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ギルドスタッフ ピーキーハンター

「実は、あのミサキというハンターは、ブラックリストハンターです。分かりますよね?」

 そう言い、リリアは俺にファイルを見せた。

 ファイルにはミサキの顔がはっきり分かる“映写”という最新の技術が使われていて、それであの時リリアは、間違いなく本人ですと言った意味が分かった。

 ブラックリストハンターは、ライセンス取得後、剥奪までとはいかない罪を犯した者や、それに準ずる迷惑行為を行ったハンターの事で、俗にピーキーハンターと呼ばれている。

「あぁ、よく知ってる。ピーキーハンターの事だろ?」

 それを言った途端、リリアは急に険しい表情になった。

「リーパー。貴方は既にギルドの人間なのですよ! 二度とそのような差別用語は使わないで下さい!」

「え! …………すまん」

 リリアは自分が差別を受けた過去があるため、そういう言葉には敏感に反応する。

 リリアに嫌な思いをさせたという事と、自分がギルドスタッフだという事を忘れ、安易にその言葉を使った事を悔いた。

「……いえ。私も強く言い過ぎました。これからは気を付けて下さいよ?」

 緊張した空気を敏感に察したリリアは、語調を和らげ、不自然な笑みを零した。

 相当今のは咄嗟に出た言葉だったようで、いつもみたく冗談で誤魔化す余裕が無かったようだ。

「あぁ。俺も悪かった。今度からは気を付ける」

 それに気付いた俺は、ひん曲がった俺の性格を正してくれてありがとうという感情を乗せ、優しく返した。

 それが伝わったのか、リリアは安堵したような表情を見せ、ミサキについて続けた。

「名前はフウラ・ミサキ。歳は十六。元A級冒険者ライセンスの持ち主で、二年前の第三次魔王軍討伐作戦に、帝国軍の正規兵として参加しています」

「マジで‼ あのセフィリア高原の戦いに!?」

 現在魔王軍と帝国軍は戦争をしており、シェオールの遥か北、セフィリア地方を舞台に領土争いを繰り広げている。その中でもとくに大きな戦いを、第一、第二などをつけて呼んでいる。

「えぇ。しかしその戦いで、彼女は独断で大規模魔法を放ち、敵味方関係なく、両軍に損害を与えたようです」

 チョーヤバい奴なんですけど! 帝国にも魔王にも喧嘩吹っ掛けるなんて、チョーヤバいんですけど!

「それって、戦犯で死罪じゃないのか?」

「普通ならそうです。ですが、それで敵幹部の一人を倒しています。そしてそれがきっかけとなり、帝国軍はその戦いに勝利しています。その功績も考慮され、投獄こそされなかったものの、ライセンスは剥奪された、と書いてあります」

 リリアは、ミサキの事が書いてある書類を見ながら言った。

「それでハンターになったわけか。……でも、それとこれとは別だろ? 何でわざわざ自警団にまで知らせたんだ?」

「彼女は、ハンターになってからも問題を起こしています」

「そうなの!? 何やらかしたんだあの子?」

 どうやったらそんなに問題を起こせるのか? ある意味彼女は天才だ。

「山火事が一件。土砂崩れ一件。家屋の倒壊三棟。そのほかにも、同伴していたハンターに負傷を負わせています」

 凄いねあの子。伝説の壊し屋じゃないよね?

「それはライセンス剥奪じゃないのか? 何で野放しになってんだ?」

「土砂崩れと家屋の倒壊は、エネミークエストで起こしています。ですが、討伐には成功しています。山火事に関しては、Sランクモンスターの討伐の際のものです。その際は昇格保留の罰で、剥奪までにはいたっていません。唯一問題となった仲間の負傷も、仲間の不注意ということで和解しています」

 とんでもなく危険な因子である事は分かった。

「ちょっと待って。エネミーやSクラスのモンスターを討伐してんの? あの子十六だろ? ランク何ぼだよ?」

「現在Aクラスです。それも、ライセンス取得からわずか十一ヶ月で。しかも、そのほとんどがシングルです」

「マジで!? 一人で十一ヶ月!? 天才じゃん!」

 俺ですらAまで行くのに三年かかった。それもランクの高いパーティーに積極的に参加して。

「えぇ。それもあって、なかなか剥奪とまではいかないようです」

 功績って怖いね。世の中正義が勝つって、本当は嘘なんじゃないの?

「でもよく分かったな?」

「ライセンスには、私たちにだけ分かるよう印があるんですよ」

「どんな?」

「ライセンスの枠線の色と、ちょっとした印です」

 ライセンスには赤や青など、たくさんの枠線の色があり、黄緑は新米。シルバーは専属契約済みなどの意味がある。

「色は知っているよ。青は稼ぎのいいハンターとかだろ?」

「それはハンターが勝手に言っているだけです。ギルド側では全く意味の違うものがほとんどです」

「そうだったの?」

「ええ。赤は注意が必要なハンター。青は危険な仕事を好むハンターとかです。ほとんどが失礼に当るものばかりなので、ハンター達には意味を教えていません」

「えっ! そうなの? ちなみに緑色は?」

「ほとんどがパーティーに参加し、単独ではクエストを行わないハンターです」

「あぁ、そう……」

 ライセンスはときどきギルドから新しいものを渡され、俺たちはそれを更新だと思っていた。そのたびライセンスの囲み線の色が変わり、俺は優良だの、お前はギルドに重宝されているだので盛り上がっていた。しかし真実を聞いてがっかりした。てっきり緑色は、仲間からの信頼が厚いという意味だと思っていたからだ。

「続けますよ?」

 優しいリリアは、傷心した俺を気遣い、確認する。余計なお世話だ!

