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ギルドスタッフ 接客

 何もない時間が続き、そろそろ受付にも飽きてきた頃、地元ハンターのゴンザレスとサイモンがやって来た。

「おう。久しぶりだな。仕事か?」

「リーパー! 仕事ですよ! 口の利き方に注意して下さい!」

 顔見知りだと、ついつい自分が今、ギルドの受付だという事を忘れてしまう。いつもの口調で話す俺に、リリアが注意した。

「あ! そうだった……すみません」

 完全に油断していた俺は、ゴンザレスにではなく、サブマスターのリリアに謝ってしまった。それを見たリリアは、俺の太ももをガシッと掴んだ。痛くはないが、背筋が伸びるほどビックリした。

「別に構わんよ。俺達も、こいつが敬語の方が気持ち悪い」

 ゴンザレスは、シェオール生まれ、シェオール育ちのCクラスハンターで、髭がトレードマークの親父ハンターだ。専属契約はしていないが、この町でずっとハンターをしている古株だ。

「そうですね。リーパーは私達と同業者、という感じですからね」

 サイモンは、あちこち転々としながらハンターをしていたが、この町を気に入り、三年ほど前から住み着いたベテランCクラスハンターだ。確か三十六歳だと思ったが、歳のわりに若く見え、銀髪のロン毛を後ろで束ね、整った顔立ち、喋り方、立ち振る舞い方などから、町の女性に”紳士“と呼ばれるイケメンだ。

 二人とは現役時代、一緒に仕事をしたことは無いが、何度か顔を合わせたこともあり、それなりに親密な関係だった。

「いえ、そういうわけにはいきません。うちで働く以上、お客様への対応はきっちりしてもらいます」

 それは俺に言わなければならない言葉なのに、リリアは何故かゴンザレス達にそう言った。リリアは絶対誰かを怒る事に慣れていない! なんか仲間外れにされた気がして寂しい!

「まぁ。顔見知りにはそちらの方が良いのかもしれませんが、初対面のお客様に対しては、失礼の無いようにお願いしますよ?」

 そこは俺に言うんだ? リリアは本当に優しい子だ。でもそれはそれで、教育係としてはマズくない?

「分かってるよ。俺もそこまで失礼じゃないから心配すんな」

 リリアは俺の言葉を聞くと、喜びを滲ませた表情で、満足そうに頷いた。

「お前もリリアの下で働こうなんて、物好きだな?」

 それを見ていたゴンザレスが、ニヤニヤしながら言う。

「仕方ないだろ! これも仕事だ! それより、何の御用ですか、お客様?」

「おう。依頼を済ませて来たぞ。ほれ、頼む」

 ゴンザレスはそう言い、ハンターライセンスと一枚の書類を提出した。それを見て、リリアが空かさず言う。さすがプロ。

「少々お待ち下さい」

 リリアは差し出された書類を受け取ると、カウンターの中から、バインダーを取り出し、照らし合わせるように確認し出した。

 ハンターは仕事を終えると、ギルドでクエスト完了を報告する。そのとき狩猟したモンスターを運搬してくれる解体屋が同伴していた場合、完了証明書を渡され、ハンターはそれを提出して成否の報告をする。ギルドはそれを見て成否を確認し、報酬を支払う。そしてハンターはこの時、達成していればライセンスの裏にその難度の証明の判を貰える。

 クエストの難度は、上からS・A・B・C・D・Eの六段階あり、ギルドはその数の多さや難度の高さで、ハンターの質を判断する。

「では、サイモン様。ライセンスを御提出を願います」

 書類確認を終えたリリアは、サイモンにライセンスの提出を求めた。

「どうぞ」

 サイモンがライセンスを手渡すと、リリアは二人のライセンスの裏に、Cの判子を押した。

「お疲れさまでした。ライセンスをお返しします。報酬をお支払い致しますので、少々お待ち下さい」

 ライセンスを返したリリアは、カウンター裏の金庫から、報酬の入った袋を取り出し、ゴンザレスに渡した。

「こちらは報酬の六百ゴールドになります。ご確認下さい」

「リリアとヒーが確認した金なら、確認は要らねぇよ」

 余程リリア達を信頼しているのか、ゴンザレスはそう言って、報酬の中身を確認する事も無く手に取った。

「ありがとう御座います。では、こちらにサインをお願いします」

「おう」

 ゴンザレスは手慣れた手つきで、完了書にサインした。

「手続きは完了致しました。ご利用頂き、誠にありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」

 完了手続きが終了し、リリアはお辞儀した。それを見て、俺も慌ててお辞儀した。今まではされる側だった為、滅茶苦茶焦った。

「おう。ありがとな。じゃあ仕事頑張れよ」

 二人は手続きが終わると、あっさりジャンナへと向かって行った。現役時代、完了手続きは正直面倒で、俺も貰うものを貰えば同じ事をしていた。しかし、いざ自分がやられると少し寂しい。仕事とはこういうものなのだろう。

