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ギルドスタッフ ギルド

「今日はジャンナの営業は昼からです。ですから、フィリア達は送れて出勤してきます。それと、ヒーは休暇日です」

 リリアは二人だけでも、普段どおりの朝礼のように話す。その姿に、わざわざ朝礼の体を繕う意味があるのかと思ったが、リリアの真剣な表情は、これは仕事だと言っているようで身が引き締まった。昨日の反省を含めて、今日はきちんと話を聞いて、しっかり覚えておかなくてはならない。

「あと、今日はギルドマスターのニルが戻ってくるはずなので……あ~、それは別に気にしなくてもいいです」

 気にしなくていいのかよ! とツッコミたくなったが、リリアが醸し出すサブマスターとしての空気が、俺の口を開かせなかった。

「明日は私の休暇日となっています。ですので、明日はヒーがサブマスターとなります。何かあれば明日はヒーに聞いて下さい。質問はありますか?」

 リリアは言い終わると、何か聞きたいことがあるのでは、という感じで俺の顔を見た。

「あの~、マスターは何時くらいに来るんですか?」

 俺は部下として、上司のリリアに質問した。

「おそらく昼前くらいだと思います。ですが、彼がいても業務を手伝う余裕はないので、数には入れないよう覚えておいて下さい。他にはありますか?」

「フィリア達はいつ来るの?」

「彼女達も昼前くらいですかね。ただ、準備やなにやらあるので、もう少し早く来ると思いますよ。リーパーが直接関係するようなことはないので、あまり気にしなくても大丈夫ですよ」

 確かにそうかもしれない。新人の俺には、ジャンナのメンバーやギルドマスターのニルがいつ来ようがほぼ関係ない。だけどそう考えると、二人だけで本当に営業できるのか不安になってきた。

「他にはありませんか?」

 淡々と尋ねるリリアは、こんな俺とは違い、普段どおり落ち着いている。サブマスターまでになるほどの経験を積んでいるリリアには、例え使い物にならない新人と二人でも、ギルドを回すことは造作もないのだろう。その姿に心強さを感じた。

「質問は無いようなので、声掛けを行います。私に続いて下さい」

 二人で寂しく発声練習を終えると、今日はリリアの補佐に割り当てられ、本日の業務が始まった。

 

 ギルドの営業が始まるとすぐに二人仲良く受付に座り、客の来店を待った。しかし当然のように客は来ない。

「なぁ? 今日はずっと受付なのか?」

 今日一日この退屈な時間を過ごすのかと思うと憂鬱になり、もしかしたら何か別の仕事をもらえるかと期待し、リリアに訊いた。

「ええそうですよ。今日はヒーがいませんから、受付がメインとなります」

 そりゃそうだ、当然ですよね。とリリアの真っ当な答えにがっかりした。

「リーパー、貴方受付嫌いですよね?」

 顔に出したつもりはなかったが、リリアに心中を悟られてしまったようだ。

「……あぁ、そうだよ。この何もしないっていうのが辛い……」

 俺は正直に答えた。これで嘘を言っても仕方ないし、リリアだからね。

「ですよね。私も嫌いです」

 集中力が足りない! と怒られると思っていたから、リリアの意外な答えに驚いた。

「そうなの!? じゃあ何でこの仕事してんだ?」 

「別にギルドの仕事が嫌いと言ったわけではありませんよ。受付業務が嫌いなだけです」

 どういう事? 

「同じじゃねーか! 俺たちは受付が仕事だろ?」

「まさか。受付は業務の一つですよ? ギルドスタッフ、イコール受付ではありませんよ。もしそうなら私はここにはいません」

 確かにそうだが、ギルドスタッフはほぼ受付業務ではないのか?

