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5、移住

 春になり、ゾフィー兄様の結婚式が華やかに行われ、私も宮廷学校に入学できる7歳の年齢を迎えた。

そして今日、兄様と私は実家から首都にあるコルベーナ侯爵邸へと移り住む。


私は鼻歌を歌いながら引越しの準備をしていた。


「アンナお嬢様、イサベル様からお古のドレスを頂きました。これもお持ちになりますか?」


「うん。もちろん!持っていけるものは全て持っていくわ」


私の持ち物は全てイサベル姉様からのお古だ。

実は私の上に3人お姉様がいるから、お古のお古のまたまたお古。

かなり年季の入った洋服だけどレースふりふり、リボン盛りだくさんの可愛らしいものばかり。

前世では決して着ることはできないような洋服だ。

前世は喪女だけど心は乙女だった私には大満足。


「アンナ、本当に大丈夫?」


心配そうにお母様が私に尋ねる。

どうやらお母様だけは、私が宮廷学校へ入学することに反対だった。


「大丈夫よ。ゾフィー兄様には迷惑かけないようにするわ」


「アンナ、お母様はね、あなたが傷つかないか心配なの。貴族は優しい人だけとは限らないのよ」


お母様はそっと私を抱き寄せた。

確かにお母様やお父様、他の兄弟たちと会えなくなるのは寂しい。

寂しいけど今は期待の方が大きい。

それに、あの腕輪のせいで、はやく首都に行きたい。

なぜならもう、あの腕輪は魔力切れになってしまったので、魔術書が読めなくなってしまった。

こんな田舎には、あの腕輪に魔力を保持できる魔法使いは、いない。

強い魔法使いは、首都に集まる。

ゾフィー兄様も魔力は強い方だけど、あの腕輪は回復魔法系の魔法道具らしく、攻撃魔法が得意なゾフィー兄様にも無理だった。

前世のゲームでも、MPを回復するのは難しかった気がする。


「あぁ、アンナ、今日も妖精のように可愛いね。さて、支度もできたようだね。さぁ、出発しよう」


「はい! みんな行ってきま〜す」



 馬車に揺られ、2日経ちようやく首都の城が見えてきた。


「わぁ〜ゾフィー兄様、見てみて。お城が見えてきた。素敵だわぁ」


もしかして、王子様と運命の出会いがあっちゃったして。

確か、王子様は3人いるはず。

誰でもいいから、拝顔してみたい。

それに、首都の城下街って、前世のフィレンツェみたいにロマンチック。


しばらくすると、私達は、コルベーナ侯爵邸に到着した。

コルベーナ侯爵邸は、私が住んでいた屋敷より、倍以上の大きさだ。

なんて、素敵なお屋敷。

ここに住めるなんて、夢見たい。


「お待ちしてました。ゾフィー様。中でご主人様が応接間でお待ちになっております」


迎えの執事がニコリともせずに、私達を応接間に案内してくれた。

そして執事は私をゆっくり下から上まで見て、溜息(ためいき)をつき、冷ややかな視線を私に投げかけた。

私は不穏な空気を感じつつ、ゾフィー兄様に連れられて、応接間に行く。


 応接間に入ると、コルベーナ侯爵、侯爵夫人、エレナ様、あと私と同年齢の女の子がいた。


「待ちかねていたよ、ゾフィー。長旅疲れただろう。もうここはお前の家だ。遠慮せず寛ぐがいい」


コルベーナ侯爵はあご髭を撫でながら、ゾフィー兄様に挨拶した。


「ありがとうございます。そうさせて頂きます」


「アンナも、よく来てくれたね」


コルベーナ侯爵は少しだけ口元に笑みを浮かべた。

しかし、コルベーナ侯爵の目は全く笑ってない。


「⋯⋯⋯⋯」


私は緊張して何も言えなくなってしまった。


「お義父様、アンナの宮廷学校の手配、また部屋まで用意していただき、ありがとうございます。感謝しきれません」


ゾフィー兄様は頭を下げながらお礼を述べた。

私もつられて頭を下げる。


「わたくしに、挑戦状を送りつけた子ですね。もっと賢い子を想像してましたわ。可愛らしい田舎娘って感じね」


ズバズバ、エレナ様が私を批評した。

エレナ様は一言で言うと、ペガサスのような女性だ。

ペガサスのように華やかで美しく、芯の強い女性、それがエレナ様。


「お母様、これはレディー教育のしがいがありますわね」


「まあ。ほんとうにそのようね。私はあなたのお母様に代わって、あなたを一人前のレディーにする責任がありますし、よろしくね。アンナ」


「お世話になります。アンナは少しお転婆ですが、賢い子です。よろしくお願いいたします」


 私はゾフィー兄様とコルベーナ侯爵家の人々がお話をしている時、一言も話せなかった。

もう1人、一言も話さなかった人物がいる。

エレナ様の妹、私と同年齢の女の子、シャーロット様だ。

エレナ様がペガサスなら、妹のシャーロット様はユニコーンだ。

シャーロット様はユニコーンの如く気高く気品に(あふ)れている。

7歳児にして美しいと思わせる容貌も持っている。

そんなシャーロット様が無言でずーっと私を(にら)んでた。

どうやら、私にはバラ色の生活が待っていると思いきや、イバラの道を進むことになりそう。


 そうして、私は上流貴族の生活が始まった。

お辞儀や食べ方、挨拶の仕方、全てに厳しい(しつけ)が待っていた。

たぶん、前世の記憶がない7歳児なら、とうの昔に故郷に逃げ帰っていたと思う。

でも、田舎に帰ったら、あの腕輪は使い物にならなくなる。

私に、素晴らしい環境を整えてくれたゾフィー兄様のためにも、ここで負けたくない。

ちなみに、ゾフィー兄様は剣と魔法ができるため魔法剣士として親衛隊に入隊した。

新人の親衛隊の仕事は忙しく、ゾフィー兄様はほとんど屋敷に帰らなかった。


 しかし、上流貴族の洗礼は、宮廷学校に入学してからのほうが壮絶だった。


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