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作戦失敗?

 顔に当る雨も、腰の筋肉痛のような痛みも、濡れた衣服の不快感も忘れ、焦げ臭い川原で山亀が動き出すのをじっと待っていた。

 ザァーという雨の静かな音と、呼吸によって膨縮する自分の胸の動きがはっきりと分かるほど集中していた。

 しばらくはいつもの山の静けさが流れ、足が棒のように固くなるほどの時間が流れた。

 ――しかしその時間は終わり、再び山亀が動き出した。

 頭を甲羅から出し、辺りを確認し、俺たちと目が合ったにも関らず、安全と確信したのか、手足を出し立ち上がった。

「まだだ! まだ撃つな!」

 クレアが叫ぶ。

 山亀は首を左右に振り、どちらに進むか確認するように頭を動かす。

 その間俺は、目を狙えと言われたため山亀の目を見ていたが、あそこまで大きな目玉には、さすがに恐怖を憶えた。

 山亀はやっと進路を決めたのか、ゆっくりと俺たちのいる町のほうへ体を向けだした。それを見てクレアが叫ぶ。

「撃て!」

 その声に、必ず当ててやると花火の噴射火花の熱さを無視し、狙いをつけ放った。

 俺とクレアの放った花火は、ピューっという甲高い音と、ピンク色の煙を噴出しながら山亀の目を外れ、顔に当った。

 それを受けても山亀は気にする様子も無く、動き続ける。

 クレアは残りの一本にも火を着け放ったが、それは虚しく山亀の頭上を通過し、空に消えて行った。

「くそっ!」

 クレアはそう言いライターを叩きつけ、悔しそうに下を向く。が、俺はそんなクレアの腕を引っ張り、慌てていたため、山亀の進行方向へ逃げているとも気付かず町の方へと走った。

 クレアは何も言わず、引っ張られるままついて来る。

 振り返ることなく必死に逃げると、山亀の出すはずのないピューッという音が聞こえ、俺たちの上を赤い狼煙花火が飛んでいった。

 それを見たクレアが叫ぶ。

「どこでもいい、岩陰に入るぞ!」

 その声と同時に、掴んでいたクレアの腕に引っ張り込まれる形で岩陰に入り、覆い被さるように倒れた。

 クレアを体の下に入れ、抱きつくような形になると、強烈な爆音が響き、それと同時に何か見えない衝撃に襲われ、そこから先の記憶が無くなった。

 


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