ギルドスタッフ 二日目
今日は、昨日のリリアに注意されたこともあり、少し早く家を出てギルドへ向かう。
春の訪れと言っても、息が白くなるほど朝はまだまだ寒く、目覚めきる体には辛いものがある。
ギルドに着き、スタッフ入り口から中に入ると、既に制服に着替えたリリアとヒーが、コーヒーを飲みながら寛いでいた。
「おはようございます。今日は早いですね?」
最初に声を掛けたのはリリアだった。
「おはよう、って、昨日早く来いって言ったのお前だろ?」
「あれは冗談ですよ」
リリアは、何か? という顔を見せた。
「冗談には聞こえなかったぞ?」
「新人に仕事の厳しさを教えるには、最初が肝心ですからね。まぁ、私達より年上のリーパーには、分かっていると思って言ったんですけど」
「それは舐めてかかってる奴に言え!」
「私たちの仲じゃないですか~。も~」
「朝から気持ち悪い奴だな!」
今日も朝から、リリアは絶好調のようだ。
「おはよう御座います。どうぞ」
ヒーは俺にコーヒーを出してくれた。
「おはようヒー。ありがとな」
俺は椅子に腰を下ろし、コーヒーを飲みながら、勤務までの僅かな時間を三人で過ごす事にした。
「フィリア達は?」
「もう少ししたら来ますよ。リーパーが馬鹿みたく早く来すぎなんですよ」
「人の事言えないだろ! お前らだって既に着替えてんじゃん」
リリアは本当に朝から元気な奴だ。何時に起きたのだろう?
「朝のゆとりは、仕事への活力になりますからね。私はてっきり、もうリーパーは来ないんじゃないのかと思ってましたよ」
「どんだけダメ人間に見えてんだよ!」
リリアは時間に関係無くこうなのかと、不思議に思った。
「ギルドの仕事は楽しいですか?」
リリアとは違い、朝からも礼儀正しいヒーが訊く。
「あぁ、結構ね。今まで正直ギルドの仕事なんて、大した事無いと思ってたけど、やってみると意外と大変だって分かった。でも、悪くはないよ」
「そうですか。リーパーは少しせっかちなので、退屈なのではと思っていたんですよ」
ヒーは僅かに嬉しそうな表情を見せた。普段感情の読みづらいヒーのその笑顔は、リリアと違いとても可愛らしい。そんなヒーとは違い、リリアが言う。
「そういえば、リーパーの勤務は朝礼からですよ? なんでこんなに早く来たんですか?」
「まだそれ言う? 明日から昼に来るそ!」
朝から相変わらずのリリアに、なんで双子でこんなにも性格が違うのだろうか、不思議に思う。
そんな雑談をしながらひと時を満喫していると、フィリアとジョニーが出勤して来た。
「お早う御座います。あっ! リーパー! 早いですね?」
「おはよう。まぁね」
「流石は兄さんだ」
早く来ただけなのに驚き過ぎだ。そのあと来たアントノフにも同じようなリアクションを取られ、驚いた。しかし、一番驚いたのは、それを見てクスクス笑うリリアだ。アイツはこれを狙っていた!
皆が揃うと着替えを済ませ、掃除が終わると、朝礼が始まった。
「今日もニルはいません。ですから、何かあれば私に報告して下さい。それと、明日はジャンナは昼からの営業ですので、帰り仕舞いはしっかりお願いします」
「分かりました」
アントノフは返事をした。どうやらジャンナの責任者は、アントノフのようだ。
「あと、明日はヒーは休日となりますので、よろしくお願いします。以上、何かありますか?」
今日も誰からも返答はない。
「それでは、今日はヒー。お願いします」
「はい」
昨日と同じく、俺はヒーと向かい合い発声練習をした。そして、それが終わると受付の朝礼が始まった。
「今日はヒーが受付を担当して下さい」
「分かりました」
「リーパーは、私と一緒に裏方作業です。ヒーの様に甘くはないので、覚悟して下さい」
「いや、俺はヒーの方が厳しいと思うけど?」
表情の変化が小さく、冗談を言わないヒーから教えを乞うと、言葉が重く感じる。それはこんな姉のリリアと比べるからそうなのかもしれないが、やはりヒーの方が怖い。
「いい度胸です! 今日は命を落とす覚悟で挑んで下さい!」
そういう事を言うから、リリアに怖さを感じない。多分今のは本気で言っているのだろうが、何故かそうは聞こえないのは何故だろう?
「はいはい。了解です、サブマスター」
「よろしい! では営業を始めます!」
リリアはサブマスターと呼ぶと、何でもかんでも許してくれそうだ。チョロいなこいつ。
「では、本日も張り切って行きますよ!」
リリアは俺にサブマスターと呼ばれたのが相当嬉しかったのか、ジャンナの皆に聞こえる様にそう叫び、正面扉の鍵を開けた。俺に呼ばれて嬉しいのか? まぁ、リリアが元気なら別にいいけど。
こうして二日目の勤務が始まった。




