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2、誕生


  神々しい光があまりに(まぶ)しく目が開けられない。

けれどその光が徐々に優しい光になり、私はそっと目を開けた。

すると目の前には、はち切れんばかりの満面の笑みをした、ダンディな中年男性と子供達が私を取り囲んで見ている。


「おぉ!  アンナが目を開けた。なんて可愛らしいんだ」


 中年男性がそう言うと、子供たちも、「かわいい〜!」「僕に似てる」「ましゅまろみたい」と声を上げた。

どうやら私を褒め称えているらしい⋯⋯。

あなたたちは誰ですか?と尋ねようとしたらうまく口が動かない。

その時、優しそうな中年女性が私の体を軽々と抱きかかえる。

抱きかかえられる瞬間、私は、壁に掛けられた鏡の中にいる自分を見た。

嘘でしょ⋯⋯、私、赤ちゃんになっている。

それもめちゃ可愛い。

金髪で青い目、天使だ。

って私、ほんとうに転生したんだ。

でもなんで前の記憶があるんだ?


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉ」


 と、またあの神の笑い声が私の頭の中に響いた。


「神さま?  私、転生したんだ!?」


「そうじゃ、そうじゃ。わしの世界に転生してやったぞ。王子も妖精もいるぞ」


「凄い。夢じゃないんだ」


「わしゃ、うら若き乙女の願い事には弱いんじゃ。それにじゃ、前世の記憶ものこしてあるぞ。わしの加護と思って受け取るがよいぞ」


「あ、ありがとうございます。神さま。私、これからは信心深くなれそうです」


「ふぉっふぉっふぉ。じゃあの。乙女よ。今度こそ良い人生を送るのじゃ」


 神はそう言うと、私の頭の中から消えた。


「アンナちゃん、可愛いでしゅね~」


中年男性が、私のほっぺをツンツンしながら言う。

どうやら私の名前はアンナらしい。

この中年男性は私の父親で、中年女性は私の母親のようだ。

兄弟、なんか多いんですけど。

ひぃ~、ふぅ~、みぃ~・・・って6人もいる。

男の子が3人、女の子が3人。

私を入れると子供だけで7人もいる。

大家族だ。


  この大家族に囲まれ、私は意外にも赤ちゃん生活を大いに楽しんだ。

まぁ、大人の部分も持っている私にとっては、色々恥ずかしい事もあったけど、慣れると実に快適。


 またこの大家族は愛情深く、私を溺愛している。

特に私を溺愛しているのは2番目のお兄様、ゾフィー兄様。

もう、めちゃイケメン。

なおかつ息を吐くように極上の甘いセリフを言う。

生粋のモテ男だ。


「私の可愛いプリンセス。今日も口ずけをさせておくれ」


 ゾフィー兄様は、毎日、私を優しく抱きよせ頬にキスをしてくれる。

前世が喪女だった私には鼻血ぶーな毎日。

たまりません。

もちろん私も、家族の中で1番、ゾフィー兄様が大好き。


そんな日々過ごしていて、徐々にこの世界がわかってきたことがある。

まず私は伯爵家の御令嬢で、フルネームはアンナ ・フェ・シーラス。

王様も騎士も魔法使いもいて、主食はパンで、移動手段は馬車。

どことなく前世の近世の西洋にとても似ている。

まるでマリーアントワネットを題材にした映画の中に、入り込んだ感覚だ。

ただ前世の近世の西洋と違い、トイレやお風呂は普及してしる。


  この環境に私は慣れ、楽しく過ごしていたが、その楽しい生活が突如、終わりを迎えた。

それは、6歳の誕生日を迎えた時。

先生と呼ばれる気難しそうな男性が私の家を訪れた時だった。


「トマス先生、いつもお世話になっております」


「さっそくですが、この子がアンナ嬢ですかな?」


「はい。そうです、トマス先生。アンナの魔力鑑定をお願いします」


  とうとう、とうとう念願かなってのファンタジーな展開。

わくわく、どきどきである。

この世界の人々は6歳になると、特に貴族男性は魔力鑑定をする。

魔力鑑定とは、主に魔力の強弱を鑑定する。

鑑定士によっては、どの精霊に加護を受けやすいか攻撃魔法や回復魔法の向き不向きも鑑定してくれる。

その鑑定結果を経て、魔力が強ければ魔法使いの道へ、弱ければ男性だと騎士の道へと進路を手引してくれる。


  女性の魔力鑑定は主にお見合いの釣書になる。

魔力が強い同士の両親からは、比較的魔力が強い子が生まれる。

魔力が強ければ、就職も昇進もしやすい。

そのため、この世界で魔力が強い女性は結婚に関しては有利だ。


  また特に魔力が強い子には、どこかしらに痣がある。

そんな痣がある子は、魔力鑑定などせず、魔法使いの道に進む。

貴族の魔法使いはイコール、宮廷官僚になれるエリートだ。

私が大好きなゾフィー兄さんにも右腕に小さな痣がある。


「さて、アンナ様。私の手にアンナ様の手を置き、私の目を見て下さい」


「はっ、はい。トマス先生」


 緊張して、手が震えてくる。


『ベニー・イ・ルミネ ・真実を司る精霊よ。我に従い、心眼を開け、我に見せよ』


 トマス先生は呪文を唱えた。

すると、ほのかに風が舞い、トマス先生を軸にして魔法陣が白く光り輝きながら浮かび上がる。


「⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯おかしい」


 トマス先生は眉間に皺をよせ、私の手をさらに強く握りしめた。


『ベニー・イ・ルミネ ・真実を司る精霊よ。我に従い、心眼を開け、我に見せよ!』


 先程の呪文をトマス先生は、再度、力強く唱える。


  どれくらい時間が過ぎただろうか⋯⋯。

きっと、ちゃんと測ったら3分も経っていないけど、私には永遠に感じられた。

家中がシーンと無音になり、みんながトマス先生の発する言葉を固唾を飲んで待っている。


「⋯⋯魔力鑑定、できませんでした」


 トマス先生が静かに述べた。


「ど、どういうことですか?」


 お父様がトマス先生に問う。


「アンナ様はおそらく魔力がありません。そのため魔力鑑定ができないのです」


「そ、そんな⋯⋯」


「もしくは、アンナ様の魔力が微力すぎて、鑑定できないだけかもしれません。私の魔力不足かもしれません」


「今まで、このように魔力鑑定できなかった子はいたんですか?」


「⋯⋯⋯⋯いません」


 トマス先生が首を横に振りる。

同時に、家族全員が憐れな目を、私に浴びせる。


 がーん、そんな、まさか。

せっかくファンタジーな世界に転生したのに、魔力がないなんて。

最悪だー。

神さまのバカー!!!



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