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紅い桜  作者: 道豚
110/147

「ルクシ」と「アルフィナ」

 ここでは「」で括られたセリフは日本語 『』で括られたセリフは日本語以外です。

 { }で括られたものは無線通信を表します。


{「……博美。 これから離陸するよ」}

 片耳につけたイヤホンから、エンジン音と共にサクラの声が聞こえた。

{「ハイ、こちらもOKです」}

「桧垣さん。 お願いします」

 送信機の裏に貼り付けたスイッチを小指で押し、胸に付けたピンマイクに返事をすると、博美はエンジン始動台で「アルフィナ」を支えているクラブ員に合図をした。

「OKか?……んじゃ、行くぜ」

 桧垣は「アルフィナ」を持ち上げて滑走路に運んでいった。




「さぁて……どんな具合かな?」

「本当に出来るんか?」

「距離が違うからな……同じように飛べるのかな?」

     ・

     ・

     ・

 いつの間にか、博美の後ろにクラブ員達が集まっていた。

「如何でしょうね?……」

 離陸位置に置かれた「アルフィナ」を見ながら、博美は首を傾げた。

「……サクラさんは、できるんじゃないか、って言ってましたけど」

「それにしても……よく考えられるよな。 実機とラジコン機の編隊飛行、しかもエアロバティックなんて」

 そう……今日サクラが此処に来たのは、世界選手権でのデモ飛行で「実機とラジコン機の編隊エアロバティック」をしようと博美に提案したためだった。

 勿論、大会期間中に博美は勝手に飛ばせないので、これは大会終了後、最後のデモ飛行時に行うことになる。

「そうですねー 私じゃ、とても考え付かない事です。 でも、これって……私への技術要求がハンパ無いんですけど」

 そう……サクラからはラジコン機は見えないので、博美が「ルクシ」を見ながら「アルフィナ」を合わせなければいけなかった。




 川上から「ルクシ」が低空を飛んできた。

「( ……ん! 割と同じくらいの速度で飛ぶんだ……)」

 「ルクシ」のエアロバティックをする速度は、「アルフィナ」の2倍程度だ。

 そして今は「アルフィナ」の飛ぶ距離の2倍程度の所を飛んでいる。

 そのため見た感じは、同じくらいの速度に見えるのだった。

 ただ「ルクシ」は「アルフィナ」の4倍程の大きさがある。

「(……位置をずらさないと「アルフィナ」が見辛いな……)」

 そう……背景を「ルクシ」にしてしまうと「アルフィナ」の動きが……背景との位置関係が変わらない事になるので……分からなくなる可能性があった。

「(……上にずらそう……)」

 博美は「アルフィナ」の高度を上げた。




{「……サクラさん。 今センター」}

 雑音の中に、博美の声がヘッドセットから聞こえた。

{「センター OK!」}

 サクラからは、飛行場から如何見えているか分からない。

 その為、博美が機体の位置を知らせてくれるのだ。

「(……10秒飛んで……)」

 最初の演技は、センターを過ぎてから始める。

{「……バラフライ……ナウ!」}

 サクラは、演技……オリジナルの演技……を始めるタイミングを博美に教えて……

「(……くっ!……)」

 スティックを引いた。




 「ルクシ」が、鋭く機首を上げ始めた。

「(……んっ!……G、キツイ……)」

 サクラからの無線を聞いて構えていたのだが、意外に急な姿勢変化に博美は慌てた。

「(……ふぅ……こんなG掛けて、サクラさん大丈夫なのかな?……)」

 そう……博美ほど飛ばせる者は、たとえ無線操縦で直接体に感じなくても、機体に掛かる加速度が分かるのだ。

 今は垂直上昇中なのでGは掛かっていない。

 数秒も上っただろうか……「アルフィナ」には余裕があるが「ルクシ」は、段々と上昇速度が遅くなってきた。

 博美は、それに合わせてスロットルを少し絞るが……

{「……サクラさん、そろそろ上のフレーム……」}

 どうやら速度を失ってしまう前に、高度の上限に達するようだ。

{「了解。 引くね」}

 「ルクシ」は、ゆっくりと背中側に向きを変え始めた。




 左翼端に付けたサイティングデバイスが、背面で45度の降下をしていることを示していた。

{「……センター!」}

「(……んっ!……)」

 博美の声がヘッドセットから聞こえ、サクラはスティックを左に倒し、すぐに中立に戻した。

 正面斜め上に見えていた川面かわもが「くるり」と回り、斜め下に見えるようになった。




 博美は、マイクのスイッチを押した。

 サクラの「ルクシ」と博美の「アルフィナ」は、45度で降下しながらフレームのセンターに近づいていた。

{「センター!」}

 博美がマイクに吹き込むと……

「(……ぅわ!……早い……)」