「リーパーは、ギルドスタッフは受付が命だと思っているのでしょうが、ギルドの本質は違いますよ」

「本質?」

 リリアはサブマスターとして、ギルドのあり方を話し始めた。

「えぇ。ギルドは町の活性や、町民の交流の場でもあるんです。だから、ハンターのためのギルドと考えているのなら、この仕事は長続きしませんよ?」

「そうなのか? ほかのギルドはそうは見えないけど……」

「それはギルドマスターのほとんどが、利益優先で考えるからです。ギルドがどうやって利益を上げているのかを知っていますか?」

「ハンターが狩猟したモンスターの素材や、肉を売って儲けてるんじゃないのか?」

「半分正解です」

 ハンターギルドは、ハンターが狩猟したモンスターを売却し、その半分をハンターへ支払い、残りの半分で儲けていると思っていた。とくにAクラスのモンスターは、一頭一万ゴールド以上し、Sクラスとなれば一頭何十万にもなる。そのためギルドは、ランクの高いハンターを優遇し集めたがる、と思っていた。

「基本的にはリーパーが思っていたシステムです。ほかにも国や町からの補助金で賄っています。ですが、それだと毎日のようにモンスターを殺し続けなくてはなりません。それはさすがに物理的に無理な話だと思いませんか?」

 Cクラスならまだしも、Bクラス以上のモンスターは、ほとんど人里から離れた秘境に生息する。そのうえ群れでいたり、毒や牙などを持つものが多く、毎日となると、年にどれほどのハンターが犠牲になるのか想像もつかない。

「それに、リーパーはモンスターの売買額の半分と思っているようですが、実際ギルドの儲けは、時価相場の一割。つまり十分の一しか利益になりません」

「マジで!? 残りの金はどこ行くんだ?」

「そこのギルドにもよりますが、半分はハンターに、四割は解体屋へいきます」

 俺が予想していた以上に、ギルドは儲からない事実に驚いた。

「金儲けばかりを考えているギルドは、ハンターへの報酬を減らしたり、解体屋への契約金を減らしていますが、そういうギルドはそれほど長続きしません」

 確かにハンター時代、報酬の少ないギルドはあった。そういうギルドはハンター達が嫌い、仕事を請けるハンターは少なかった。

「てっきりギルドは儲かるもんだと思ってた。よくうち潰れないな」

「だからこそジャンナがあるんですよ。確かにモンスターを多く狩る方が儲かります。ですが、モンスターによる利益はあまり多くはありません。中規模のギルドでも、月に一万ゴールドも純利益を上げられないのが現状です。ですから、それとは別の方法で利益を上げなくてはなりません」

「別の方法ねぇ~?」

 なんか話が難しくなってきた。

「ジャンナのような飲食店、防具やアイテムの売買、町民からのカンパなど色々あります。しかしその全ては、人々がそのギルドを大切に想ってこそ成り立つ話です。分かりますか?」

「町の人の力が必要ってこと?」

「そうです。人々がそのギルドは必要だと思えば、おのずとそのギルドは栄えます。私達の仕事はそう思ってもらえる施設、ギルドを作るのが仕事です」

 俺が思っていたギルドとは、全く別の考え方だ。

「それがギルドの目的なのか?」

「元々は町の生活安全圏の確保、ならびに民の生命の保護らしいですけど、現状は町の収入源が一番になってます」

「金には勝てないからな。仕方ないのかもな」

 世の中は金が支配する以上、それは当たり前なのかもしれない。

「そう思うのなら、なおさら人の力が必要だとは思いませんか? 今の経営者のほとんどは金を追うあまり、それを見失っているんですよ」

 リリアらしい発言だ。

「うちのギルドマスターもそうなのか?」

「うちのは違いますね。彼はお金より使命感の方が強いですから」

 いつも馬鹿にしているニルを、褒めるような言葉に驚いた。

[使命感? そんな凄いギルドマスターなのに、何で馬鹿にしてんだ?」

「使命感といっても、このギルドを良くしようとか、町を活性化させようと言う意味ではありません。何でもかんでも安請け合いし、それをこなすことが使命になっているだけですから」

 どうやら俺の勘違いだったようだ。リリアの話を聞く限りでは、余計な仕事を増やすダメな上司らしい。

「それ駄目じゃね?」

「えぇ駄目です。それでも私をサブマスターに任命する、優れた目を持っているのは確かです」

「それも駄目じゃね?」

 そんなリリアなりのギルドの在り方について会話していると、一人の魔導士? の格好をした少女が来店した。


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