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紅い桜  作者: 道豚
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肥った?

 ここでは「」で括られたセリフは日本語 『』で括られたセリフは日本語以外です。

 { }で括られたものは無線通信を表します。


「ぴ・ぴ・ぴ・ぴぴ・ぴぴ・ぴぴぴぴ……」

 ようやく明るくなった部屋に、目覚ましの音が鳴り始めた。

「……ん~~~……」

 サクラの白い腕が、明るい色のブランケットから目覚まし時計に向けて伸ばされる。

「……ぴぴぴぴっ」

 目覚ましは頭を叩かれて、その煩い音を止めた。

「ふぁ~ 朝かー」

 ブランケットを跳ね除け、サクラは「シパシパ」と瞬きをした。

 青みがかった灰色の瞳が、潤んでいる。

「(あー やばい……目ヤニが……)」

 サクラは、目をこすろうとして……

「(……っと、あぶねー 擦ったりしたら、イロナに叱られるんだった)」

 すんでの所で、手を下ろした。




 サクラはベッドから降りると、チェストから今日使うつもりで用意しておいたブラ……ショーツとお揃い……を取り出した。

 それを椅子に掛けてある室内着の上に置き、ナイトブラを外した。

 支えの無くなった乳房が大きく揺れる。

「(……なんか……また大きくなった?……)」

 首を傾げながら、前屈みになってサクラはブラを当てた。

『サクラ様。 お目覚めでしょうか? お召し替えのお手伝いは、如何いたしましょうか』

 サクラが、取りあえずいつもの様にブラをセットして上体を起こしたとき、ノックの音と共にハンガリー語が聞こえた。

『起きてるよ、アンナ。 入って』

『失礼いたします……』

 サクラの返事を聞いて入ってきたのは、メイド服を着たクルーの一人だった。

『……おはようございます』

 彼女は、お腹に両手を当てて深くお辞儀をした。




 上半身ブラだけのサクラは、腕を上げたり下げたり、体を捻ったり、と具合を確かめた。

『ん~ まあまあかな?』

『申し訳在りません。 私では、これがせいいっぱいかと……』

 横ではアンナが、頭を下げていた。

『あ、いいよ。 アンナは十分頑張ってくれたよ……』

 サクラは、運動をやめアンナを見た。

『……っで、何が悪かった?』

『あの……申し上げにくいのですが……』

『大丈夫だよ。 何でも言って』

『……アンダーのサイズが、少し大きくなっていらっしゃいました。 そのため、ホックの位置が合わなくなったのかと思います』

『アンダー? カップじゃなくて?』

 サクラは、首を傾げた。

『はい。 カップは問題ないかと……』

 アンナは頷いた。

『どういうこと? 胸周りが大きくなったってことだよね……』

 サクラは、両脇に広げた掌を当てた。

 ぎゅ、っと握ってみる。

『……もしかして……肥った?』

『い、いえ……サクラ様は、変わらずスマートでいらっしゃいます』

『……そんな……そんな……』

 アンナの声が聞こえないのか……サクラは、ドレッサーの鏡に映る自分を見つめていた。




 長い夏休みが終わり、高専は授業が始まっていた。

 それは、サクラの講師としての仕事が、始まった事を表している。

『それじゃ、行ってくるね、ドーラ。 昼食は、此処で食べるか分からないから……後でメールするわ』

 高知空港に用意した自室を、サクラは出た。

『行ってらっしゃいませ』

 それを見送るスーツ姿の女性は、今朝のクルーとは違うもう一人のクルーだった。




 空港ビルを出たサクラは、駐車場に向かわず「すたすた」と歩道を歩いていく。

 そのまま空港の敷地を出ると、右側に3階建ての鉄筋コンクリート作りの建物が並んだ敷地が見えてきた。

「(……うわ……凄い人数がいるんだ……)」

 その敷地の門から次々に学生が出てきて、歩道は彼らで溢れそうになっていた。

「(……そうだよなー 学生も寮から登校する時間だもんな……)」

 そう……ここは高専の学生寮だった。

 スーツ姿のサクラは、自然と彼らに取り囲まれていた。




「……あー サクラ先生だ……」

「……グッドモーニング ミスサクラ……」

「……珍しいですねー……」

「……車じゃないんですねー……」

