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紅い桜  作者: 道豚
120/147

キングシティからキャンプ地への飛行

 ここでは「」で括られたセリフは日本語 『』で括られたセリフは日本語以外です。

 { }で括られたものは無線通信を表します。


 エプロンに止めた「ミクシ」の中にサクラは居た。

 前席にはメイが収まっている。

『それじゃ、後は頼んだわね……』

 サクラは、機体の横に立っているメイド姿のジルを見た。

『……イレムも残るから、心配は無いよ』

『はい。 いってらっしゃいませ。 お帰りをイレムと共に待っております』

 ジルは、深くお辞儀をした。

 さて……どういう事か。

 つまり、サクラはレースに向けてのキャンプに参加するため、これからアリゾナ州に向かうのだ。

 他のメンバーは「サイテーション・サクラ」で追ってくることになっていた。

 と言っても、目的地には「ミクシ」の方が後に着くだろう。




 リゼとイレムが離れたことを確かめ……

『クリヤー!』

 サクラは、キャノピーについた小窓から外に宣言してキーを捻った。

「ウィ・ウィ・ウィウィ……ズドドドドドド……」

 森山の調整したエンジンは、軽いクランキングで始動した。

「(……ミクスチャー、リッチ……アイドル……)」

 始動に際してやや薄目だった混合気を戻すと、そのまま少し待つ。

「(……オイル温度、圧力。 シリンダー温度……オールグリーン……)」

 サクラの目の前で、エンジンの状態を表す計器が全て許容値に収まった。

「(……よし……)」

 サクラはゆっくりスロットルレバーを前に倒した。

 スロットルの動きに合わせ、タコメーターの針がゆっくり上がり……

「(……1750……ここで良いな……)」

 サクラは、ハーフスロットルの位置にレバーを置いた。

「(……マグネトーR……)」

 Bothにあったマグネトーのスイッチを、サクラはRに切り替える。

「(……ん。 100回転落ちか……)」

 タコメーターの微妙な変化を読み取り、サクラは再びスイッチをBothにした。

 少し待ち、今度はスイッチをLに切り替える。

「(……ん、100回転落ちだ……OK……Bothにして……アイドル……)」

 あまり長く通電しないでおくと、プラグが汚れてしまう。

 サクラはサッサとBothに切り替え、スロットルレバーをアイドリングの位置にした。

『それじゃメイ、行くね』

 森山のおかげで、今日も「ミクシ」は良い調子だ。

 サクラは、前席にいるメイにインカムで伝えた。

『ああ、OKだよ。 途中の天候も問題ない』

 今日のメイはナビゲーター役なので、目的地のアリゾナ州バグダッドまでの天気を調べていたのだ。

『了解……』

 サクラは、スティックについているスイッチを押して、ATCに繋いだ。

{『……KICトラフィック N821CG 「エクストラ330LX」 離陸のためタキシー RW29』}

 スロットルを開かれた「ミクシ」は、スルスルと走り出した。




『KICトラフィック N821CG 離陸する RW29』

 滑走路の端まで誘導路を走ってきたサクラは、一旦停止するとATCに宣言した。

『KICトラフィック HA-SKL サイテーションX タキシーRW29』

 どうやら「サイテーション・サクラ」も出発するようで、ローザの声で無線が流れてきたが……

 それきりATCは沈黙した。

「(……誰も飛んでないね……)」

 離陸に支障ないと判断して、サクラは「ミクシ」を滑走路に侵入させた。




『……Vr』

 メイの声を聴いてサクラは、それまで押していたスティックを少し引いた。

 「ミクシ」のメインギヤが滑走路から離れる。

 サクラはそのまま殆ど上昇させずに加速させた。

「(……110ノット……よし……)」

 いつも上昇に使う速度に達して、サクラはスティックを引いた。

 「ミクシ」は、機首を上げて上昇を始めた。




 サクラは操縦桿スティックを左手に持ち替え、右手でサイドにある「エレベータートリム」のレバーを調整した。

「(……よっし、こんなもんかな……)」

 ある所で、スティックを引く力が要らなくなる。

 これでずっと力を込めてなくても、「ミクシ」は110ノットで飛行するようになった。

「(……2400rpm……)」

 再び右手でスティックを握り、左手でスロットルとプロペラピッチを調整する。

 いつまでもフルパワーでは、エンジンをオーバーヒートさせてしまう。

 このライカミングエンジンは……フルパワーではプロペラを2700rpmで回せるのだが……それは5分以内に制限されていた。

「(……ブーストポンプOFF……)」

 そして、上昇姿勢の安定したことを確認して、サクラは電動ポンプを止めた。

 パワーを絞ったせいで、それまで毎分2600フィートで上昇していた「ミクシ」は、上昇率を2200フィートに下げていた。




{『オークランドセンター N821CG「エクストラ330LX」 KKICから西に1マイル 1500フィート フライトフォローニングを頼む』}

 左にぐるっと周り、下にキングシィティの街並みが見える辺りでメイは……長距離を飛ぶので……ATCにフォローを要請した。

 有視界飛行(VFR)で行くつもりだが、こうすればレーダーのアシストを受けることが出来る。

{『エクストラCG オークランドセンター スコーク4464』}

 管制官からの連絡はすぐに来た。

「(……スコーク4464、っと……)」

 それを聞いて、サクラはトランスポンダの摘まみを回した。

{『エクストラCG オークランドセンター レーダー補足 KKICから南西に1.5マイル ALT2000 高度計補正 3022』}

