ギルドスタッフ 避難
びしょびしょになりながら作業を終え、リリアに報告すると、着替えるように言われ、やっと寒さから解放された。
濡れた頭をタオルで拭き、体に引っ付く制服を何とか脱ぎ、乾いた体で乾いた制服を着ると、風呂上りのようにさっぱりできた。しかしネクタイを締めようとすると、悴んだ手が言う事を聞かない。上手くいかずもちゃもちゃしていると、カンカッカッ、カンカッカッと町からの避難しろ! の鐘の音が響いた。もうなんでこういう時に限って移動するの! 俺の都合も考えろや!
時間が無いのでネクタイは諦め、そのままロビーに戻ると、マリアがリリアに詰め寄るように話をしていた。
「どうした? なんかあったのか?」
二人の会話に割って入るように声を掛けた。
「あぁリーパー。そろそろ移動を開始しますよ」
リリアは助かった。というような顔で俺を見た。
「分かった。それよりどうしたんだ?」
「それがですね。マリアが……」
「リーパーさん! 私抜け道知ってるんです! クレアのところに荷物届けないと駄目なんでしょ!」
マリアは、リリアの言葉を遮って言った。その表情はクエストに参加させてほしいというより、何か自分にもできることは無いかという風に見えた。
当然ながら、ライセンスを持たぬ者はエネミークエストに参加できない。それはマリアも分かっているはずだが……
俺はリリアの顔を見た。リリアは困った表情を見せ、鼻でため息をつき、何とかしてくれとマリアを見た。
「マリア、それは自警団が持ってったから大丈夫だ。それより避難命令が出たから、アルカナに行くぞ」
「すみませんがリーパー、少しマリアの話を聞いてあげて下さい」
リリアはそう言うと、ギルドにいる全員に聞こえるように「これからアルカナへ避難します! 焦らずに外の牛車へ乗り込んで下さい!」と叫び、俺にマリアを丸投げにし、避難を始めた。
「リーパーさん! 荷物を届ければ何とかなるんでしょう?」
マリアを放って置くわけにもいかず、避難は皆に任せ、マリアの説得をする事にした。
「なんともならないよ。山亀って知ってるか?」
「いや聞いたこと無い……何それ?」
リリアが山亀のことを言っていないことを知り、口止めされていたことを思い出した。
「あの~……アレだ、アレ。……その~、足の遅い亀のことだ!」
余計な事を言った事に、しまった! と思い誤魔化した。
「それがどうしたの?」
「それ? ……そう! その、何事も焦っては駄目だってことだ!」
よく分からないが、それなりに分かるだろう的に言った。…………いや分からないだろう。俺でさえ何を言っているのか分からないのだから。
「亀のようにどっしり構えろって意味?」
「そう! 大体そんな感じ!」
マリアが頭の良い子で助かった~。いい考察力を持っている、きっといい学者にでもなれる子だ!
「でも、のんびりしてたらモンスターが町に来るんじゃないの?」
「それは自警団とクレア達がなんとかしてくれるよ」
「じゃあなんでアルカナに避難するの!」
「もしものためだよ」
「嘘! 町から避難するのは初めてだもん!」
「えっ! ……そうなの?」
知らなかった。シェオールでの避難命令は経験したことがあり、その時はアルカナへ避難した記憶がある。しかしそれはずっと昔の話で、マリアが物心付く前だった。そのほかにも経験はあるが、それは別の町でハンターとしてクエストに参加していたから、それほど詳しくなかった。
「山亀ってモンスターが出たんでしょ!」
鋭い。さすがはマリアだ。
「……とにかく、今は避難が先だ! 大人しく牛車に乗れ!」
これ以上はマリアのわがままに付き合っていられない。
一旦話を切り上げ、避難を促した。しかし、
「リーパーはAクラスのハンターなんでしょ! 私が道を教えるから、クレアに荷物を届けよう?」
マリアの声に、何人かの町民がこっちを見た。困った。リリアが俺にマリアを預けた理由が分かる。
助けを求め周りに目をやるが、避難に忙しくそれどころではないようだ。
「仮に俺が行っても、ライセンスの無いマリアは連れて行けないぞ?」
「それは分かってる! でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「それでも駄目だ! リリアの指示に従って避難しろ!」
「もういい! ケチ!」
マリアはそう言い、避難者の列に続いて外へ出て行った。
なんとかマリアをやり過ごした俺は、リリアたちと合流し、避難者の誘導を手伝った。
「ではリーパー、貴方は一番後ろの馬車の荷台に乗り、ヒーと一緒に移動して下さい。先導は自警団が行います」
移動の準備が終わると、リリアは俺にそう指示した。
「分かった。リリアはどの荷台に乗るんだ?」
「私はニルとここに残ります」
「はぁ? お前ら避難しないのかよ?」
「いえ。私達はギリギリまで残り、自警団に協力します。ですが、危険が迫れば必ず逃げますから、心配しなくても大丈夫ですよ」
これが責任者。二人だけでギルドに残ると言うリリアに、少し切なさを感じた。
「……分かった」
「後はヒーの指示に従って行動して下さい」
小さく頷くと、牛車の列はアルカナに向け動き出した。