「リーパー。今のように、狩猟から戻って来たハンターの書類は、こちらの受注の時の書類と、解体屋の狩猟完了証明書で確認します」

 リリアは早速二つの書類を見せ、手続きの説明を始めた。これを機に、ハンター時代疑問に思っていた質問をぶつける事にした。

「本物かどうか、どこで確認すんだ?」

 話の腰を折るような俺の質問にも、リリアは嫌な顔一つ見せず応えてくれた。

「完了書に六桁の記号があります。これは解体屋の証明記号になります。これで確認します」

 リリアは、丁寧に記号を指さし、分かり易く説明してくれる。基本適当な性格のリリアだが、責任感が強いため、こういう真面目な事には真剣に向き合ってくれる。

「あ~そうだったんだ。いつも気になってたんだ、この変な模様」

 ハンター時代の謎が一つ解け、スッキリした。

「説明を続けますよ?」

「あぁ、頼む」

「次に、このバインダーにハンターリストがあるので、それに必要事項を記入します。このバインダーは、最後には必ずギルドマスターの部屋に保管します。個人情報なので、ギルド関係者以外は基本閲覧禁止です。分かりましたか?」

「分かった」

 リリアは分厚いバインダーを取り出し、ゴンザレスのページを開き、俺に見せた。

 ページには、そのハンターが何処で何時ライセンスを取得した事から、今までのクエストの経歴や場所など、予想以上に細かく記されていた。

「凄いなこれ。……俺のもあるのか?」

「一度でもここでクエストを受けていれば、あるはずです。探してみますか?」

 こんな田舎でハントをしようなどという考えは、都会に出て、鼻の高くなっていた当時の俺には無かった。

「……いや、いい。俺、ここで依頼こなした事ないもん……」

「出身地で仕事をこなさないとは、ダメダメハンターですね」

「それは関係ないだろ!」

「……まぁいいです」

「いいのかよ!」  

 あまりにさっぱり話を切られた事に、初めてパワハラをされた気がした。

「記入はこことここです」

 気ではなく、完全にパワハラだよね?

 リリアはそんな俺に構わず、素早く何かを書き込み、次にサイモンのページを開き、同じように何かを記入した。

「今、何書いたんだ?」

「日時と成否とランクです。受注の時点でも色々書き込みますが、一遍には覚えられないと思うので、今はこれだけ覚えれば十分です」

 あ、リリアはちゃんと俺の力量を理解していた。でも、正直今のでも自信が無い。俺ってそんなに優秀じゃないよ?

「あ、あぁ……」

 俺の返事にリリアは小さく二回頷き、説明を続ける。ごめんねリリア。良く分かんないや。

「そしてこの完了書は、確認者、今は私が確認したので、ここに私の名前を書き、こちらの封筒に入れて保管します。これは後で事実確認に使用するため、必ず封筒に入れ保管して下さい」

「事実確認って?」

「解体屋の元へ行き、それが本当なのか確認します」

「そうなの!? わざわざ確認すんだ!」

 衝撃の事実! ギルドスタッフってこんな事までしてんの? ハンターって意外と信用されて無いの?

「えぇ。うちではいませんが、中には偽造するハンターがいるようで、完了手続きをしに来ないハンターより質が悪いんですよ」

 それは俺も噂では聞いたことがある。しかしそれをしてしまえば、一発でライセンスを剥奪されるだろう。そこまでして金が欲しい奴がいるのが怖い。

「大変なんだな、受付も……」

「信用を失えば、この商売はやっていけませんからね。最後にこちらの受注書にサインをして終了します。そしてこの書類は、まとめてギルドマスターの部屋に保管します」

 ハンター時代は深くは考えた事はなかったが、ギルドがしっかりしていたからこそ、俺達ハンターは仕事に専念出来たのだと知り、ギルドの有難みを再確認した。

 

    

 


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