 無事にレーダーに映ったようだ。

{『オークランドセンター エクストラCG 了解』}

「(……高度計3022、っと……)」

 メイの返信を聞きながら、サクラは高度計の中にある小さな窓に表されている数字を3022にした。

 これは当地の地上付近の気圧……実際は、測定値を海面高度に換算した値……を水銀柱の高さで計ったもので、単位はインチの100倍だ。

 こうして逐一補正をしておかないと……高度計とは、結局気圧計なので……狂った高度で飛ぶことになってしまう。

『ヘディング125度だっけ?』

 サクラは、インカムのスイッチを入れた。

『それでいいよ。 0CA9まで』

 メイの返事を聞いて……

『了解』

 サクラはコンパスについたマークを、125度の位置にセットした。




 離陸して30分ほど経った。

 「ミクシ」は、高度7500フィートをIAS(対気速度)150で飛んでいた。

 割と遅い……何故なのか?

 つまり……高度が上がると、空気は薄くなる。

 薄いため、ピトー管で測定する動圧が低くなってしまうのだ。

 それを修正した速度にTAS(真対気速度)というのがあるのだが、「ミクシ」にはそれを計算してくれる計器が付いてなかった。

 それでも、そんなものだと……サクラは納得して飛んでいるのだった。

 ちなみに、GPSを使ってGS(対地速度)を出す計器は……実はこっそりと前席に積んでいるのだが、それは165ノットを示していた。

 また、過給機が付いてないので、エンジンのパワーも下がっている。

 そんなこんなで……「ミクシ」はのんびりとサンタモニカを目指していた。




『そろそろ0CA9かな?』

 あまり変わり映えしない景色……皴のある台地に挟まれた、高速道路の通っている谷間……「ミクシ」は、その高速道路に沿って飛んでいた。

{『エクストラCG オークランドセンター 124.15でロサンゼルスセンターと交信せよ グッデー』}

 前触れもなく、ATCから無線が入った。

「(……おわっ! びっくりしたな~……)」

 どうやら管制空域が変わるらしい。

{『オークランドセンター エクストラCG 124.15でロサンゼルスセンターと交信 グッデー』}

 驚いているサクラをよそに、メイは落ち着いて返信をしている。

『サクラ。 周波数を124.15に変えてくれる?』

 無線機の調整は後席にあるので、メイがインカムでサクラに言ってきた。

『OK。 124.15だね』

 サクラは左手にスティックを持ち替え、右手で無線機のボタンを押した。

「(……124.15、っと……)」

『はいOK。 切り替えたよ』

『ありがとう』

 メイは、律儀にお礼を言うと……

{『ロサンゼルスセンター エクストラCG ALT7500』}

 早速ロサンゼルスに通信した。

{『エクストラCG ロサンゼルスセンター 高度計補正3022 そのままコースを飛べ』}

 オークランドから連絡は行っていたのだろう、直ぐに……しかし、ちょっと上から目線の通信が来た。

{『ロサンゼルスセンター エクストラCG 了解』}

 メイも、ちょっと「むっ」としたのか、いつもに比べてぞんざいな返事を返した。




{『アメリカンAA2882 ロサンゼルスセンター 127.1でロサンゼルスセンターと交信』}

{『ロサンゼルスセンター アメリカンAA2882 127.1了解』}

{『スピリットNK267 ロサンゼルスセンター 119.05でロサンゼルスセンターと交信』}

{『ロサンゼルスセンター スピリットNK267 119.05に変更』}

     ・

     ・

     ・

 かなり空域が混んでいるようで、次々と無線が飛び込んでくる。

「(……はぁ……皆大変だねぇ……)」

 サクラが、他人事のように思っていると……

{『エクストラCG ロサンゼルスセンター 119.05でロサンゼルスセンターと交信せよ グッデー』

 例外なく、こっちにも無線が飛んできた。

{『ロサンゼルスセンター エクストラCG 119.05 グッデー』}

 メイは、待ち構えていたように返信をした。

『メイ。 119.05に変えたよ』

 慣れたもので、サクラはサッサと周波数を切り替えた。

『ありがとう』

{『ロサンゼルスセンター エクストラCG ALT7500』}

{『エクストラCG ロサンゼルスセンター 高度計補正は3022 そのまま飛行を継続して』}

 今度の管制官は、丁寧な口調だった。

『ねえメイ。 管制官ってさ、いろんな人がいるよね……』

 サクラは、インカムで話しかけた。

『……口調一つとっても、乱暴だったり丁寧だったり……さっきの上から目線は、ちょっと気になったね』

『ああ……そうだね。 あれはダメだね、交代して良かったよ。 でなかったら、僕はヴェレシュに報告するところだった』

 サラッとメイは、物騒なことを言う。

『メイ……貴方……随分とヴェレシュに染まってない?』

『そうかな? でも……サクラが乗ってるんだよ。 上からものを言うなんて……何様か、ってね。 大統領でもあるまいし』

『ちょと、ちょっと……それは大袈裟』

 あまりの言い草に、サクラの声は引き攣った。




 サクラ達はアリゾナ州のキャンプ地に行くのに、サンタモニカを中継して飛んでいきます。

 サイテシーションで行くクルー達は、キングシティから直接キャンプ地に飛ぶので……巡航速度が早いのも合わさって……先に着いてサクラを待つことになります。

 ま……早い話が、久しぶりのデートです。

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