     ・

     ・

     ・

 サクラを取り囲んだ女生徒が「わいわい」と話しかける。

 ここは高専の敷地に入った所で、まだまだ回りには学生が歩いている。

「おはよう、みんな……」

 サクラは、ニッコリとした。

「……せっかくだから、空港から歩いてみたの」

「なんでー 真っ赤な車で正門を入ってくるのがカッコいいのに」

「そ、そう?」

「そうだよー キャリアウーマン、って感じで憧れます」

「空港までは、車で来てるよ。 そこからはチョッと車で動くには近いから……それ位は歩こうかな、って」

「怪しいなー もしかして先生、体重が気になってる?」

「え……え、え、え。 べ、別に……」

 サクラは、夕べ風呂上りに乗った体重計の値を思い出した。

「……うん、確かそんなに変わってないから」

「じゃさ、体型が気になるとか?」

「(……ぎくっ!……)」

「あー 先生、今「ギクッ」としたでしょ」

「そうなんだー やっぱり体型の維持は、大変ですよねー」

「見たところ、全然問題ないですよー」

「そうそう、モデルさんみたいに素敵な体つきだよー」

「でも、気になるなら……ランニングしたら良いかも」

「先生、運動してないでしょう? やっぱり心がけたほうが良いですよ」

「部活しませんか? 私、テニス部なんです」

「あー 狡い。 陸上部で一緒に走りましょう」

「先生、背が高いからバレー部はどうですか?」

     ・

     ・

     ・

「そ、そうね……考えてみるわ。 それじゃ、私は教員室に行くから」

 サクラは、這々の体で女生徒の輪から逃げ出した。




 高専のグランドにある、一周400メートルのトラック……そこを、後ろで縛った髪と胸を揺らして、サクラは走っていた。

 4時限目の今は体育の授業が無いようで、グランドには誰も居ない。

『……っはぁ……何周したかしら?』

『5周でございます』

 サクラの着ている、スポーツウェアを持って来たドーラが、直ぐ後ろを同じように走っていた。

『……まだ5周……』

『はい。 予定の10周の、丁度半分でございます』

 サクラと同じスポーツウェアを着たドーラは、淡々としていた。

『……はぁ、はぁ……な、なんで貴女は余裕があるの?』

 普段走ることをしないサクラは、既にバテている。

『私は、学制時代に陸上をしておりました。 ヴェレシュに所属してのちも、トレーニングを続けております』

『……っはぁ。はぁ……それで、そんなにスマートなのね』

 そうドーラは……普段は分からなかったが……スポーツウェアを着ると、アスリートの体型だった。

『ありがとうございます。 サクラ様は、大変グラマーでいらっしゃいますから……』

 ドーラは、そっとサクラの胸を見た。

『……どうしても走る時に揺れて大変でございます』

『……はぁはぁ、っはぁ……貴方のも揺れてる、よね?』

 ドーラの言葉に若干の妬みを感じて、サクラは慌てて言葉を繋いだ。




 汗をかいたサクラは、昼食に誘う女生徒たちのメールに断りを入れて、空港の部屋に帰ってきた。

「(……ふぅ……バテた。 こんなに走れなくなったんだなぁ……)」

 暖かいシャワーを浴びながら、サクラは考えていた。

 首筋に当たったお湯は肩を通り、胸の膨らみを回り込んでお腹から太腿に流れている。

「(……これが、大きいからなー 揺れて走りにくい?……)」

 視線を下げると……そこには大きな乳房が見え、床のタイルを隠していた。

「(……でも……大きさは、サクラの時から(俺が入る前から)変わってないんだよな?……)」

 それは、何となく当てた掌から大きくはみ出している。

「(……アンダーが大きくなってる、って言ってたよな……)」

 サクラは、膨らみの下側を摘んでみた。

「(……別に脂肪がついてる様子はないよなー……)」

 そこは「ぴんっ」とハリがある。

「(……待てよ……アンダーって、一回りのサイズだよな。 んじゃ、背中に脂肪が付いたんかな?……)」

 サクラは、背中に手を回した。

「(……んー? 何だか厚みがある?……)」

 背骨の部分が引っ込んでいるので、相対的にその両側が厚いことがわかった。

「(……出てから見てみよう……)」

 ここには鏡はないので、背中を見ることはできなかった。




