でいっぱいだったために椅子の上で地図を広げる。そしてビンベはまず、ハコミたちのいるホーンド街を指差す。



「いま俺たちが居るのはここだ。んで中央大図書館があるのはハーツ城下街だ。んで行き方だが徒歩なら安全を考えてここから南東に行った"アイズ街"経由で行く方法だ。だがそこを通ると少し遠回りになる。だから早馬を1頭貸すから、この街からまっすぐに街道を6日も走れば着くはずだ」



「馬まで貸して頂けるんですか? 本当になにから何までありがとうございます!」



「だが、君だけじゃ馬に乗れないだろうし、明日、誰かに声を掛けるよ。さっ、冷めないうちに飯を食おう。今日のシチューは自信作だぞ?」



 和やかな雰囲気で話が進む。

だが、そこで今まで黙っていたクライブが口を開く。



「叔父さん。ハコミ(この子)は僕がハーツ城下街に連れてくよ。 …いや、僕もハコミと一緒に旅をしようと思う」



「ああ…?」



「お父さんっ、落ちついて!」



 一瞬で空気が張り詰める。今にも殴り掛からんとするビンベを娘であるソフィーはなんとか宥めようとする。一方でクライブはビンベの目を真っ直ぐに射すくめて、物怖じを一切しない。



「叔父さん。僕は今回のことを通して知りたくなったんだ。母さんや父さんが何を探して、そしてどうして死んだのか。それにこの母さんが残したネックレスのことも。この街に居たんじゃわからない。 …たぶん、ハコミと一緒ならそれが分かると思う」



 静かにはっきりと。『あんな頼りなさげだったのに』、ハコミは最初にアグナの角で出会ったことを思い出しながら、クライブの顔を見やる。そしてビンベは興奮で顔を真っ赤にしながらも黙って聞いていた。



「…わかった。本気なんだな?」



 ビンベはまた静かにクライブへと尋ねる。

クライブは無言でうなづくと、ビンベは大きくため息を吐いた。



「まあ、お前がハコミちゃんと一緒に生贄の付き添いに行ったときからなんとなくはわかってたよ。わかった、ただ条件がある。必ず生きてここに帰ってこい、何日後、何年後かわからないが、必ずだ。俺はここで待ってるからな。さっ、早く飯を食おう。早く食べて荷造りしないとな」



「叔父さん、ごめん。 …ありがとう」



 クライブは涙目になりながらも食事に手を伸ばす。

しばしの間無言で食事をしていたが、いつの間にやら和やかな雰囲気となり、遂には食事の後にハコミの替えの服をソフィーが選ぶと言い出すのであった。


 

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