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紅い桜  作者: 道豚
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「サクラ」の到着

 ここでは「」で括られたセリフは日本語 『』で括られたセリフは日本語以外です。

 { }で括られたものは無線通信を表します。


 スマートな機首から尾翼にかけて赤いウェーブラインの入ったビジネスジェットが、「ルクシ」の目の前の誘導路タキシーウェイを奥に向かって走って行った。

「(……HA-SKL……)」

 巨大なエンジンカウルに、レジナンバーが書かれている。

「(……やっぱり「サクラ」だったよ。 誰だろう?……)」

 サクラは、左後ろを見た。

『イロナ。 誰か来るって、聞いてる?』

『いえ……聞いてないわ……あらっ!……』

 イロナは、スマホを取り出した。

『……まって……今連絡が来たわ。 どうやら突然決まったみたいね。 私達が飛んでたから、メールが遅れたんだわ』

『あ、そうなんだ。 で? 誰が来た?』

 サクラは、サイテーションを追って歩き出した。

『うふふ……行けば分かるわよ』

 イロナも一緒に歩き始めた。




 サクラが追いついたときには、サイテーションは既にエンジンも止まっていて、機首からは階段が降りていた。

 その階段の下に居たのは……

『ニコレット!』

 そう……ふんわりしたワンピースを着た、ニコレットだった。

『サクラ!』

 呼びかけられて此方を向いたニコレットに向かって、サクラは駆け出した。

 そして……

『……久しぶり……元気だった?』

 両手を広げたニコレットに、サクラは飛び込んだ。

『ええ、元気よ。 サクラも、元気でやっているようね』

 サクラをハグしたニコレットは、優しく微笑んだ。




『ねえサクラ……』

 ひとしきりハグしあって、ニコレットは切り出した。

『……貴女、ちょっと肥った?』

『な、何を言い出すのかな?……』

 サクラは、ハグを解いた。

『……ちょっとだけだよ。 チョッとだけ……全部アメリカンサイズが悪いんだ』

『あら? 最近は、それを残さず食べるのは誰かしら?』

 イロナが、隣に来た。

『だ、だ、だって……残すのは勿体無いじゃない……』

 サクラは、ニコレットを改めて見た。

『……ニコレットだって、肥った? 胸が、以前より大きくなってるよね』

『ん? これは、アルベルトにオッパイをあげてるからよ……』

 ニコレットは、自分の体を見下ろした。

『……2サイズ位大きくなってるわ』

『あ、そうだよ。 バーティちゃんは? 置いてきちゃったの?』

 そう……ニコレットは、4月に出産して赤ちゃんが居るはずだ。

『まさか。 ちゃんと連れてきてるわ』

 ニコレットは、後ろを指した。




『久しぶりです、サクラ様……』

 小さな赤ん坊を抱いて「サクラ」から降りてきたのは、好好爺然とした男だった。

『……大分活躍しているようですね』

『え! ペーテルさん?……』

 それを見て、サクラは「ポカン」と口をあけた。

『……何故貴方が?』

『いやー オシュコシュは、来て見たかったんですがね……チャンスを頂いたので……』

 ペーテルは、赤ん坊をニコレットに渡した。

『……可愛い子ですね。 こんな爺に抱かれても、平然としてる』

『そうね。 誰に似たのかしら? 図太いわ』

 ニコレットは、アルベルトの頬に触った。

『ねえねえ、私にもバーティちゃん抱かせて』

『ええ、良いわよ。 はい』

 手を差し出すサクラに、ニコレットはアルベルトを渡した。

『わっ! 軽ーい……可愛い!……』

 サクラは、腕の中のアルベルトを覗き込んだ。

『……始めまして、私は叔母のサクラよ。 あら? 気に入ってくれた?……』

 アルベルトは、小さな手を伸ばしてサクラの頬に触れた。

『……可愛い! ん~~』

 サクラは、頬をアルベルトの頬に擦り付けた。




 サクラ達は、「サクラ」の中で寛いでいた。

『涼しいね。 外は、暑いから……』

 サクラの言う通り今は7月の下旬なので……昼に近づいた事もあり……気温は30度近くになっていた。

 それに対して「サクラ」の中は……補助エンジンによる空調のお陰で……すごしやすい気温に保たれていた。

『……バーティちゃんも、よく寝てる』

『そうね……』

 さっきまでアルベルトにお乳を飲ませていたニコレットは、服装を直してサクラの前に座った。

『……手が掛からない子で、よかったわ』

『それで? ニコレットの目的は?』

 サクラは、ニコレットに視線を向けた。

『大きく分けて、二つ。 一つは、貴女の体形の測定……』

 ニコレットは、サクラの体を見た。

『……前回トルソーを作ってから半年以上経つわ。 特にアメリカって、人を肥らせやすい国だから、そろそろ新しくしないとね』

『だから、そんなに肥ってないって……』

 サクラは、頬を膨らませた。

『……はぁ……まあ、いいや。 スキャナーを積んできてるみたいだし』

 そう……客室の後ろ側に、以前使ったボディースキャナーが積んであった。




『そして、もう一つ……』

 ニコレットは、ファイルを取り出した。

『……貴女の出たがってる「レース」の事よ』

『ん? 何か進展が有った?』

 そう……春先に会って以来、特に「レース」については、連絡が無かったのだ。

『準備は、それなりに進んでるわ。 それで……このオシュコシュなのよ……』

 ニコレットは、開いたファイルをサクラに見せた。

『……いいチャンスだから「レース」のデモ飛行をするわ』

『ふ~ん……それでペーテルさんが来たんだ。 なるほどね……』

 サクラは、ファイルを手に取った。

『……こういうコースを作るんだね。 ちょっと狭いけど……まあ、雰囲気は分かるかな?』

人事ひとごとみたいに言ってるけど、貴女も出るのよ……』

 ニコレットは、もう一枚資料を取り出した。

『……これが出場予定のリストね』

『え! 見せて……』

 サクラは、資料を取った。

『……ペーテル……ハンネス……マーティン……ナタリー……え!……』

 サクラは、顔を上げた。

『……ナタリーが出る? 彼女は、チャレンジクラスだったよね』

『ええ、そうね。 それはペーテルが人選したんだけど……やはり花が要る様よ。 それはサクラにも当てはまるわね。 それと……ペーテルは出ないわ。 地上で解説をするんですって……』

