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紅い桜  作者: 道豚
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プール?

 ここでは「」で括られたセリフは日本語 『』で括られたセリフは日本語以外です。

 { }で括られたものは無線通信を表します。



『サクラ様。 お疲れ様でした』

 サクラが「エクストラ300LX」から降りると、一足先に下りたイロナと二人のクルーが揃ってお辞儀をしてきた。

『うん。 ご苦労様……って、イロナは一緒に来たじゃない』

『これは、一つのけじめです』

 イロナは、すました顔で立っている。

『……はぁ……まあ、いいや。 それじゃ、予定通りお願いね』

『分かりました』

 クルーは作業に入り、サクラはイロナと共に駐車場に向かった。




 駐車場には、Bチームの乗ってきたサクラのフォレスターが停めてあり、その横に縦横高さそれぞれ2メートル程のテントが立ててあった。

 サクラはそれに入ると、入り口のファスナーを留め、フライトスーツを脱ぎ始めた。

 そう……このテントは、着替える時に使うためにBチームにもって来させた物だった。




 数分後、ジーンズにTシャツ……胸の谷間付き……という、最近お決まりの姿をしたサクラが、テントから出てきた。

『終わったよ。 イロナも着替えるんだよね』

 外にはイロナが立っていた。

『ええ。 ちょっと待っててね』

 サクラの言葉に答えると、イロナはテントの中に入っていった。

「(……ふぅ……それにしても、暑いね……)」

 暦はもう9月になろうとしているのに、まだまだ秋は遠くて、アスファルトの上は「じりじり」と太陽に焼かれていた。

「(……日傘は無かったかな?……)」

 サクラは、フォレスターの後部ドアを開けて、中を覗き込んだ。

「あれー! サクラさん……」

 その後ろから、女性の声が掛かった。

「(……ん?……)」

 はて、誰だろうとサクラがフォレスターから頭を抜き出して振り向くと……

「……やっぱりサクラさんだ。 さっきの「エクストラ」ってサクラさんのだったんだよね」

 「きらきら」と瞳を輝かせた博美が、立っていた。




「あれがサクラさんの「エクストラ」だよね……」

 受付の行列に並んだ博美が、エプロンの反対側を指差した。

「……綺麗な色してる」

「ありがと。 最近色を付けたんだ」

 そう……以前は全面が銀色だったのが、今はその銀色の上から薄ピンク……桜色……の花びらのグラディエーション……段々と花びらの密度が増えていき、最後尾翼の部分はピンクになる……になっていた。

