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ギルドスタッフ 説明

 ゴンザレス達を見送り、完全に姿が見えなくなると、ヒーは受付書類の説明を始めた。

「受注受付は、初めてですか?」

「あぁ。昨日は終了手続きだけだったから」

「そうですか。では説明します」

 真面目なヒーは俺を見つめ、返答を待っている。もし俺がここで、駄目だと言ったらどうするのだろう? ちょっと思った。

「あぁ。頼むよ」

「はい。受注依頼者が来ると、こちらの受注依頼書にリーダーの名前、ライセンスランク、パーティー人数と同伴者名、同伴者のハンターランクを記入してもらいます。そして、依頼に参加する全てのハンターにライセンスを提出してもらい、こちらの個人名簿を照らし合わせ本人確認します」

 リリアと違い無駄を嫌うヒーに、軽い気持ちでお願いしたのが間違いだった。堰を切ったように、怒涛の説明が始まった。ど、どうしよう……

「何か質問はありますか?」

 何か質問って、質問以上に先ず覚えられない。

「あ、あのさ~。もうちょっとゆっくり教えて貰える? いっぺんに言われると、ちょっと覚えられないかな……?」

 ヒーはぴくっと耳を上げるような表情の変化を見せた。 

「そうですか。では、今は予備知識として聞いておいて下さい」 

 ヒーで良かった。これがリリアなら、何を言われるか分からない。優しい先輩で助かる。

「それは助かる。悪いなヒー」

「いえ。口下手な私が悪いだけですので、気にしないで下さい。何か聞きたい事はありますか?」

 ヒーは本当に優しい子だ。無口なだけで、決して口下手では無いのに、そうまで言って俺に気を使ってくれる。せめて何か聞こう。

「そうだな……ライセンスはどこを見れば良いんだ?」

「名前と取得年齢、性別に種族、ランクと登録記号です。彼らの……」

 あれ? また怒涛の説明が始まった。この子絶対天然だよね?

「彼らのように、顔見知りの者ならこれで十分です。ですが、初めて見る顔のハンターの場合は、余程の事が無い限り、ライセンスを取得したギルド名や、最後に依頼を受けた内容など、その場で本人に口頭で確認します。そして、そこで問題が無ければ、お客様をお見送りした後で協会名簿を確認します」

 あ、もう覚えるのも止めるのも無理だ。適当に分かったフリをして合わせるしかない。

「きょ、協会名簿って?」

「協会に登録されているハンターの名簿です。これは時間が掛かるため、後追いで確認します」

 当然と言えば当然だが、今の今までそんな物が存在するなど知らなかった。それはかなり見てみたい。

「へぇ~。それで初めて行くギルドでしつこく聞かれたのか。でも、聞いても嘘言われたらどうすんだ?」

「ライセンスにある、ライセンスナンバーは分かりますか?」

 ハンターライセンスには、長ったらしい数字と文字のナンバリングがされている。俺は今まで、これはハンターの登録番号だと思っていた。

「右上にある、長い数字と文字のやつだろ?」

「そうです。あの数字と文字には、取得した領地、町、ギルド、日付、年齢、登録許可が出た際の、最後の採取エリア、その時のメイン使用武器の順で記されています。ですので、嘘を付いてもすぐに分かります」

 恐ろしいぜこの子。さっきの俺の言葉を完全に無視している。どんだけ説明すんだ?

「ご、ごめん。覚えられなかった……」

 ヒーが悪いわけではない……いや、やっぱりヒーが悪い。もうちょっと加減してよ!

「今はそこまで覚えなくても大丈夫です。しばらくは、誰かの補佐として従事する事になりますから、安心して下さい」

 助かった~。リリアなら、明日から一人でやれと言いそうだ。

「そ、そうか? あ、ありがとう。でも、ヒーは数字の地名とか、全部覚えてるのか?」

「はい。ですが、忘れてしまっても、教本があるので大丈夫ですよ」

 ヒーって凄すぎない!? それとも、これくらいは普通なの?

「それなら助かるわ……それにしても細けぇな」

 誰だこんなに面倒臭いシステムを作った奴は! こっちの身にもなれ!

「えぇ。ですが、これはライセンスの盗難や、偽造などへの対処のためです」

 ヒーも覚えるまで、相当苦労したのだろう。励ますように言った。

「ギルドも大変だな?」

「ハンターライセンスは、それほど貴重という事です」

「そうだな」

 ヒーにそう言われると、何故か嬉しかった。ライセンスはハンターだけの物では無い。ギルドあってのハンターなのだと実感した。

 ヒーの鬼のような説明を受け、この先自分が務まるのか不安になって来た俺は、しばらく……

「では、次の説明をします」

 え? ……ええ‼ マジで言ってんの!?