 部屋の中……サクラはショーツを履いただけの姿で、肩越しにドレッサーの鏡を見ていた。

「(……んー よく分からない……)」

 鏡の中には、大きなお尻と白く綺麗な背中が写っていた。

『サクラ様、どうなされました?』

 クローゼットから、サクラの着替えを持ってドーラが来た。

『ん? 今朝アンナから、アンダーのサイズが変わった、って言われたから……』

 サクラは、捻っていた体を戻した。

『……どこが太ったのかなー って』

『私がお調べいたしましょうか? アンナは、あまり詳しくないのです』

『そう? それじゃ、お願いするわ』

『承りました』

 サクラの着替えを仮眠用のベッドに置き、ドーラはサクラの背中に手を伸ばした。




『腕を真横に伸ばしてください』

『こう?』

 ドーラの声に、サクラは両腕を横に広げた。

『はい、よろしゅうございます。 それでは、そこから力こぶを作るように腕を曲げて頂けますか』

『うん。 これで良い?』

 サクラは肘を曲げて、両腕に力こぶを作った。

『それでは、そのまま腕を後ろに動かして……左右の肩甲骨を中央で付けるように……』

『こ、こんな感じ?』

『……そうで御座います。 流石はサクラ様』

 サクラは今、ブラをしていない。

 今のポーズは、その大きな乳房を突き出した格好だ。

「(……な、なんか恥ずかしい……)」

 元男といってもそれは、それなりに恥ずかしい姿勢だった。




『アンナの見立て通り、サクラ様のアンダーは少し大きくなっておりました』

『やっぱりそうなんだ……』

 ドーラの声を聞きながら、サクラは今朝と同じように腕を動かしていた。

『……それって、肥ったのかな』

『いえ……確かに大きくはなっていても……脂肪が付いたわけでは御座いません。 サクラ様の場合、背中の筋肉が大きくなっております』

 ドーラは、背中の方からサクラにオーダーメイドの……胸の部分が特に大きい……カッターシャツを着せた。

『筋肉? 広背筋とか言う?』

『はい。 おそらく、最近のトレーニングの成果かと』

 ドーラは、前に回ってボタンを止める。

『そうかー 脂肪じゃなかったんだな。 んじゃ、特にランニングなんてする必要はないな』

『そうで御座いますね。 しかし……あの程度で疲れるようでは、スタミナが無いのではないでしょうか』

 ドーラは、パンツ(ズボン)をサクラの足元に広げた。

『んー そうなのかなぁ?』

 サクラは、パンツ(ズボン)に足を突っ込んだ。

『そうで御座います。 サクラ様は、ぜひランニングを続けて頂き……強靭な心肺機能を手に入れられては、と存じます』

 ドーラは、少し離れて着付けの仕上がりを確かめた。

『そう言われると、そう思うけど……ドーラ? 貴方、ランニングの仲間を増やそうって、思ってない?』

『いえ、そんなことは思っておりません』

『だったら、私の目を見て話なさい。 なぜ視線を逸らすの?』

『……さて、昼食の準備を……』

 そそくさと、ドーラはキッチンに向かった。




『そうで御座いましたか。 ドーラも同じ結論だった訳で御座いますね』

 家の自室に帰ると、アンナが居た。

『ええ、貴方の言う通り、アンダーが大きくなってたわ』

 サクラは、脱いだスーツをアンナに渡した。

『そうなりますと……一度サイズをお測りしないといけませんね……』

 アンナは、思案顔になった。

『……イロナ様に連絡をいたします』

『大げさじゃない? 高がサイズを測るのに』

 今、イロナはハンガリーに帰っている。

 態々連絡して、指示をもらうのは面倒だろう。

『それが決まりで御座います。 しかも日本には、測定装置が御座いませんし……』

 アンナは、ルームウェアを差し出した。

『……本家に行く必要があるかもしれません』

『ちょ、ちょっと……いくらなんでも大げさだよ』

 あまりの言い様に、サクラの口調が崩れてしまった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 四時間目、グラウンドに接した教室の生徒は授業に集中できたのだろうか。 テニス部女子、博美達の後輩か。 胸のサイズ採寸のためにまさかのハンガリーへ帰国へ。
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