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紅い桜  作者: 道豚
99/147

オシュコシュ到着

 ここでは「」で括られたセリフは日本語 『』で括られたセリフは日本語以外です。

 { }で括られたものは無線通信を表します。


 ダウンウインドレグを飛ぶサクラたちの右下に、8000フィートの長さのある18-36滑走路が見えていた。

「(……うわ! もう沢山集まってる……)」

 そう……明日からのエアショーを観るために乗って来たのであろう……多くの飛行機がエプロンと言わず、開いた場所さえあれば、ここぞとばかりに駐機されていた。

{『ボナンザ9598Q オシュコシュタワー ターンベース イエロードットにタッチダウン』}

{『オシュコシュタワー ボナンザ9598Q ターンベース タッチダウンはイエロードット』}

 前を飛ぶボナンザに、タワーから指示が出た。

「(……へぇ……イエロードットね……)」

 何だろう、と思ってサクラが滑走路を見ると……

「(……本当だ。 確かに黄色い点が滑走路に書いてある……)」

 そう……滑走路のセンターライン上に、色の違う丸が数個ペイントされていたのだ。

「(……ふーん……あそこに着陸するんだ……)」

 前にいたボナンザは、右旋回をして滑走路に向かった。




{『エクストラ111G オシュコシュタワー ターンベース お嬢ちゃんのタッチダウンは、パープルドット』}

 ダウンウインドレグをそのまま飛ぶサクラに、やっとタワーから指示がきた。

{『オシュコシュタワー エクストラ111G ターンベース パープルドットにタッチダウン』}

{『OK 焦ることはないからな。 ちょっとした余興だ。 気楽に降りてくれ』}

{『オシュコシュタワー 了解』}

 サクラは、スティックを右に倒した。




 スロットルを絞り、サクラは「ルクシ」を降下させていく。

 前方にはRW36が、左から右に走っているのが見えていた。

「(……あそこがパープルドットだから……もっと下げて……)」

 接地点タッチダウンの目印である紫の丸は、右前にある。

{『エクストラ111G オシュコシュタワー クリヤード ツー ランド』}

 先に着陸に向かったボナンザが、滑走路から出たのだろう。

{『オシュコシュタワー エクストラ111G クリヤード ツー ランド』}

 もう滑走路は目の前だ。

 サクラは、慎重にスティックを右に倒した。




 「ルクシ」の下をセンターラインが流れていく。

「(……よしよし、このままで行くと少し手前に降りそうだな……)」

 ドットに届かない予想なのに、何故「よしよし」なのか……

「(……少し進めて……)」

 サクラは、スロットルレバーを少し前に押した。

 そう……「ルクシ」には、ブレーキが付いてないので行き過ぎをとめる手段は無い……しかし、加速して着陸点を伸ばすのは簡単に出来るのだ。

「(……アイドル……フレア……タッチダウン!……)」

 「ルクシ」は、ドットの中央に三点着陸……メインギヤとテールギヤを同時に接地させる着陸……をした。




{『エクストラ111G オシュコシュタワー お嬢ちゃん、良い着陸だった。 すまんが、後ろが混んでる。 出来るだけ早く滑走路を空けてくれ。 滑走路を出たらグランドに連絡』}

