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ギルドスタッフ 町務員

「はぁ!? 強盗だったらどうすんだよ!?」

 リリアのまさかの指示に驚いた。俺、受付だよ?

「今は私とリーパーしかいません。そんなとき、武器を持った相手に対処するのは、ベテランの女性職員ですか? それとも元Aランクハンターの新人男性職員ですか? どちらだと思います?」

 そう言われると、ベテランのような気もするし、男の立場としては、当然俺が行きますと言うのが正しいような気もする。しかしリリアのあの顔は、俺を試している気もする。

 その間も扉の向こう側からは、ゴソゴソ何かを物色するような音が聞こえてくる。

「さぁ早く!」

 リリアは突然叫んだ。その表情はいつの間にか真剣なものとなっていて、ふざけているのではないのだと分かった。

「身を守る物かなんか無いのか!」

 迷っている時間は無い。今は俺しかいない。もうやるしかない! 俺だって元ハンターだ! やってやる!

「聞いてませんでしたか? ギルドの制服には、従業員の命を守るためのプロテクトの魔法が掛かっていると。なので安心して下さい」

 理由は今はどうでもいい。とにかく次は武器だ。

「じゃあ武器は!」

 それを聞いてリリアは、受付カウンターの中から三段式の警棒を取り出し、俺に渡した。

「それでぶっ叩いて下さい。ただし頭は駄目ですよ、死んでしまいますから。叩くなら足です。それと、最近ではスーツ姿をした強盗が多いようですので、もしそうでしたら、迷わずお願いします」

 リリアから受け取った警棒を伸ばすと、俺は覚悟を決め、静かに扉を開けた。

 元Aクラスのハンターと言えど、俺が今まで相手にしてきたのはモンスターだ。対人格闘はほとんど経験が無い。そういうのは自警団の仕事である。

 身を低くし、気配を消し、音を立てず強盗? の音のする方へ近づいた。すると、キッチンに向かい何かしている、紺色スーツの人物の足が目に入った。

 俺は一度リリアの方を振り向き、そこにいると指で合図を送った。リリアはそれを見て、警棒で叩けと腕を振る。

 俺は呼吸を整え、完全に気配を消し、飛び出すと同時に足目掛け警棒を叩きつけた。

 警棒は見事に相手の裏太ももにヒットし、それを受けた強盗? は「おわっ!」と声を出し、手に持っていた物を落としながら転んだ。

 俺は空かさず強盗をうつ伏せにさせ、右腕をひねり上げ取り押さえた。

「よしっ! リリア! 手を貸してくれ!」

 振り向きリリアに手助けを求めると、リリアは何故か声を出して笑っていた。俺はその理由が分からず、押さえつけている強盗を見た。すると、

「おっ、俺は、ここのギルドマスターだ……要求は何だ!?」

 と強盗は叫んだ。そして気付いた。強盗だと思っていたのは、ここのギルドマスターのニルだと。

 俺は慌ててニルから離れ、リリアを見た。リリアは嬉しそうに笑っている。あいつは最初から知っていたようだ。

 俺はすぐにニルに頭を深く下げ謝った。

「すみませんでした! 強盗だと思って……。ほんとすいませんでした!」

 ニルは俺に気付き、立ち上がり言った。

「あっ、いや……うん、そうだね。……いや! 気にしなくていいよ。悪いのは俺のほうだから……」

 ニルはこちらを覗くリリアに気付いて、おどおどする。

「あの……足は大丈夫ですか?」

 ニルだと知らず、思い切り自由を奪う気で叩いた。俺はそのことに完全に動揺し、どうしたらよいか分からずうろたえていた。するとリリアが俺達をロビーに呼び、何故かニルに説教を始めた。

「ニル。どうしてリーパーに叩かれたか分かりますよね?」

「……はい。戻って来て、最初にきちんと報告しなかったからです」

 ニルはリリアと目も合わせず謝る。どっちが上司か分からない。

「貴方は何回言えば分かるんですか! 何度痛い目に合えば分かるんですか!」

 何度!? ニルは何度リリアに酷い目に合わされているのだろう?

