1.
毎日投稿を心掛け、1話500~1000文字程度で毎日書いていきます。
静かな。本当に静かな田んぼ道を歩いている。濃霧に覆われ、さらには小雨が降り注ぐ道の見える範囲は自分から2~3メートル程だ。それ以遠は何も見えない。流石に歩き疲れたので、次に見えてきた民家に入ろうと決める。都合よく見えた民家の、玄関のカギは運よく空いていた。無理やり侵入する手間が省けた。
中には誰もいない。
玄関の引き戸を開けると短い廊下の先の正面と左手に襖が見える。行儀よく靴を脱ぎお邪魔になることにする。小さな埃は見えるが、それ以外はしっかりと定期的に掃除されているような綺麗な内装だ。家自体が古いのか、裸足で廊下を歩くと軽くミシミシと音が鳴る。
正面の襖を開けると、6畳ほどの畳部屋だった。壁際には年季の入った本棚や衣服棚。そして、いまだに動いている古時計が現在の時刻を指し示しながら、秒針の動く音を立てていた。
ここにも誰もいない。
軽く畳をはたいて埃を取り除くと、彼女は仰向けに、大の字になって寝転んだ。十分に足を伸ばして寝転べる場所ではいつもこうする。小雨だった雨は、いつしか強い音を立てていた。歩き疲れたことだし、今日はこの家で寝泊まりしよう。
私の名前はカナ。誰もいなくなったこの世界でたった一人生きる。
今日も誰とも出会わなかった。