「本人確認が終わると、ライセンスをお返しし、依頼内容によって、解体屋が必要な場合であれば、こちらの運搬同伴書をハンター様に渡して下さい。必要かどうかは、こちらの掲示用の依頼書の、丸運のマークを見れば分かります」

「あ……そ、そうなんだ……へぇ~」

 もしかしなくとも、ヒーってリリアよりヤバイ。これなら、文句を言われながらもリリアに説明を受けた方がマシのような気がする。

「はい。他にも色々な記号があるので、その都度教えます。ここにも教本があるので、もし分からないものがありましたら、こちらで確認して下さい」

 俺の事など全くお構い無しのヒーは、受付カウンターの中から教本を取り出した。でも、これはチャンスだ!

「ちょっと見ていい?」

「どうぞ」

 これでヒーの説明地獄から抜け出せる! そう思い、思ってたよりも薄い教本を見ると、様々な手ほどきが記されていた。

「へぇ~。色々書いてあんな? 全部憶えられっかな?」

「焦らず、ゆっくり憶えていきましょう」

 優しい笑みを俺に送るヒーは、本当に良い子だ。真面目過ぎでなければ……

「そう言ってもらえるとありがたいわ」

「はい。同伴書を渡した後……」

 怖いわ~この子。まだ続ける気だよ。

「契約注意点を説明し、質問が無いかを確認します。質問が無ければ、依頼書にギルドの判子を押し、こちらの鐘を鳴らします。これで依頼者との手続きは終了です」

 終わった? これで終わりだよね? もう気を抜いても良いよね? もう雑談しても良いよね?

「判子を押したときのヒー、格好良かったぞ?」

「……ありがとう御座います」

 ヒーは少し顔を赤らめ、恥ずかしそうに礼を言う。やっと一安心だ。

「最後に」

 え?

「依頼者がギルドの扉を出て、姿が見えなくなるまでお見送りします」

 はぁ~良かった。これなら覚えられる。

「それは受付からでもいいのか?」

「はい。うちではそうなっています」

「そうなんだ。たまに扉開けてまで見送る受付いたけど、うちはそれはしないんだ?」

 上品なギルドや、金額の大きな依頼の時は、受付が外まで見送ることがあった。やはり田舎のギルドでは、それは無いようだ。

「大きなギルドではそうする所はありますが、うちではクレアが特に嫌がりますから、ここからで結構です」

 無駄にプライドの高そうなクレアを過剰に扱い、俺が扉を開け、見送る想像をしたら、思い切りぶん殴られた俺がいた。

「……なんか分かる。アイツ、そういうところあるよな?」

 田舎は関係なかったようだ。

「クレアは、驕る事を嫌いますからね」

「だな」

 ハンターにも色々な奴がいる。特にシェオールは、そういうハンターしかいないのかもしれない。   

「見送りが終わると、先ほど記入してもらった書類に、受付員の名前を記入して保管します。保管方法はリリアから聞きましたか?」

「あぁ。封筒に入れて、ギルドマスターの部屋だろ?」

「はい。こちらは受注依頼者が戻ったときに使用するので、大切に保管して下さい」

「ああ、分かった」

「説明は以上です」

 やっと長い説明が終わった。ほとんど覚えられなかったけど……でも、ここで一つ疑問が出た。

「それは依頼失敗でも使うのか?」

 ハンターは依頼に失敗すると、何も報酬を得られない。そうなれば流石に、ギルドも後処理などに時間を割かないだろう。

「はい。失敗時も受注依頼一件とみなされますので、大切に保管して下さい」

「そうなの? じゃあ、ハンターの記録にも残るのか?」

「はい。きちんと名簿の方へ記入します。それはその時にでも教えます。一度に覚える事が多すぎると、混乱してしまいますからね」

 もうすでに混乱しているが、もしこれがリリアなら「受付なんて簡単でしょう?」などと言いそうだ。どっちがいいのかな~?

「ごめんな。今の説明でもほとんど覚えられなかった。手間かけるけど、何回も同じ事聞くと思う」

「構いませんよ。一度で全てを覚える事の出来る人間などいませんから。遅くても、確実な仕事を覚えて下さい」

「ヒーは本当に優しいな。リリアだったらこうはいかないわ」

「そうですね」

 ヒーは珍しくクスっと声を出し笑った。少し天然は入っているが、俺は良い先輩を持った。  





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