表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

ギルドスタッフ 朝礼

 リリアの「朝礼を始めます!」という声で、受付前に集合させられた。この時、俺は初めてこのギルドで働く全ての従業員と顔を合わせる。

 このギルドでは、俺達受付班とは別に、ジャンナで料理を担当する食事処の三人を加え、今日はまだ顔を見せていないここの責任者、ギルドマスターのニルを合わせ全七名だと知る。

 どこのギルドでもそうだが、ギルドは武器屋や薬屋など、様々な店を併設しており、ここのギルドも例外なく、飲食物を提供する、お食事処ここのギルドではジャンナというを経営していた。

 これは大きな町のギルドならいざ知らず、田舎の小さなギルドでは、経営維持するだけの収入を得られるほど仕事が無いためである。

 本来ギルドは、街の生活圏の確保や維持のための組織であり、その町々で維持、経営している。その資金として使われるのが、俗に言う税金というやつである。つまりギルドの経営難は、その町の危機となる。その為、ギルド自体が如何に利益を上げられるのかが、その町の強みとなるのである。

 シェオールも当初は他の飲食店との摩擦があったようだが、ハンターが調達するレアな食材を使った料理で特色を出し、住み分けているようで、現在ではそれなりに町の収益に貢献しているようだ。

「え~では、先ずは今日からここで働く新人の、リーパーです! みんな知っているはずなので、ここは割愛します。では今日の……」

「ちょちょちょっと、紹介ぐらいはちゃんとしてよ! 初めて会う人もいるんだからさ」

「面倒くさい人ですね? 今でなくては駄目ですか?」

「おい! 適当過ぎじゃねーか!」

 リリアは何故サブマスターになれたのか、疑問になる。

「リリア。事が進まないので、少し時間を割きましょう」

 リリアのあまりの適当さに、ヒーが諭してくれた。

「仕方ありませんね。では、こっちがホール担当のフィリア。こっちの二人がシェフの、ジョニーとアントノフ。これで良いですか?」

 フィリアとジョニーは姉弟きょうだいで、昔からの幼馴染だ。

 フィリアは正にお嬢様という感じの女性で、金色のロングヘアーに綺麗な顔立ちをしている。言葉遣いも綺麗で、とても優しい性格をしており、リリアの事を何故か様付で呼ぶ。運動神経も高く、シェオールでは一番と言われるほどの美人でもあるが、ちょくちょくお金に五月蠅かったり、時々暴言に近い言葉を吐くことがある。

 ジョニーは一八〇後半の長身で、筋肉質で肩幅が広い。その為とても大きく見える。短い黒髪はさっぱり整えられ、無精ひげも綺麗に剃られていて清潔感がある。元アルカナ騎士という経歴があり、剣の達人である。性格は正に武人という感じで、寡黙で、ヒー程ではないが無駄口を叩かない。良く気が利き、他人が気が付かない所に目が届く性格だ。しかし自分をどう表現したら良いのか分からず、たまに鬱陶しさを感じるときがあり、そのせいで、昔はよくリリアに虐められていた。現在は大丈夫だとは思うが……

「フィリアとジョニーは知ってるよ! アントノフさんとは初めてだよ。あっ、どうもリーパーです。よろしく」

 アントノフは目が合うと、無言で軽く会釈してくれた。

 アントノフはジョニーと同等の身長で、スラリとした細身の体型をしている。落ち着いた茶色の少し長い髪をオールバックにしているが、優しそうな顔をしている中年男性だ。

「これで良いですね? 朝礼はすでに仕事です! 良いですか!」

「あ……はい。……すみません……」

 お前が言うな! と言いたかったが、新人の俺は素直にサブマスターの言葉に謝った。

「それでは。今日明日と、ギルドマスターのニルが連盟の会議で不在です。ですので、何かあれば私の指示に従ってもらいますので、よろしくお願いします。報告は以上です。何か質問はありますか?」

 誰も気になるような事は無いようで、応答しない。当然俺も質問はない。というか、俺には良く分からない。ギルドマスターが会議でいない事を聞いても、何の役に立つのだろう?

