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第14話:のぞき見


―――荒れ果てた街中。星あかりの見えない、闇に包まれた夜。

いくつもの家々の窓は割れ、扉は破壊されていた。至る所で悲痛な嗚咽と泣き声が風に乗って聞こえてくる。その家々の中でももっとも大きく、そして豪勢な一件の家にある白髪の老人を囲むようにして、数人の男たちがテーブルを囲っていた。そしてその男たちの中には、腕組みをして眉間に皺を寄せるビンベの姿があった。

 



「…」




 その様子を窓から覗く小さな女の子―――ハコミが居た。近くに落ちていた木箱を踏み台にし、背伸びをして中を覗き込む。小さく、聞こえづらかったがなんとか耳を澄まして中の男たちの話を聞き取る。



「で、町長。話ってのは? 早く動かなきゃ、またゴブリンどもがやってきちまう」



 ビンベが口をまずは開き、ほかの男たちもそれに便乗する。



「うちは娘が襲われたんだ! あいつらをぶっ殺さなきゃ気が済まねぇ!」



「うちは家を燃やされた挙句に飼い犬が殺されちまったよ…」



「なんでゴブリンどもが急に街に…? あいつら、野山にしか現れないんじゃ」



「いっそのこと、ゴブリンどもを追いかけてぶっ殺しちまおうや」



「ああ、そのことなんだのぉ。皆、聞いてくれ」



 町長である老人は1冊の本を机の上に静かに置く。

ビンベを含む男たちはその本に注目し、本の存在に疑問を持つが町長が口を開くまで押し黙る。



「この本はな、初代町長、つまり前の前の前の町長であるワシの遠い爺さんが書いたものでな。その日記なんじゃが、この街を作り上げようとしたときにもゴブリンがたびたび襲ってきたらしいんだわ。というより、この街ができる前にも昔からこの場所はゴブリンたちに襲われていたみたいじゃが」



「それで、そこにゴブリンどもへの対策が書いてある、と?」





「うむ。ある()()でゴブリンから街が襲われなくなった、と書いてある」



「なぁ、町長。話が回りくどいぞ? そんな方法があるなら、街の男たちを集めて話した方が早いだろ? なぜ、こんな少ない人数だけ集めた?」



 ビンベは町長の話に割って入るように質問する。町長はビンベをジロリと見やると、話を続ける。



「方法はな…"生贄"じゃよ。若い娘っ子をな、アグナの角の近くに供えるんじゃ。そしたら、ピタリとゴブリンどもは街を襲わなくなったらしい。この方法も、街ができる前からずっとこの場所に住んでいる人間に聞いたらしい。そういう"風習"だったんじゃよ、ここは。わかるじゃろ、ワシがこんな少人数しか集めなかった理由が。誰が好き好んで我が子を生贄にするものか、こんな話を聞いたら皆暴れ出して混乱するからのぉ。だからこそ、ワシよりか住民に信用あるお主たちを呼んだんだからノォ」



「は?」



「生贄…?」

 


「あのゴブリンどもに誰かを差し出せって?」



ざわめきが起きる。突拍子もない町長の提案に、ビンベを除く男たちは口々に言葉を吐き出す。だが、そんな喧騒の中、ビンベが怒気を孕んだ口調で町長をまっすぐ見据えながら口を開く。


「…うちのソフィー()がゴブリンどものせいで怪我したんだぞ? 代わりに誰かを差し出して、はい、お終いだって? ふざけるな、あいつらを1匹残らずぶち殺せばいいだろ」



「ワシだって気持ちはわかるが…もし、あいつらを取り逃がして今日のようにこの街が襲われるようになったら、どうするつもりじゃ。ワシにはこの街を守る義務があるんじゃ!」



「それこそ、生贄を捧げたってゴブリンどもが大人しくなる保証なんてないだろっ!」



「そうだ、そうだ! 殺るか殺られるかだろっ!」



「いや、でも町長の言うことも一理あるぞ」



「はぁっ?」



 意見はまとまらず、怒鳴り合い、果ては胸ぐらを掴み始める。一触即発の雰囲気、そこまでの流れを窓から覗いていたハコミはふと背後に気配を感じて振り返る。同時に、短剣の切っ先がハコミの喉元へと突きつけられた。窓から差し込む灯りで短剣の持ち主が闇から浮かび上がる。



「…クライブ?」



「…この街が襲われたのは、君のせいなんじゃないか?」



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