「すみません……以後気をつけます」

「それも何度目ですか? これからはリーパーもいるんですから、ヒーのようには甘くはないと思って下さいよ」

「……はい」

 ヒーに一体何をやらせているんだ!?

「では仕事の話をします。先ほどブラックリストに名のある、ミサキというハンターが依頼を受けました。ですが、シェオールでは初めての受注という事と、クエスト内容がライセンスを必要としない、簡易の採取だったので受注を認めました。そのことはすでに自警団に報告済みです。問題ありませんか?」

「リリアがそう判断したのなら問題ないよ。その子の資料は?」

 怒られ縮こまっていたニルは、先ほどとはまるで別人のようにリリアに訊く。

「マスターの机の上に、日報ほか置いてあります。そちらで確認して下さい」

「分かった。ほかに問題はあった?」

「いえ。とくに私からはありません」

「そう。じゃあ確認しとく。今日の業務の方は二人で大丈夫か?」

「はい。もし人手が必要になれば声をお掛けします」

「わかった。じゃあ、俺は部屋にいるから、なんかあったら言ってね」

 二人の会話は真剣そのもの。先ほどまでとは全く異なる雰囲気を漂わせていた。仕事への切り替えの早さは、流石はベテランとしか言いようがない。感心する俺に、ニルが言う。

「リーパーも気にしなくていいから。それとリリアがあまり無理言うようなら断ってもいいから」

「いえ。俺も不注意でした。すみません……」

「いいよいいよ気にしなくて。それじゃ、あとは宜しく頼む」

 そう言い残し、ニルは叩かれた足を引きずりながら部屋へ行こうとした。しかしそれをリリアが止めた。

「ニル。必要なくなった書類は、きちんと元の場所に戻して下さいよ?」

「……はい」

 ニルは再び怒られ、肩を落として部屋へ消えていった。 

「おい! お前知ってたろ!」

「えぇ。しかし確認せず叩いたのはリーパーです」

 リリアはしれっと言った。

「お前! 俺を首にする気か!」

「まぁ座ってください。まだ勤務中ですよ?」

 凄いねこの子。全く悪びれる様子が無いよ!

 このまま立っているのも癪だし、警棒をリリアに渡し、俺は腰を下ろした。

「確かに、相手が分かっていて指示したことは謝ります。そして、貴方の見事な働きを賞賛します!」

「ウルせーよ! 相手がヒーとかだったらどうする気だったんだよ!」

「それはさすがに分かるでしょう? ただ、次からは気を付けて下さいよ?」

 腹立つわ~この子。

「もうしねぇーよ! お前らいつもあんな事してんのか!」

「あそこまでは初めてですよ。いつもは脅かしたり、尻を針で刺すぐらいです」

 相手はギルドマスターということを、忘れているんじゃないのかと思う行為だ。

「よく首になんねぇな!」

「私達を首にしたら、このギルドはやっていけませんからね。それに、何度注意しても直さない彼も悪いですから」

「確かにそうだけど……帰ってきた報告しないのが、そんなに駄目なのか?」

「当然ですよ。私達は町務員なんですよ? 自分の行動は業務に影響があるんですから、ちゃんと把握させなきゃ駄目ですよ。それに、勤務中は基本、正面扉を使う。ですよ?」

 俺たちの給料はたしかに税金である事は分かっている。しかしそこまでとは思っていなかった。

「厳しすぎないか? ちょっとぐらい大目に見れないのか?」

「その妥協が積み重なると、全てに影響してくるんですよ。とくに彼の場合、だらしなさ過ぎるんです! リーパーも気をつけないと……分かりますよね?」

「……はい」としか言えなかった。

 それからしばらくして、ジョニーとアントノフが出勤し、少し遅れてフィリアが出勤して来た。そしてすぐにジャンナの開店に向けての準備を始めた。

 俺たちは相も変わらず受付業務を続け、結局ミサキ以外誰も来ないまま昼を迎えた。

 

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