 ニコレットは、更にファイルを取り出した。

『……これが今後の予定よ。 水曜日にデモレースをするわ。 その前日の火曜日に貴方達選手は、離れた場所で練習プラクティスをすることになってる』

『ん、分かった。 これって、私は「レース」に出ることを認められた、って事なのかな?』

 サクラは、首を傾げた。

『その辺り、はっきり聞いてないけど……何か、試験? そんな事をペーテルは、匂わしてたわ』

 ニコレットは、サクラから資料を返してもらってファイルに纏めた。

『ふぅ……試験か……それじゃ、しっかり飛ばなくちゃ』

 サクラは、背凭れに体を預けて天井を見上げた。




 サクラは、イロナと二人「ルクシ」の所に戻ってきた。

「(……何だか、機体が増えてる……)」

 そう……着いた時には「ルクシ」意外、何も駐機してなかったのだが……

「(……あのシルバーの「エッジ540V3」は、ハンネスかな?……紺色でウイングレットが付いてるから、あれはマーティンの機体だ……っで、黒地にイエローラインは、ナタリーの「エクストラ330LX」だよな……)」

 今や、レースの出る機体のピットの様相を呈していた。




「(……何か、集まってる……)」

 「ルクシ」の周りに数人の男女が集まっていた。

「(……何してるんだろう?……)」

 訝しがりながらサクラが近づくと……

『……ハイ!……』

 その中の女性が一人声をかけてきた。

『……貴女、この機体の持ち主を知ってる? この場所は、私達レース関係者の駐機場所なんだけど……こんな機体は、誰も知らないのよ』

『いや……けれども、これで4機になるから……』

 男の一人が、横から口を挟んだ。

『……丁度良いんじゃ……って、貴女はサクラじゃないか?』

『お久しぶりですね、ソンカさん。 それと……其方はアルヒさんでしたよね』

 そう……そこに集まっていたのは、デモレースに出るパイロット……スポンサーの話をしたときのメンバー……だった。

『何々? マーティン……貴方、こんな若い美人さんと知り合い? 奥さんに言ってあげようかしら』

 最初に話し掛けてきた女性は、二人の顔を交互に見た。

 すこし顔が「ニヤ」ついている。

『よせよ。 彼女は、レースのメインスポンサーだ……』

 マーティンは、ゆっくりとかぶりを振った。

『……えっと……サクラ。 彼女はナタリー……ナタリー アストルだ』

『え! そ、そうなの? 失礼したわね。 私はナタリー……チャレンジクラスのパイロットよ』

 ナタリーは、慌てて右手を出した。

『いえ、気にしてませんよ。 私はサクラ……そうですね、確かに私がレースのスポンサーになってます……』

 サクラは、ナタリーの手を握った。

『……それと……私もチャレンジクラスに出たいと思ってます。 アストルさんは先輩ですね』

『あら、そう……それじゃ、この機体はサクラの物なのね。 だから「さくら」の花びらのラッピングなんだ』

 ナタリーは、サクラの手を握ったままで「うんうん」と頷いた。




『皆集まってるな……』

 サクラ達が輪になって話しているところに、ペーテルが来た。

『……丁度いいから、今後の予定を話しおく。 サクラ様も、いいですね』

『ああ、いいぜ……』

 ハンネスが、答えた。

『……にしても……サクラ、様……なんだな』

『そうね。 話してて分かったけど、彼女って……そんなお金持ち、って感じじゃないわ。 メインスポンサーだって言っても……「様」は付けなくてもいいんじゃない?』

 ナタリーは、頷いた。

『そうは、いかん。 サクラ様は、ハンガリーの……特にブダペストの名家のお嬢様だ。 世が世なら、とても対等に話が出来る存在じゃない』

 ペーテルは、激しく首を振った。

『ペーテルさん……』

 サクラは、ペーテルの肩を「トントン」と叩いた。

『……ここに居る時の私は、ただのパイロットであるサクラです。 「様」は付けずにお願いします』

『そうは言っても……』

『それで、お願いします。 ペーテルさんは、ハンガリー至高のパイロットです。 私のような若輩のパイロットには、とても手の届かない高みにいるんですから……敬称は無しでお願いします』

 ペーテルを遮って、サクラは言った。

『分かりました。 サクラ、と呼ばせていただきます』

 ペーテルは、頷いた。

『じゃ、さ……私のことは、アストルじゃなくてナタリーって呼んで』

『それなら、俺はハンネスで頼む』

『何だよ、皆んな……俺はマーティンだ』

 ここぞとばかり、皆が名前呼びをサクラに頼み出した。

『はい、良いんですか?』

 サクラは、びっくりして三人を見渡した。

『もちろん』

『それじゃ……ナタリー、ハンネス、そしてマーティン。 これからよろしくお願いします』

 サクラは、満面の笑みを浮かべた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 100話到達おめでとうございます。 出産後のニコレット、機体とサクラがスポンサーの大会の情報(予定)といつぞやの身体測定機器と共にサクラの元へ到着。
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