便器の蓋だったけど転生してドラゴン人になったな
閉じて開いて、開いて閉じて。
あと何年、それを繰り返すのだろう。
近頃、そんなことばかり考えている。
……なんて無意味な一生!
人間のように、些細なことで心揺らせたのなら! せめて陶器のような心があったのなら!
でも私はそうではないから、諦めの安寧に身を浸し、排泄物を浸して、朽ちて無くなるその日を待つ。
だが、そんな生活は、突然終わりを告げた。
唸る重機が私という存在をバラバラにしたのだ!
「起きなさい、ベストロレーヤ」
甘く優しい女の声が、私を眠りから目覚めさせた。
「ベストロレーヤ、あなたはじきにこの巣から出て、人の街へ行かなければなりません」
「かあ、さま、どうして、私が」
その途切れ途切れの拙い声が、自分のものであることに驚く。
「それはもう決まってしまったことなのです。あなたはドラゴンではなく人として、何かを成さねばなりません」
人、ドラゴン……、私はかつてのそれと、かけ離れた存在になったのだ。
「わかり、ました。私は私の成すべきことを成します」
言って、私は巣の縁を乗り越えて、空に身を躍らせた。
感じたことのない新しい感触が、全身を駆け巡った。
風だ、この世界には風があるのだ。
この密かな旅立ちから3年後、世界中のトイレというトイレに蓋が設けられることになる。