「ではフィリア。今日はフィリアがお願いします」

「はい。リリア様」

 そう言うと、メンバーは二人ずつ向かい合った。

 何々!? 何が始まるの? ちゃんとしないと怒られる!

「リーパーは私とです。フィリアに続いて、真似をして下さい」

 全く説明の無いまま事が進み、動揺する俺に、ヒーが優しく声を掛けてくれた。ヒーが先輩で良かった。

 何が始まるのか分からない俺は、とりあえずヒーに言われた通り向かい合い、フィリアの真似をすることにした。

「ようこそシェオールギルドへ!」

 大きな声でフィリアはそう言い、向かい合うジョニーにお辞儀した。

「ようこそシェオールギルドへ!」

 それに続いて皆も同じように声を出し、向かい合う相手にお辞儀した。

「よよ、ようこそシェオールギルドへ」

 俺も慌ててそれに続き、ヒーに向かってお辞儀した。だが、なんだか恥ずかしくて、皆より大きな声は出せなかった。

「御用件は何でしょうか?」

 そんな俺などお構いなしにフィリアは続け、その声に皆が続く。

「御用件は何でしょうか?」

 とにかく真似をしなければ、仲間外れにされてしまうような気がして、俺も必死に真似をする。

「畏まりました!」

「か、かしこまりました!」

「ご利用ありがとうございます!」

「ごごご、ご利用ありがとうございます!」 

 そこまで言うとフィリアは、突然右腕をぐっと構え「それでは今日も、元気よく行きましょう!」と握った拳を高々と揚げた。

 え!? と驚く俺だが、皆はそれに応える様に「おう!」と声を上げた。俺も慌てて皆に合わせる。これって普通なの?

 これは一体何なの? とヒーに質問しようとすると、フィリアたちジャンナの班はさっさと厨房へと入って行った。

 ええ!? 誰か説明して!? 

 何だかよく分からなかったが、とりあえずミーティングは終了したようで、やっと仕事が始まると思っていた俺に、リリアが声を掛けた。

「何をボーっとしているんですか? 打ち合せしますよ?」

「えっ! 今のは何だったの?」

 ええ!? 今のは朝礼じゃないの!? なんで俺達集めたの!?

「全く貴方という人は。朝礼ですよ。ちょ・う・れ・い」

 えええ‼ 今、朝礼終わったのに、また打ち合わせすんの! あれは何だったの?

「リリア。もう少し分かり易く説明してあげましょう。少し省き過ぎです」

 ヒーは本当に良い子。ヒーがサブマスターやればいいのに。

「朝礼の説明を分かり易くの意味が分かりませんね? 見て覚えなさい!」

「職人か!」

 リリアは本当に適当過ぎる。ちょっとしたパワハラではないかと思う。そんな俺に、ヒーが優しく説明してくれた。

「今のは合同の朝礼です。部署が違えど同じギルド内ですから、ギルドマスターから今日の業務内容の変更や、指示があるんです。いつもはニルがもっとしっかり行います」

「今日はリリアだったから、良く分かんなかったって事か?」

「はい」

「良く分からないは余計です!」

 リリアは不満そうに言うが、自業自得だ!

「じゃあ、最後のあの掛け声は?」

「あれは発声とお辞儀の練習です。毎朝行うので、覚えておいて下さい」 

「了解」

 客商売はこういう朝礼をしているんだなと、少し感心した。

「もういいですか? 打ち合わせしますよ?」

「あ、はい」

 一応サブマスターのリリア。従わないわけにはいかない。

「今日は私が受付を担当します。ヒーはリーパーを連れ、裏方の仕事を教えてあげて下さい」

「分かりました」

「リーパーも分かりましたね?」

「はい、サブマスター」

「なかなか良い返事ですね。では以上!」

 俺にサブマスターと呼ばれた事が嬉しかったのか、リリアはニッコリ笑い、満足そうな表情を見せた。

「では、本日の営業を開始します!」

 リリアはジャンナの皆にも聞こえる様に叫ぶと、正面扉の鍵を開け、本日の営業が始まった。    

 

 

 


  


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