「へえー 自分で考えたの?」

「うん、アイデアはね。 仕上げたのは、実家にいるデザイナーだけど」

「そうなんだ。 良いね……」

「……あの……分かってますけど、名前と出身地区を……」

 二人の会話に、遠慮がちな声が割り込んだ。

「あ、ごめんなさい……」

 いつの間にか二人は、受付している係員の前に来ていた。

「……シードの加藤博美です」

「はい、OKです。 隣でステッカーを受け取ってください」

「ちょ! ちょっと待って。 博美って秋本じゃなかったっけ?」

 簡単に流される会話を、サクラが聞きとがめた。

「ん? 加藤で良いんだ……」

 博美は、はにかんだ笑顔を見せた。

「……えへへ、実はね……入籍しちゃった」

「ええーーーー!」

 サクラのソプラノが、エプロンに響いた。




 「アルフィナ」と「ミネルバ」を抱えた加藤と森山を従えて、博美とサクラ、そしてイロナは機体検査の列に居た。

『さっきは驚いたわよ、あんな大きな声を出すんだもの……』

 サクラの横でイロナは、まだ息が上がっている。

『……襲われたかと思ったわ』

 そう……サクラの声を聞いて、テントの入り口のファスナーを引きちぎるように、イロナは飛び出してきたのだ。

 クルーの二人も走ってきて、三人でサクラの周りを固めたのだった。

『ごめん。 だって、博美が結婚したっていうんだよ。 驚くなって言うほうが無理だよ……』

 サクラは、後ろの加藤を見た。

『……早すぎるよね。 就職して、まだ半年も経ってない。 ちゃんと博美を守れるの?』

「サクラさん、なんて言った? ハンガリー語じゃ分からないぜ」

 自分に向かって言ったのだろうと想像は出来るが、流石に加藤は分からなかった。

「あ、ごめん。 えーっと……あなた、ちゃんと博美を守れるの? 責任は取れるの?」

 ちょっと頬を染めて、サクラは言い直した。

「ねえねえ、サクラさん……」

 博美が、サクラの肩を「つんつん」と突いた。

「……二人で話し合って決めたことだから。 心配しなくても大丈夫だよ」

「そうなの? でも、二人とも若いよ……」

 サクラは、博美を見た。

「……後悔しない?」

「うん、絶対後悔はしない……」

 博美は、大きく頷いた。

「……でも……若いって、サクラさんも十分若いよね。 私より一つ下じゃなかったっけ? まるで年上みたいな言い方だね」

「……そ、そうだっけ?」

 つい自分の……今の……年齢を忘れてしまう吉秋サクラだった。




「ねえ、サクラさん。 これからどうするの?」

 無事機体検査も終わり、全員でチームヤスオカのタープの下に帰ったとき、博美が尋ねた。

 加藤と森山は、機体を分解して車に積み込んでいる。

「ん~ 特に予定は無いけど……」

 首を傾げて、サクラはイロナを見た。

『……予定は無いよね?』

『ええ、特に決めたものは無いわ……』

 イロナは頷いた。

『……どこか観光でもしようかな、って言ってたわね』

『だよね……』

 サクラは、博美に向き直った。

「……やっぱり、何も予定は無いよ。 ただ知らない場所だから、観光でもしようかな」

「じゃさ、一緒にプールに行かない?」

「プール?」

 何だか場違いな単語に、サクラの声が裏返った。

「そ、プール。 近くの町にプールがあるんだ。 チームヤスオカって、大会の前にプールで泳ぐんだよ」

「おいおい。 誰がそんな事を決めたんだ? 何となく、いつも行ってるだけだろうが」

 車の中から加藤が、顔を出した。

「良いじゃない。 それにさ……」

 博美は加藤の側に近づいた。

「……サクラさんの、あの胸が見られるんだよ。 嬉しいでしょ?」

「バ、馬鹿。 そんな事、あるはず無いじゃないか」

 大急ぎで否定しながらも……加藤は、ついサクラの胸に視線を向けてしまった。




「サクラさん、こっちだよ。 それじゃ康熙くん、先に行っててね」

 プールの受付で料金を払い、博美は先頭に立って更衣室への通路を進んだ。

「うん。 ちょっと待ってて」

『サクラ、先に行ってて良いわよ……』

 イロナは、二人分の料金を支払っていた。

『……すぐに行くから』

『ん。 それじゃ行っとくね』

 サクラは、博美を追いかけた。




 サクラがドアを開けると、そこは片側に水着の掛かった部屋だった。

「あ、サクラさん。 これがレンタルの水着だよ……」

 一足先に博美は、掛かった水着を吟味している。

「……競泳用の水着しかないけど」

「そうなんだ……サイズあるかな?」

 そう……日本人でないサクラは身長が高く、バストもヒップも大きいのだ。

「そうだねー サクラさんって大きいから……」

 博美は自分のを探すのをやめ、サクラに合いそうな水着を探し始めた。

「……この辺? 大きなサイズがあるよ」

「ありがと。 探してみるね」

 そこには、2Lや3Lの水着が掛かっていた。




