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紅い桜  作者: 道豚
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やっと ひこうきに のせてくれる

 ここでは「」で括られたセリフは日本語 『』で括られたセリフは日本語以外です。

 { }で括られたものは無線通信を表します


 周りが板塀で囲まれている露天風呂……

「(……はぁ~~~~~……)」

 サクラは背中を預けて、空を見上げた。

「(……疲れたナー 敦君にはああ言ったけど、やっぱり足がしびれたもんなぁ……)」

 手を伸ばして、サクラは脹脛に触った。

 動いたことにより、浮かんでいた乳房が「ゆらゆら」揺れる。

「おねえちゃーん」

 横手から声が聞こえたと思ったら……「バッシャーン」……

 さっきまで内風呂で体を洗っていた志津子が走ってきて、湯船に飛び込んだ。

「だ、ダメだよ。 ここはプールじゃないんだから、シーちゃん」

 大波が起こり、サクラは慌ててふちを掴んだ。

「えへへへー 大きなおふろだねー……」

 注意された事など、まったく気にせずに志津子はサクラの前に来た。

 もう海に泳ぎに行ったのだろうか……水着の跡が付いた、凹凸の無い体を惜しげもなく空気に晒している。

「そうだねー シーちゃんは、温泉初めて?」

「初めてじゃ ないよー でも、これまではお母さんといっしょでないと 入っちゃいけなかったんだ」

 話しながら、志津子はサクラの横に座った。

「ふーん そうなんだー 一人だと危ないからかな?」

 縁を掴んでいた手を離し、サクラは肩までお湯に浸かった。

「あー おっぱい、しずんじゃった……」

 志津子がサクラの胸に手を伸ばした。

「……あれ? おゆのなかでは おもくないね。 なんで?」

「シ、シーちゃん。 くすぐったいよ」

 サクラは体を捻って、志津子の手から逃れようとした。

「にげちゃ だめー  ねえ、なんでうかぶの?」

 志津子はサクラの膝の上に乗ってきて、両手で左の乳房を掴んだ。

「そ、それはねー お湯より軽いからだよ。 ねえ、そろそろ離してくれない?」

「ええー うそだー こんなに大きいんだよ。 ぜったいおゆよりおもいよ」

 そう、それは志津子の両手から大きくはみ出している。

「本当だって。 人間はお湯より軽いんだよ……」

 サクラは、やんわりと志津子の手を払った。

「……見せてあげるから、降りて」

「んー どうやって?」

 首をかしげながら、それでも志津子はサクラの膝から降りた。

「見てて……」

 サクラは、お湯の中で体を伸ばした。

 浮力を受け、サクラの体が浮き上がる。

「……ね。 浮いちゃうでしょ」

「ほんとだ。 ねえ、上にのれるかなぁ?……」

 言うが早いか、志津子はサクラのお腹の上に乗ってきた。

「シーちゃん、だめ! ……モガ……」

 流石に、大きな胸の浮力を持ってしても志津子の体重は支えられず、サクラはお風呂の底に沈んでしまった。




『サクラ、大丈夫?』

 サクラの頭を伸ばした膝の上に乗せ、イロナはタオルを「パタパタ」振って風を送っている。

『うー まだ目眩がするよ……』

 ズレ落ちそうになったバスタオルを体に掛けて、サクラは右手を額に当てた。

 目を開けると、空を半分隠したイロナの、胸の膨らみが見える。

上気のぼせるなんて……らしくないわね』

 横の方からニコレットの声が聞こえた。

『だってー シーちゃんが遊ぶから……』

 サクラは、声のする方を向いた。

 ニコレットは、露天風呂の中から首を出している。

『……あれ? そういえば、シーちゃんは?』

『志津子もあなたと同じように、そこに寝てるわよ』

 ニコレットの指差す先には、由香子の膝で寝ている志津子が居た。




 ---------------------




 7月も半分を過ぎた朝……梅雨が開け、青空が広がっていた。

『……暑い……』

 既に太陽は高く登り、気温は30度に迫ろうとしている。

 そんな中をサクラは、丈の短いタンクトップにカットしたジーンズ……自分でショートパンツ程度に切った……という、ほとんど水着のような姿で格納庫に向け歩いていた。

『それは認めるわ。 けど……』

 横を歩いているイロナが、日傘をサクラに差しかけている。

『……そのジーンズは切りすぎよ。 淑女がそんなに脚を出すなんて』

『だってー こんなに暑いんだから……』

 サクラはイロナを見た。

『……イロナだって、胸の谷間が見えてるじゃない』

 そう、イロナもタンクトップなのだが……サイズが小さかったのか、胸の膨らみが半分ほど見えていた。

『胸は良いのよ。 胸は……』

 イロナは、胸を張って見せた。

『だったら脚も良いじゃない』

『脚はダメなの。 アピールしすぎ!』

『そんなー 理不尽だ!』

『……お嬢様、おはよう御座います』

『っえ!……』

 いきなり声を掛けられ、サクラは前を向いた。

 気が付くと、既に格納庫にたどり着いている。

 そして目の前には、整備をさせているクルーとメイドが並んでお辞儀をしていた。

『……お、おはよう。 そうだ……貴方達あなたたち、私の格好はおかしい?』

『い、いえ……お嬢様は、お美しく御座います』

 代表して、端の一人が答えた。

『そう……変かどうかを聞いたんだけど……』

 サクラは、返事をしたメイドを見た。

 見られたメイドは、顔を伏せてしまう。

『……ま、良いわ。 ねえ、イロナ……変じゃないって』

『貴方に意見を言える訳、無いじゃない。 彼らに聞くのは、間違ってるわよ』

 イロナは、ゆっくり首を振った。

『まあ、良いじゃない。 さあ、準備しよう』