 無事に降りられて「ほっ」とする間も無く、タワーから連絡が入った。

{『オシュコシュタワー エクストラ111G ありがとう 直ちに滑走路から出ます 出たところでグランドに連絡』}

{『エクストラ111G OK オシュコシュを楽しんでいってくれ』}

{『オシュコシュタワー 楽しみだわ それじゃまた』}

 サクラは、丁度目の前にあった誘導路に「ルクシ」を向けた。




{『オシュコシュグランド エクストラ111G 滑走路から出ました』}

 誘導路に入った所で「ルクシ」を止め、サクラはグランドを呼んだ。

{『エクストラ111G オシュコシュグランド そのまま待機 係員が向かう』}

 どうやら誰かが来るらしい。

{『オシュコシュグランド エクストラ111G このまま待機』}

 サクラは、スロットルレバーとスティックから手を離した。




 止まったままの「ルクシ」の前を、何機かの軽飛行機が通り過ぎていく。

『遅いわね』

 インカムから、イラついたようなイロナの声がした。

『そうだね。 如何したんだろうね』

 サクラとしては、別に気にしてない。

 大きな空港では、長い事待たされるのはよくあるのだ。

『サクラは、気にならないの? ヴェレシュの次期当主を訳も無く待たせてるのよ』

 イロナの発言が、危険な領域に入ってきた。

『イロナ! それは我侭だよ。 空港の安全の為には、そんな家のことなんか些細な事だから』

『だって……』

『だって、じゃないよ。 あ! 来たみたいだよ』

 蛍光色のベストを着た男を乗せて、小さなバイクが走ってきた。

『……はぁ……ようやく来たわね。 ここは文句の一つでも言ってやろうかしら』

 イロナにも見えたようだ。

『ダメだからね。 ここは紳士的に……淑女的かな?……に対応するから』

 二人が見ているうちに、男はバイクを止めた。




『やあ! 待たせてしまったかな?……』

 バインダーに挟んだ書類を見ながら、男は左翼の後ろから近づいた。

『……JA111Gだね。 えっと……ミスサクラ トヤでいいかな?』

『ええ、私がサクラよ……』

 サクラは、キャノピーを押し上げた。

 アイドリングで回っているとは言え、プロペラ後流がコックピットの中で渦を巻いた。

『……貴方は? グランドが言ってた係員でいいのかしら?』

『ああ、そうだ。 貴女を駐機場所まで案内するように言われている』

 男は頷いた。

『そう?……確か、GAPジェネラルアビエーション・パーキングで申し込んでいたはずだけど?……』

 そう……事前に駐機場所は予約してあって、その場所の地図もメールで貰っているのだ。

『……一人で行けるわよ』

『いや……その場所が変わったんだ。 貴女が飛んでいたからメールが送れなくて……それで仕方なく、こういう事になった……』

 男は、バインダーから一枚紙を外して、サクラに差し出した。

『……ここになった。 俺が先導するから、付いてきてくれ』

『此処? 随分先ね……』

 サクラは、その紙……地図だった……を広げた。

『……はぁ……分かったわ。 お願いするわね』

『OK じゃ、早速行こう』

 男は、バイクに向かって行った。




 先を走るバイクを追って、サクラは「ルクシ」を走らせていた。

 誘導路タキシーウェイの左側には所狭しと軽飛行機が止まっていて、その前に張っているロープに沿って沢山の観客が座っていた。

 そして、その観客は通り過ぎるサクラに向かって手を振ったり拍手をしてる。

「(……何だろう?……)」

 如何した事かと思いながらも、サクラは手を振り返した。

 それを見て、観客からの拍手は盛大になり……中には立ち上がってしまう人も居る。

「(……スタンディングオベーションかよ……俺が何をした?……)」

 首を捻りながらも、サクラはタキシーを続けた。




 先導バイクに連れられ、サクラは枝道に入った。

 先の方を見ると、大型の機体……旅客機や軍の輸送機……が見える。

 バイクは少し進むと止まり、男が手信号ハンドサインで芝生に入るように指示した。

「(……ん? 此処かな?……)」

 サクラは、左のブレーキを踏んで「ルクシ」を芝生の上に向かわせた。




 芝生の上に居た別の誘導員のサインに合わせてサクラは「ルクシ」をUターンさせ、エンジンを切った。

「(……やれやれ、やっと着いた……)」

 キャノピーを開き……タキシー中は閉めていた……ヘッドセットを外して、サクラは大きく伸びをした。

『やっと着いたのね……』

 前席のイロナは、早速シートベルトを外し始めた。

『……はぁ……疲れたけど……さっきみたいに歓待してくれると、疲れも忘れるわね』

『うん、そうだね。 って、さっきのスタンディングオベーションは、何なんだろう?……』

 サクラもベルトを外した。

『……特に何もしてないよね。 ヴェレシュの力で強制したって事は無いだろうし』

『おや? お嬢さんたちは、気が付いてなかったのか?』

 バイクで先導してくれた男が、近くに来た。

『あ、おじさま誘導ありがとう……』

 サクラは、コックピットから体を出した。

『……気が付いてなかったって? 如何いうこと?』

『おじさまか……お嬢さんは、何処かの御令嬢様かな?……』

 男は、サクラに向かって手を出した。

『……今まで生きてきて、初めて言われたぜ』

『ありがと……それは、言えないの。 それより、何を気が付かなかったのかしら?』

 サクラは、男の手を取って「ルクシ」から降りた。

『ああ、さっきの観客達は、到着する奴らの着陸を品定めしてるんだ。 そちらのお嬢さんも、どうぞ……』

 男は、イロナにも手を差し出した。

『……お嬢さんは、ドットのど真ん中に「三点着陸」を決めたんだ。 なかなかそれが出来る奴は少なくてね。 それで皆が喜んだ、って訳だよ。 しかもパイロットが、こんなに若くて美人なんだ。 お祭り好きな奴らが、騒がないほうがおかしい』

『そりゃ、サクラだもの』

 男の手を取って主翼から降りたイロナが、何故か胸を張った。




『……おい、次は珍しいぞ……』

『……ああ、滅多に飛んでないよな……』

『……こんな高額な機体、どんな奴が飛ばしてるってんだ……』

     ・

     ・

     ・

 サクラが駐機した場所の周りにも、沢山の観客が居るのだが……その彼らが「ざわざわ」とし始めた。

「(……ん? 何が飛んでくるんだ?……)」

 どうやら次に降りてくる飛行機が、珍しいものらしい。

『……ねえ、ねえ。 何が降りてくるの?』

 気になったサクラは、近くに居た観客の一人に尋ねた。

『お! あんたは、さっき綺麗な着陸を決めた美人じゃないか……』

 男は、嬉しそうに微笑んだ。

『……俺は、さっきまでパープルドットの近くに居たんだ』

『あそう……ありがと。 っで? 何が降りてくるの?』

 サクラは、つい半眼で見てしまった。

『そうだよ。 それだ。 サイテーションX+だよ。 セスナの最高級機じゃないか』

 男はサクラの表情に気が付かないようで……一人で盛り上がっていた。

「(……サイテーションX+だって? ひょっとして……」

 サクラには、心当たりがある。

『おじさん、その機体のコールサインは分かる?』

 あまり話しはしたくないが……航空無線を聞いているようなので……サクラは、尋ねた。

『えーっと……確か……サクラ、って言ってたと思う。 サクラって、チェリーブロッサムの日本語だよな。 日本から飛んできたのかな……』

 男は、サクラに答えながらも……自分の世界に入っていってしまった。

「(……ふぅ……やっぱりそうだよ。 誰が来たんだ? お兄さんか? お姉さんか?……)」

 サクラは、空を見上げて息を吐いた。




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