ギルドスタッフ お茶出し ①
「そういえば、そろそろ昼だな。どうする?」
「もうそんな時間ですか。お先にどうぞ」
ぶつぶつと喋り方を思案中だったヒーも、俺に言われて気付いたようだった。そんなに?
「ヒーからでもいいぞ? もし客来たら声かけるから」
「いえ。目上の者からというのは、私は好きではありません。ですので、お先にお願いします」
遠慮がちと言うか、俺に気を使ったのか、ヒーはそういう子だ。でもそういうところがヒーの魅力だ。
「分かった。んじゃ、先に取らせてもらうわ」
「はい。お願いします」
受付をヒーに任せ、厨房でまかない料理を貰い、俺は一人早々と昼食に入った。今日はパンとハムエッグに、ホットミルクと鶏肉のソテーだ。
今日も豪華な昼食に、ワクワクしながら準備をしていると、ヒーも昼食に休憩所にやって来た。
「リリア戻って来たのか?」
「はい」
結局二人で昨日のように昼食となり、そのあとリリアと入れ替わりで受付に戻ると、俺は昨日のようにジャンナの手伝いをした。
ジャンナは昨日よりは客が少なく、それほど忙しくなかったため、昨日より大分早く戻ることになり、受付のヒーにそれを伝えると、ギルドマスターの部屋で事務作業をするリリアの下へ行くように指示された。
「リリア? 来たぞ?」
「あ、来ましたね。では早速、仕事を教えます」
まさか事務仕事じゃないよね?
「りょ、了解」
「では」
部屋に入りリリアに声を掛けると、仕事の手ほどきを受ける事になった。
「いいですか。お茶出しは来客があった場合、手の空いている者が行います。ですので、リーパーにもきっちり覚えて貰います」
てっきり書類の整理か何かをやらされると思っていた俺は、楽そうな仕事に喜びを感じた。
「受付も色々やる事あるんだな」
「えぇ。これも業務の一つです。ついて来て下さい」
こんなにいい仕事なら、喜んで何処へでもついて行く。って、あれ? お茶出しって仕事なの?
リリアにキッチンに連れていかれ、食器棚の前で説明を受ける。
「来客用の食器は、こちらの棚に全て揃っています。ですので、洗い終わったら元の場所に戻すように」
「了解」
「それと、分かってはいると思いますが、この食器類は私達は使ってはいけないので、覚えておいて下さい」
「了解」
さすが接客業。わざわざ来客の為に高そうな食器を用意してある。いくらするんだろう。
リリアはそんな食器棚を開け、説明を続ける。
「これが茶葉。これがコーヒー。そしてこれが紅茶です。お湯はキッチンで沸かします」
まさか紅茶まで用意してあるとは驚きだ。俺が飲みたいくらいだ。
「分かりましたか?」
「ウッス」
紅茶を見て、少しテンションが上がってしまった。
「では、先ずはリーパーの適性を見ます」
「適正?」
「はい。リーパーは今まで、誰かにお茶を出したことはありますか?」
「いや」
今までそんな上品な仕事には就いたことは無い。それに、どちらかと言えば出してもらいたい。
「ならなおさらです。私はマスタールームにいるので、私を来客だと思い、お茶出しをして下さい。飲み物はお茶で良いです。分かりましたか?」
「了解」
お茶出しなどした事も無い俺だが、ここで少しは良い所を見せれば、リリアの評価も変わるだろう。少し気合が入った。
リリアがギルドマスターの部屋に入るのを確認すると、早速水を火にかけ、沸騰する間に急須と湯飲みを用意。ここまで全く無駄の無い動きで理想通りだ。
俺クラスともなれば、これくらいの段取りは朝飯前だ。数々の強敵との戦いの中で、率先して仲間たちの為に段取りをつけてきて、”段取り王子“の異名を持つ俺が、この程度で躓く筈がない。
だが、ここで問題が起きた。お茶っ葉の分量が分からず、適当に入れるしかない! これでは本末転倒だ! しかし飲むのはリリア。これは後で飲んでみて確認するしかない。今は味よりスピードだ! 戦いにおいて、一瞬の遅れが命取りとなる。特に相手はあのリリアだ、待たせると何を言われるか分からない。
湯が沸き上がるとすぐさま急須に入れ、先ずは自分で飲んでみる。……美味い! 俺は天才かもしれない。一発でここまで美味いお茶を入れられる者はそうはいないだろう。今まで先輩ハンターのコーヒーを目分量で入れていたのが役に立った! 所詮お茶など、戦場のコーヒーの敵ではない。
リリアよ。我が力とくと見よ!
戦闘準備が整った俺は、いよいよ人生初のお茶出しへと向かう。




