第16話:生け贄ウエディング
森の中を4人の男たちが"荷"を背負って歩いていた。
そのうち3人の背には大きな木樽が、そして先頭を歩く髪のない男―――ビンベの背には豪勢な花嫁衣装を着込んだハコミが背中合わせに運ばれていた。
「…すまねぇな、ハコミちゃん」
ぽつりとビンベが謝罪の言葉を口にする。
昨晩のこと。ゴブリンたちを皆殺しにするまで戦うか、あるいは町長が提案した生贄をだすかで乱闘する寸前であったがハコミの『自分が生贄になる』と言い出したために『生贄』案で落ちついたのであった。もっとも、ビンベだけは最後の最後までゴブリンの皆殺しを主張していたのだが。
「いえいえ、私が言い始めたことですし。それにビンベさんやソフィーさんには良くしていただいたので。私が今できる精一杯のお礼です」
「…本当にすまねぇな。俺にもっと力があったらなぁ。君を”天の聖域”なんて場所に置いて行くことなんてこしねぇんだが」
「ビンベさん、私はまだ死んでませんし、殺されるつもりもありませんよ」
「ああ、縁起でもねぇことをすまねぇな…ところで、あの木樽にこの街で1番強い酒を詰め込んだのには何か理由があるのか?」
「ええ、私のせか、いや、私が居た場所にもある伝承がありましてね。『ヤマタノオロチ』っていう龍退治のお話なんですが」
「ああ、そう言う話はどこにでもあるんだな。それで?」
「そのヤマタノオロチは山のように大きくて、村の生娘を要求したんです、それも毎年、毎年。退治しようにも、恐ろしい化け物です。何人もの男たちが挑んでは無惨に殺されてました。ですが、ある日のこと。旅の男がこの村に現れ、そして村人から助けを請われました。男はその助けに応じて、策を巡らせました。その龍退治の供物として生娘に変装して、さらに酒をその龍に飲ませて酔わせて、油断したそのヤマタノオロチを退治しました。男は龍退治をしたことでその村に祭り上げられて、遂には王となりました。めでたし、めでたし。というお話です」
「つまり、その話にあやかってこの酒でゴブリンどもを油断させて皆殺しにするって? いくらなんでも、ハコミちゃん1人じゃ無理があるんじゃ」
「…まあ、そこは頑張るってことで。 …あ」
薄暗く、日差しが隠れるほど深い森が急に開ける。
そこは一面にオオアマナによく似た白い花が咲き誇り、小さな小川が何本もその花畑を通る。蝶は蜜を吸い、花の間に隠れていた小鳥たちはハコミたちの気配を感じとってその場から羽ばたいて逃げ出していく。
「わぁ…!」
幻想的な風景、それがハコミの目の前に広がっていた。そしてゆっくりとハコミはその場に降ろされるのであった。