 大きく開いた格納庫の扉から、サクラは入っていった。




 クルーから渡されたチェックリストを片手に、サクラはフライトスーツ姿で「エクストラ300LX」の周りを歩いていた。

「(……暑い……)」

 格納庫の中ゆえ、日差しは遮られているのだが……風が弱く、熱気が篭ってしまっている。

「(……ん! 問題になる所は、無いね……ふぅ……)」

 エンジンや各舵を確認してサクラは頷くと、手にしたハンドタオルで首を……伸びてきた髪は、後ろで縛っている……拭いた。

『……それじゃ、出して』

 そしてクルー達に指示をする。

『はい!』

 それを聞いて、全員が「エクストラ300LX」を押し始めた。




 エプロンに押し出された「エクストラ300LX」は、キャノピーの上にタープが張られた。

 そこにタンクローリーが近づく。

「どもー マイナミサービスでーす。 いつもので良いですかー?」

 運転席のドアが開き……30代だろうか……作業服の男が降りてきた。

「はい。 ABGAS 100LLです」

 いつの間に日本語が話せるようになったのか……クルーの内の一人が答える。

「わっかりやしたー 何リットル入れましょう?」

「ちょっと まって……」

 クルーは、タープの中に入っていった。

『……サクラ様。 何リットル給油しましょう?』

『100リットル。 主翼は左右に25リットル、胴体に50リットル』

 Metarを聞いていたサクラが答える。

『はい。 分かりました……』

 クルーは頭をさげるとタープから出た。

「……つばさ 右 左 25リットル どうたい 50リットル おねがいします」

 そして運転手に告げた。




「おねえちゃーん!」

 エプロンに元気な声が響く。

「はーい!」

 サクラは、走ってくる小さな姿に手を振った。

 誰が来てるのかは、声を聞いただけで分かる。

「おねえちゃん、おはよう」

「おはよう、シーちゃん……」

 そう、サクラの腰に飛びついてきたのは志津子だった。

「……早く着いたねー まだ準備中だよ」

「だってー やっと ひこうきに のせてくれるんだもん……」

 目を「キラキラ」させて、志津子はサクラの顔を見た。

「……ようちえんに いくときより はやく おきたんだ」

「そうなのよ……」

 エプロンの入り口まで迎えに行っていたイロナと一緒に歩いてきた由香子が、サクラの前に来た。

「……もう、朝から……ううん、夕べから煩くて……サクラさん……」

「は、はい」

 くたびれた様子の由香子だが、その瞳はサクラを射抜くようだ。

 思わずサクラは畏まってしまう。

「……けして危ない事はしないでね。 聞いた話だと、吉秋(兄さん)は裏返しに飛んだらしいの」

「あの……それで、その吉秋さんは……」

 覚えのあることだが……ついサクラは聞いてしまった。

「もう、思いっきり叱ったわ。 あーー あの時の「ビンタ」の手応えは、癖になりそうだった。 ね、サクラさんは頬を腫れさせたくないわよね。 んーもっちもち」

「は、は、はい!」

 由香子の手が伸びてきて、動けなくなったサクラの頬に触った。




{『高知グランド JA111G エクストラ300LX』}

 エンジンをアイドリングで回しながら、サクラは管制を呼んだ。

{『エクストラ111G 高知グランド ゴーアヘッド』}

{『高知グランド エクストラ111G リクエスト 使用滑走路へのタキシー』}

{『エクストラ111G 高知グランド 滑走路14へのタキシー許可』}

{『高知グランド エクストラ111G 了解 RW14へタキシー』}

「うわー おねえちゃん かっこいい!」

 交信を静かに聞いていた志津子が、無線が終わった途端大声を上げた。

「そ、そう?」

 サクラは首を傾げながらも、スロットルレバーを進めた。

 エンジン音が大きくなり「エクストラ300LX」は動き始める。

「そうだよー いまのは えいごでしょ。 すごくきれい。 がいじんさんみたい」

 志津子は、サクラが日本生まれでない事を、忘れているようだ。




{『エクストラ111G 高知タワー クリヤード フォー テイクオフ』}

{『高知タワー エクストラ111G クリヤード フォー テイクオフ』}

 特に着陸してくる飛行機も無かったのか……サクラたちが滑走路端に着いた途端に、離陸許可が出た。

 サクラは機体を止める事無く、滑走路に進入させた。

「くりやーど ふぉー ていくおふ ってなに?」

 管制とサクラが同じことを言ったので、志津子はその部分のみ聞き取れたようだ。

「ん? えーっとね……チョッと待って……」

 サクラは滑走路のセンターラインに機体を合わせようと、左ラダーペダルの先を踏んで左のブレーキを掛けた。

「……えと……クリヤーって言うのは、邪魔な物が無いって事で……テイクオフが離陸なんだ……」

 機体がセンターライン上に着いた。

 回転するプロペラ越しに、黒い舗装の滑走路が遠くまで続いているのが見える。

 サクラは両方のブレーキを掛けて、機体を止めた。

「……だから全部で、離陸するのに邪魔な物は無いよ、って事……」

 ブレーキ踏む足に力を込め、操縦桿スティックをお腹に付くまで引き、サクラはスロットルレバーを最大に進めた。

「ゴーーーー…………」

 エンジンは唸りを上げ、機体は「ビリビリ」と震えた。

「(……ん! OK……)」

 計器をザッと眺め、異常の無い事を確かめると、サクラはスロットルを手前に戻す。

 再びエンジンはアイドリングになった。

「……と言う訳で……シーちゃん、離陸するよ」

「はーーっい!」

 志津子の元気な返事と共に「エクストラ300LX」は、猛然と滑走路を走り始めた。




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