「色では赤、もしくは紫は、人や物、建物に損害を与える恐れのあるハンターを意味します。そしてその中でもとくに注意が必要なハンターには、囲み線の四つ角が僅かに太くなっています」

 知らなかった! ギルドマジで凄い!

「へぇ~。それは一目ですぐ分かるくらいなのか?」

「いえ。慣れるまでは気付かないと思います。ほとんどの人は印刷のせいだと思う程度です」

「へぇ~」

 ギルドというのはヤバイくらい凄いと思った。まさかここまでしっかり管理されていたとは……怖いわ!

「ちなみに、今の話も喋ってはいけませんよ。規則違反で罰せられますから、心にきちっとしまっておいて下さい」

「……分かりました」

 今の言葉は本気でやばいのだと理解した。

「何でそんな子がここに?」

「それはリーパーの方が詳しいんじゃないんですか?」

「どういう意味だよ?」

 リリアの質問に心当たりはない。というか、意味が分からない。

「彼女が得意とするのは、炎を使う魔法と、大地を隆起させる魔法のようです。ただ力の加減が上手く出来ず、その破壊力は町一つを消し飛ばすらしいです。それも敵味方構わず。そんな彼女の事を周りのハンターは、トラブルの原因と言う悪意を込め、ブロークンギアと呼び、近付こうとはしないようです。そんなハンターが同じギルドにいたら、リーパーはどうしますか?」 

「あぁ~……そういうことか……」

 もしそんなハンターがいたら、誰しも迷わず追い出すだろう。それで彼女は色々なギルドを渡り歩いている。リリアはそう言いたかったのだろう。

「彼女の才能は本物です。ですが、その力を上手く扱う事が出来ない。しかしそれを上手く育める環境に出会えれば、彼女はこのギルドに大いに貢献してくれると思います」

 リリアが今、変なことを言った気がした。

「お前……まさかあの子をうちに置くつもりか?」

「それは彼女が決める事です。ただ、そういう人材をみすみす見逃すようでは、底の浅さを示してしまいます」

「山、燃やされるぞ?」

「クレアがいるじゃないですか。環境としては最適なギルドですよ、うちは」

 クレアは、その気が無くとも人を傷つけてしまうような発言が多々ある。決して意味も無く人を見下したりはしないが、上から目線のような事を言う態度に、マリアでさえそりが合わないのに、無理じゃない?

「無理だろ。クレアじゃ潰しちまうよ!」

「リーパーは知らないと思いますが、クレアは人を育てる才能があるんですよ」

「マリアには全然懐かれてないけどな?」

 あの二人は仲が悪いというか、クレアが厳しく接しすぎる節があるのではないのだろうか。

「マリアは叱られると伸びるタイプだからですよ。マリアは頭も良いですし、向上心も強いです。しかし自分に自信がないようで、物事を悲観的に捉える癖があるようです。それをクレアは知っているんですよ」

「それはお前が、勝手にそう思ってるだけだろ?」

「こういう仕事を長くやっていると、分かるようになるんですよ」

 そうなの? ただの受付だよ? 仕事というより、リリアの人生経験じゃないの?

「教師でもないのに?」

「教師でも、ただ教える者と、考える者では全然違いますよ。私はただ一日業務をこなし、お金が貰えれば良いとは考えていませんから」

 リリアがお金のためだけにこの仕事をしていない事は、俺にも何となくわかる。しかし、それは口に出さないほうが、カッコよいのではないのかと思ってしまった。

「でも、うちの管轄内で問題を起こされたらどうすんだよ?」

「しばらくは誰かと共に行動させ、魔法を必要としない、採取クエストで彼女の性格や能力を見極めます。それからでも遅くはないでしょう?」

 リリアはそう言うが、しばらくのうちに問題を起こさない保障はない。

「そうかもしれないけど……いきなり一人でクエスト出したけど、大丈夫なのか?」

「この辺りの探索で受けたクエストですよ? これで問題を起こすなら、すでに死罪になってますよ」

 リリアの言うことは正しい。だけどリリアは、もう少し人を疑うということを覚えた方がいいような気もする。

「安心して下さい。問題が起きても……」

 リリアが喋っている際中、スタッフ専用入り口が開くカランカランという音が聞こえてきた。

「誰か来たぞ。見に行かなくていいのか?」

 リリアはニヤッと笑い、俺の顔を見て言った。

「おかしいですね、こんな時間にフィリアたちが来るなんて。……リーパー、ちょっと見て来て下さい。もしかしたら強盗かもしれませんから」

 入社三日目、そんな新人の俺に危険な指示が飛んだ。


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