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見知らぬ公園。



「ここはどこだろう」


ふと呟く。


答えは無い。

赤褐色の鎖がたてた寂しげな音だけ。

何故か酷く沈んだ気分になる。


何か大事な事を忘れているような気がした。


目の前を白くて小さい物が横切る。

それは優しげな色をした花弁だった。思わず空を仰ぐ。


息が詰まる程に美しく埋め尽くされた薄桃色。

その合間から覗く蒼茫とした空の切れ端。


ああ、春だ。


そんな言葉が思わず口から零れていた時。


「おーい、原沢」


どこからか誰かが自分の名を呼ぶ声が聞こえる。


誰だ。


振り返る。

そこには誰もいない。ただ桜色が連なっている景色だけだ。

しかし確かに声は聞こえる。

自分の名前を呼びながら。


「原沢」


また聞こえた。


遠い場所から呼んでいる。

立ち上がり辺りを見回す。

見えぬ姿を追う。


そして気付く。


並木の向こうで手を振りながら駆け寄ってくる自分と同じ学生服の少年に。

子供らしい無邪気な笑い声と足取りで近づいてくる。

連なる桜色に埋もれて霞んでいる。


呼ぶ声が近くなる程、急激に周囲の視界が鮮明になってゆく。


「あれ?」


ふと急に違和感を感じて辺りを見渡す。

そしてもうひとつ或る事に気付く。


ここは昔、学生だった自分が帰り道に通っていた公園ではないか。

春にはここの公園の桜が一際綺麗に咲く。その季節が訪れるのがとても待ち遠しかった、

あの公園ではないのか。


友人達ともこの桜を見ながら帰っていた。


友人?

そうだ、長い事忘れていた。

何故忘れていたんだろう。

あんなに大切だったというのに。


「よお、久し振り」


この声は昔の友の声だ。

懐かしく、何者にも代えられない友の声。

忘れていた声。明るさに満ちた声。もう出会う事はないと思っていたはずの声。


そして。


「・・・・・由野宮・・・」


友と向き合った僕は歯の根が合わない声で友の名を呼んだ。


「・・・また会えたな、嬉しいよ原沢」


そう言ったかつての旧友の顔は干からびて骨が浮き出し、眼孔は暗い空洞になっていた。

希望に溢れていた過去の面影を完全に失った死者の表情。



嗚呼、これは。



昨日、ゴミ捨て場に遺棄されて変わり果てた哀れな旧友の顔だ。






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