 「ルクシ」は間髪を入れずロールを始めた。




 水面が近づいてくる。

「(……傾いてないね……)」

 サクラは、素早く左右を見て主翼が傾いてない事を確かめた。

{「……サクラさん、引いて」}

 博美の声が聞こえた。

{「OK!」}

 返事をして、サクラはスティックを引いた。

「(……くぅぅぅぅぅ……)」

 途端にGがサクラを襲う。

「(……ぅぅぅ……まだ……まだ……)」

 45度の降下から垂直上昇まで、「ルクシ」は機首を上げていく。

 それをサクラは、左翼端のサイティングデバイスで確かめ……

「(……よし!……)」

 垂直になった瞬間、スティックを中立位置に戻した。




 再び「ルクシ」と「アルフィナ」は、仲良く垂直に上っていた。

「(……やっぱり実機はパワーが足りないんだ……)」

 聞こえるエンジン音は、「ルクシ」が精一杯のパワーを出しているのを表しているのだが……

「(……段々パワーを絞らないと「アルフィナ」が先に上がっちゃうもんな……)」

 そう……速度を合わすために、博美はスロットルを調整しているのだった。




「(……くっ!……もっとパワーが欲しい……)」

 「ルクシ」の速度が落ちてきて、重い機首を上に向けておくのが難しくなってくる。

 サクラはサイティングデバイスを見ながら、必死になってラダーペダルとスティックで「ルクシ」を垂直に保っていた。

{「……サクラさん、フレーム……」}

 やっと博美から無線が入った。

{「OK」}

 ホッとして、サクラはスティックを優しく引いた。

 「ルクシ」は後ろに向かって倒れていく。

「(……もうチョイ……もうチョイ……)」

 サイティングデバイスの45度のバーが水平線に……実際に見えるのでなく、仮想線……重なった時……

「(……よし!……)」

 サクラは、スティックを押して「ルクシ」を45度降下姿勢にした。




「(……うわー……よく、あんな速度から丸くループできるな……)」

 「ルクシ」に合わせて「アルフィナ」を飛ばしながら、博美はサクラの腕前に感心していた。

 そう……ほとんど止まったように見えたのに、「ルクシ」は綺麗な円を描いて45度降下を始めたのだ。

「博美ちゃん、よくそんな速度で丸くループができるよな」

「そうだぜ。 ほとんど止まってたじゃないか」

 もっとも……後ろで見ていたクラブ員からすれば、博美の操縦技術も「とんでもない」ものだった。




{「……センター……」}

「(……ぃやっ!……)」

 博美の声を聞いた途端、サクラはスティックを左前に倒し、右ラダーペダルを蹴り……

「(……くっ!……)」

 次の瞬間、スティックを中立にして左ラダーペダルを一瞬蹴った。

「(……ふぅ……)」

 「ルクシ」は鋭く「1/2 ネガティブ スナップロール」をして背面から正面飛行に移った。




「(……負けた……サクラさん、スナップロール速すぎ……)」

 「ルクシ」を追って「アルフィナ」を降下させながら、博美は呆れていた。

 そう……同じタイミングでスナップロールを始めたのに、終わったのは「ルクシ」が早かったのだ。

「(……っと……下のフレームに来ちゃう……)」

 ウカウカしてはいられない。

{「サクラさん。 フレーム」}

 博美は、通話ボタンを押してマイクに吹き込んだ。




 正面に見える景色が、ゆっくりと回っている。

「(……ラダー踏んで……少し押して……)」

 「ルクシ」は今、スローロールをしていた。

{「……今センター……」}

 博美の声がヘッドセットから聞こえる。

「(……ん? チョッと遅い?……)」

 フレームのセンターで、丁度背面姿勢になるべきなのに……「ルクシ」は、まだ傾いていた。

「(……少し足す?……)」

 今更ロール速度を上げたとしても、既にセンターを通過しているわけで……

「(……ま、しょうがないか……)」

 もう、どうしようもなかった。




 高い位置で「ルクシ」と「アルフィナ」は、仲良く並んで飛んでいた。

{「サクラさん、そろそろ速度を落としましょう」}

{「……了解……」}

 博美の声に返事が返った。

 途端に「ルクシ」のエンジン音が小さくなる。

「(……わ! 減速が早い……)」

 すると、見る見るうちに「ルクシ」の速度が落ちた。

「(……「アルフィナ」ちゃんの減速が間に合わないよ……)」

 博美もスロットルスティックを一番下にしたのだが、「アルフィナ」は「するする」と前に出て行く。

{「サクラさん……もっとゆっくり減速して」}

 仕方なく、博美はマイクのスイッチを押していた。




 「ルクシ」の速度が、段々と遅くなってくる。

 サクラは機首が下がらないように、スティックを引く量を増やした。

 やがて59ノット(時速109キロ)になった時……