『はい、これを履いてね』

 遅れて追いかけてきたイロナが、サクラに包みを渡した。

『これ何?』

 首を傾げながら、サクラは取りあえず受け取った。

『アンダーショーツ』

『アンダーショーツ? 下着? 水着の下に付けるの?』

 何度か志津子と海に行ったのに、これまで付けた事が無かったサクラが、疑問に思うのも仕方が無いだろう。

『そうよ。 レンタルの水着を汚さないためと、万が一透ける生地だといけないから』

『そうなんだ……』

 サクラは、博美の様子を窺った。

 博美は、既に水着を胸の上に引き上げている所だ。

「……ねえ、博美もこれ付けてる?」

「ん? アンダーショーツ? 付けてるよ。 付けるように、って受付の所に書いてあるし……」

 博美は、胸の位置を調整した。

「……何となく、他人も使うのを……そのまま当てるのはね」

「そ、そうだね」

 サクラは、ショーツの入った包みを開けた。




「(……胸が苦しい……)」

 置いてあった中で一番大きな水着を持って来た筈だが……

「(……ウエストは緩いんだよな……)」

 日本人標準体型での3Lでは、サクラの「凸凹凸」が激しい体形には合わないところがあるようだ。

『サクラ。 ちょっと動かないで……』

 後ろからイロナの声がする。

『……もうすぐ終わるから』

『ん。 プールって面倒なんだね』

『仕方が無いわね。 ……はい、終わった』

『ありがと』

 正面の鏡には……スイムキャップに包まれて……久しぶりに首筋の露になったサクラが映っていた。




 イロナの押さえているドアを潜り、サクラは明るいプールサイドに出た。

「サクラさーん。 こっちこっち」

 小さな滑り台の付いたプールの前で、博美が手を振っていた。

 隣には、鍛えられた腹筋を晒した加藤が立っている。

「(……はぁ……良くお似合いで……)」

 二人は、まるでグラビアから抜け出したようで……あまり流行ってないプールの、その場所だけが輝いて見えた。

「はーい」

 気おされてばかりでは、どうしようもない。

 サクラは二人に駆け寄った。




「ね、揺れてるよね……」

 博美は、小さな声で加藤に言う。

「……眼福?」

「ぁぁ……じゃない!」

 一瞬肯定しそうになった加藤は、しかし直後に……博美の目を見て……それを打ち消した。

「サクラさん、って凄いプロポーションだよね。 スリーサイズって、幾つなんだろう? 知りたいよね」

 しかし博美の攻撃は、とどまるところを知らない。

「……そ、そう……んな事はないぜ。 なぁ……いい加減に許してくれないのか?」

 再び、加藤は危ないところで引き返せた。

「ん? 気になるんでしょ、サクラさんの胸……」

 博美は、加藤を「ジト目」で見上げた。

「……しっかり見てたもんね」

 そう……飛行場で、ついサクラの胸を見てしまった加藤を、博美はいじって遊んでいたのだった。




「二人で、何を話してた?」

 小声の話は、サクラに聞こえなかったようだ。

「え、ええと……そうだ、サクラさんってバスト幾つ? 100センチは超えてるよね」

「ば、ばか。 なんてこと聞くんだ!」

 突然の博美の質問に、加藤は慌てて彼女の腕を引いた。

「もう……痛いなー 良いじゃない、康煕君も知りたいでしょ?」

「ん? そこまでは無いかなー 95センチ位?……」

 サクラは、特に気にしてないようだ……

「……イロナなら100センチを超えてるよ」

 何故なら……イロナ、という大御所がいつも居るから。

「あ、そうなんだ。 大きく見えるけど、そんなもんなんだね……」

 博美は、横を向いて知らん振りをしている加藤の耳の側に、口を寄せた。

「……聞こえたでしょ。 95センチだって」

「わー 言うなよ……」

 加藤は、耳を塞いだ。

「……聞こえない、俺は何も聞こえないぜ」

『ねえ、いったい何を話してるの? Koukiは何で耳を押さえてる?』

 そこに胸を揺らして、イロナがやって来た。

「……っつ……」

 つい、と加藤はイロナの胸を見てしまい……

「痛っーー!」

 直後に悲鳴を上げた。

「康煕君のスケベ!」

 博美の指が脇腹に刺さったのだった。




「博美は何センチ?」

「んー 85センチ位かな。 サクラさんとは10センチも違うね」

「そうね。 私はアンダーが大きいから、どうしてもトップが大きくなるんだよね」

「そうなんだ。 カップサイズは?」

「Fだよ」

「んじゃ、アンダーは72センチ位かな」

「もうちょっと大きいと思う。 74センチかな? 博美は?」

「Cなんだ。 アンダーは69センチだから、Dでも使えるんだけどね」

     ・

     ・

     ・

「おまえらさ、いい加減に男の前でそんな話しをするのは止めてくれよ」

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