「(……ストール!……)」

 ついに「ルクシ」は失速して機首を落とした。

{「スピン!」}

 かさずサクラは、右ラダーペダルを蹴った。




{「……スピン!」}

 イヤホンからサクラの声が聞こえた瞬間……

「(……えいっ!……)」

 博美は、エルロンとラダーを右にイッパイ倒した。

 既に左スティックは手前に引ききっていて、「アルフィナ」は失速寸前の状態だった。

 つまり、当然の様に「アルフィナ」はスピンに入った。




 機首の先で、「くるりくるり」と川面かわもが回る。

「(……一回……二回……)」

 サクラは、回転数を数えていた。

「(……三回……半!……)」

 そして三回半回ったとき……

「(……左ラダー!……スティックニュートラル……)」

 右を踏んでいたラダーを左に踏み換え、引いていたスティックを中立の位置に戻した。

「(……よし! 止まった……)」

 「ルクシ」は1/2回転回って垂直降下姿勢になった。




「(……1……2……3……)」

 「くるくる」と回りながら落ちてくる「アルフィナ」を、回転数を数えながら博美は見ていた。

 その向こう側には、同じようにスピンをしている「ルクシ」が見えている。

「(……4!……)」

 丁度4回転したとき、博美はスティックを全て中立にした。

 「ピタリ」と回転を止め、「アルフィナ」は垂直降下を始めた。




{「如何だった?」}

 「ルクシ」を水平飛行させながら、サクラは博美に尋ねた。

{「……ん~~ 難しい。 結構、ラジコン機と実機は機体の反応が違うんだねー 特に速度の変化が違うから、合わせるのが大変」}

 博美は、「アルフィナ」を「ルクシ」と同じように水平飛行をさせている。

{「燃料は、まだ残ってる? 「ルクシ」は、残ってるけど」}

{「……ん! 残ってるよ。 もう一度やる?」}

{「そうだね。 もう一度やってみようか」}

{「……やろう、やろう」}

 「ルクシ」と「アルフィナ」は、仲良く旋回をした。




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「ただいま」

 通勤に使っているスクーターをバイク置き場に停め、エレベーターで5階に昇った康熙は、部屋のドアを開け……

「旦那様、おかえりなさいませ」

 並んだメイドを前にして固まった。

「ひ・博美……サクラさんまで……あと……えっと……確かサクラさんのメイドさん……な、何してるんだ?」

 そう……それは博美たちだった。

「うふふ……似合う?……」

 博美は、メイド服の裾を持ち上げて見せた。

「……サクラさんから借りたんだよ」

「あ、ああ……似合ってるよ。 それで……なぜサクラさんが?」

「こんばんは。 遊びに来ました……」

 サクラは、ニッコリと手を広げ……

「……康熙、ハグしよう……」

 近寄ろうとしたが……

「ダメ! 私とするの!」

 横から博美に割り込まれた。




「博美、お風呂あいたぜ」

「ん! もう少しで食器が片付くから」

「ああ、俺がやっとくから、さっさと入りなよ」

「そう? それじゃお願いしようかな」

「しかし……美味しかったよな。 ハンガリー風の料理」

「そうだねー アンナさんって、料理が上手だね」

「博美も少し習ったんだろ?」

「そうだけど……ほんの「さわり」だから……もっと時間があったら良かったんだけどね」

「泊まっていけばよかったんだが……ま、しょうがないな。 サクラさん達は、明日には高知に帰るから」

「あれ? お泊りして欲しかった?」

「そうだな……」

「そうだよね。 康煕以外は、全員女だもんね。 ハーレムみたいだから……」

「ば、ばか言うな。 俺は博美しか見てねえよ」

「へぇー 如何だか……」

「本当だ!」

「それにしては……サクラさんの胸に視線が行ってたみたいだけど」

「……すまん……」

「ん! 素直でよろしい」

「サクラさん、気分害してなかったかな?」

「大丈夫だったよ。 サクラさんって、そんな事に疎いから」

「そうか……よかった」

「でも……ドーラさんが、分からないように康煕を睨んでたよ」

「うげ……それ、やばくないか? ドーラさんって、武術をするんだろ?」

「知らないけど……割と鍛えてるって感じがするよね」

「はぁ……泊まっていかなくて正解だったかな?」

「そうだね。 んじゃ、お風呂に入るね。 後よろしく」


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― 新着の感想 ―
[一言] 新旧主人公の空の共演、本番での成功に期待させて頂きます。 康熙君、羨ましいですよ。
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